2-14 冬の日々2
今日から冬の上月3週目が始まり、今日の授業も終わり、俺とニック、トリアは1階で他の住人に交じって作業をしている。
ニックは雪式冷蔵庫の試作品、トリアはオーソドックスにハンカチーフ(未完)、そして俺は風車だ。
ニックが冷蔵庫なんて粋なことを考えていたため、俺の製作魂に火がついた結果、新作を作ることにした。
その新作が風車だ。
風車。風の運動エネルギーを回転運動へ変換し、無風地帯でもない限りあらゆる場所に対応可能な原動機。
日本人にとって有名どころはオラン○、プロペ○、山○、ロビンソ○の4種類かな?異論は認める。
現在の進捗具合だが、
ニックは木工に慣れていないためそこからの訓練だった。使う工具は俺の純木製工具を貸し出した。つまり秋にイースとした方法だ。2人はまだ魔術初心者なので行動しながら魔術を行使することはできていない、そのための処置だ。秋に1度やっているためコツが分かってるので教えるのはそこまで難しくなかった。それによく製作してるのを見て育ってきたためタイミングの取り方が上手かったのもあるだろう。
簡単な作品での練習から始まり、俺も冷蔵庫の部品作りを手伝いつつ今日、試作品が完成するだろうと言うところまできた。
冷蔵庫の構造自体は単純に雪室の小型版で、雪を入れる場所と物を入れる場所の間に網の目状に組んだ仕切りをした構造だ。あとは実験を繰り返して改良を重ねることになる。
トリアの裁縫の授業は、あまり奇をてらったものは俺が教えられないため、オーソドックスなハンカチーフとなった。しかし糸から紡いで作るためかなりの作業量だ。
そのためトリアには糸巻き棒での糸紡ぎを数日間させて、そのあとうちでひそかに置いている糸車(2人は子ども部屋によく来るため知っているし、口止めも済んでいる)を使わせてスピードアップを試みた。ある程度糸が貯まってきたらトリアが布織りに移行し、俺が手伝いとして糸車で糸を紡いだ。
現在は刺繍に取り掛かっているため俺に出来ることはない。
俺は2人に教えることや手伝うことがが少なくなってきたあたりから、ミニチュア風車のための材料を切りだしていた。
最初に製作しようと思っているのはオラン○風車だ。この風車は現在では観光用だが元々の用途は揚水だったはずだ。風車の接続先として思いつく限りでは、まだ作ってないが手押しポンプか臼なので用途的に丁度良いだろうと思い最初に製作することにした。
次に名称を知らないが筒を縦に割ってずらした形の風車と、オラン○風車よりかなり翼の多い風車、本来なら布を翼を使うんだっと思うがミニチュアなのでカンナ屑で代用しようと思っている風車の計4種類のミニチュア風車を作る予定だ。
俺達が作業を続けていると、
「ウィル、お前何作ってんだ?」
声の方へ顔を向けると、ライルが立っていた。手には家具の材料と思われる木材を持っていた。
「あーライルかー。今日は遅いご登場だね」
「昼まで外に出ていたからな」
「そうなんだ。それでボクが何を作ってるかって話だよね。ズバリこれは・・・・オモチャ?ですか?」
風車は完成するまでお楽しみだ。それにミニチュアって構造模型以上の価値がないからオモチャと言っても間違いではないはずだ。と思われる。
「知らん。何で作ってるお前が分かってねーんだよ」
的確なツッコミだ。
「いやーはっはっは、説明がめん、難しいから完成してからのお楽しみにしといてよ」
「今説明が面倒って・・・・
「ん?何を言ってるの?いくら説明が面倒だとしても本人の前で言わないくらいの分別は持ってる気がするよ」
「・・・つまり持っていないと」
「見解の相違だね。持ってない可能性もあるってだけさ。まあ使うかどうかは別だけど」
「つまり俺には使う気がないと言う事でいいんだよな」
「うん」
「・・・で、何を作ってるんだ?」
「はぁー。最近ノリがわるくなったね」
「お前の言う事の半分はテキトーだからな」
「うん知ってる」
まったくー。最近は耐性がついて俺は悲しいよ。
「はいはい」
「ぞんざいだなー。でも何を作ってるかってことだけどやっぱりオモチャってのが適当かな」
「オモチャかー。ここまで戻って来るのにえらく遠回りしたな」
「そうだね。まったくライルって人にも困ったものだよ」
ヤレヤレだ。
「いやお前だからな」
「コラ。こんなテキトーな挑発に乗るなよ。流せよ、話が進まないだろ」
そんなこんなでいつものライルとの会話も終わり、春市の出品物が集まるときに互いに完成物を見せ合うことになった。俺が思ってた着地点とは違うがいつかはお披露目さす気だったから丁度良い。他の人の目に俺たちの作品がどう映るか審査してもらおう。
ミニチュア風車の翼が1枚完成しようとする頃、
「よっしゃ、終わったー」
ニックの冷蔵庫が完成したようだ。
「ウィル完成したよ」
「ニックおつかれさま、実験はどうする?後日に回してもいいけど?」
「今日実験する。早く外行こう」
「分かった分かった。トリアはどうする?ここで続けててもいいけど、実験に付き合ってくれてもいいよ?」
「・・・行く・・・・」
「じゃあ2人とも防寒着と雪をすくえる物を持ってここに集合ね」
俺が家に帰って外套と桶を持って戻ると2人はもう戻ってきていた。
「遅いぞーウィル」
「ちょっと待たせたみたいだね、ごめんね」
幼児ニウムを補給してたのが響いたか。
「さあ行こうか」
外への扉の前で、
「はい2人ともちゅうもーく」
「なに?」
「・・・?・・・・」
「外は寒いからね。服に魔術を掛けて温めてから外へ出るよ」
俺は自分と2人の服に魔術を掛けて温めて、外への扉をくぐった。
外にやってきた。さむい。さすがに生身部分は範囲外だ。
久しぶりに見た外の様子は端的に言って人が少ない。例年で今日ぐらいの天気ならもう少し多いんだが。
「2人とも準備は・・・できてるね」
俺が外の様子を見ている内に冷蔵庫は地面に置かれて既に雪が積もっている場所へ向かっていた。
まったく、元気だなー。
俺も2人に交じって冷蔵庫に雪を入れ始めた。
つめたい。
「こんなもんだろうね。あとは蓋を閉めて持って帰ろうか」
「うん」
冷蔵庫が空のときにはニック1人で持ち上げられたが、雪をパンパンに入れたら1人で持てなくて2人で運び込んだ。
今は試作品だからいいが実用品は据え置き予定なので雪の運搬や搬入方法を考えとかないといけないな。
それに測定方法の確立も急務だ。今はテキトーな時間に蓋をあけて雪が溶けているか溶けていないかを見てと、かなりアバウトな測定方法だ。
時計と温度計は最低限欲しい。欲を言えば欲しい測定具は果てがないからまずはこの2つだ。精度は保証しないが温度計ならガラスさえ手に入れば何とか作れそうな気がするが、近代の時計は構造が分からん。とりあえず時計は日時計と砂時計あたりから作るべきだろう。
ガラスも貴重なんだよな。
冷蔵庫を2人の家に運び入れて、冷蔵庫を椅子の上に、排水口に桶を置いて設置完了だ。
「あとはどれくらいで雪が溶けるか計るだけだね」
この部屋は暖炉を点けるから実用的時間を計るのに丁度良いだろう。
こうしてニックの冷蔵庫は一応の完成をみた。




