六十ニ
鮨屋の二階座敷で行う会食の参加者は九名、我が家からは紗江子を含む五人。姉夫婦と三年前に離婚して娘とふたりで暮らしている妹、近くに住む叔母という顔ぶれであった。
「ジュンちゃん、ジュンちゃん、あの娘さんは誰ね?」
早速きたか――。姉達には手早く紹介したが、耳の遠い叔母には再び同じ説明を繰り返さねばならない。話好き詮索好きのこの御人を俺は苦手にしている。
紗江子の両隣には娘達が陣取り、俺の姉と妹も幾度となく紗江子の前に移動しては話し込んでいる。見飽きた顔ばかりの親族の集まりに紗江子の美貌が華を添えてくれていた。
「祥子の友達です。ちょうど遊びに来てたんで連れてきました」
叔母にはこんな説明で充分である。結婚する予定の女性だなどと伝えた日には数時間は質問攻めに遭っただろう。聞き取れた範囲の情報といまの説明との相違に、しつこく質問を浴びせてきそうな気配の叔母だった。気を利かせたおふくろが相手役を買って出てくれて俺は解放される。
「彼女、二十六歳だって? うまいことやったな。どこで知り合ったんだ? 悦子さんは知ってるのか? 式はいつ挙げるんだ」
ビール瓶を携えた義兄が俺の前に座った。一難去ってまた一難、俺は少々うんざりしていた。
暇人は恋人同士の慣れ染めを必ず聞いてくるものだと、何かの本で読んだ気がする。俺と紗江子のそれを説明するとなると、かなりややこしいことになる。正直にすべてを語る必要もないのだろうが、適当な作り話で矛盾を指摘されるのも面倒だ。どんどん飲ませて前後不覚にしてやろう。俺は義兄が手にしたコップになみなみと焼酎を注ぐ。嘘ではないが本質を語ってもいない答えで、お茶を濁そうとしていた。
「はあ、彼女の同僚が悦子の友人みたいで、祥子達も僕が紹介するより前に知っていたみたいです」
義兄は某自動車メーカーのディーラーを経営している。業界に長くはびこる不景気に業績は伸び悩んでいたらしいが、まるまると太った彼の体型はそんな窮状を感じさせない。
「女同士の業務連絡は素早いからな。で、式は?」
「まだ彼女の親にも逢ってないんですよ。去年の騒動で貯金をはたいてしまっていますし、式らしい式も挙げられるのかどうか……。これから相談して決めて行きます。今日は家族に逢わせるのが目的で連れてきました」
「そうか、しかしキレイな子だな。女優のAに似てる」
義兄は紗江子を初めて見た時の俺と同じ感想を口にした。酔いが回りはじめた義兄は最初の質問を粗方忘れてくれていた。




