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四十六

「おじさんが父さんを自殺に追い込んだのか……」

 祐二は独り言のように呟く。

「身内をそんな目に合わすヤツはいないだろう、もっと悪い奴らがどこかに居る。ひょっとしたら自殺ですらないのかも知れない」

「えっ!」

 目を剥いた祐二に、俺は両の掌を拡げ、宥めるように言った。

「推測だよ、証拠はない。ただ、あの事件がおふくろさんから聞いた通りの単純なものではないってのは確かだな。権力ってのはそれほど傲慢で冷徹だってことだ。だけど俺もこれ以上追及するつもりはない、命は惜しいからな。本当に悪い奴等は何をしようと決して捕まらないところで……」

 えっと、なんだっけかな、この続きは。思いつかなかったので適当に続ける。

「鼻クソをほじくってやがるんだ」

 ――多分、違うと思う。

「一体どうやってそんなことを調べたんですか? 小野木さんはただのサラリーマンなんでしょう」

 お前が『ただの』っていうな! そうは思ったが顔をしかめるだけにとどめる。祐二は俺に敬語で話すようになっていた。

「興信所だよ、私立探偵ってヤツだ。腕のいいのがいてな、時効が成立していた事件だから取材した人々の口も軽かったらしい。運にも恵まれたって訳だ」

「俺、もっと知りたいです。父さんがなんで死ななきゃいけなかったのか」

「知ることが出来る真実にも限界はある。時効の成立してしまった事件に司法は動かないぞ。追及が深まれば、またどこかでトカゲの尻尾切りが行われるかもしれない。さっきの先生まで死なせたくないだろう? すべてを知るにはエシュロンにでもアクセスするしかないだろうな」

「エシュロン? あれは、本当にあるんですか」

「真面目に受け取るな、冗談だ」

 俺は笑った。釣られて祐二も笑う。

「あのう……」

「なんだ?」

「俺、その興信所で雇ってもらえないでしょうか?」

「まだ諦めきれないのか?」

「そうじゃなくって、物事の真実を見極める目を養いたいんです。母やおじさんのいうことをなんの疑いも持たずに鵜呑みにしていた。そんな自分が如何に世間知らずだったかを思い知らされました。こんな時代だし大学を中退して遊んでいた俺に、まともな働き口なんかありません。地元ではどこにいったって『あの市議の息子か』って言われるし……。紗江子にも謝らないといけない! こんな俺じゃあ許してはもらえないだろうけど、先ずはちゃんと仕事に就いて、襟を正したいんです」

 ほう、襟を正すなんて言葉を知ってるのか。俺は少しだけ感心した。

「彼女は怒ってないと思うぞ。君の気持ちもわかるって言ってたしな」 

「そうなんですか?」

「ああ。興信所も紹介ぐらいはしてやろう。但し、必ず雇ってもらえるって保証はない。それと、まともな働き口云々はタブーだ。そんなことを言ったら雇ってもらえるものも雇ってもらえなくなるぞ」

「あっ……そうですよね」

「それと――」

 俺は悪趣味に塗装されたセダンを思い出した。

「なんですか?」

「あの車は目立ち過ぎる。その髪も調査員向きじゃないな」

「ああ……、あれは連れの車です。ああゆう車のほうが脅しになるかと思って」

「そうか。でも、もうわかったろう。目に見えるものだけで物事を判断してちゃあ大切なものは見えてこない。見かけなんかどうだっていいんだよ、見かけなんか」

『見かけがどうだっていいなら、髪がオレンジだっていいじゃないか』そんな反論が返ってこないか俺はビクビクしていた。見てくれに自信のない俺は、ことあるごとに『見かけはどうだっていい』を主張したがる癖がある。

「はい」

 そんな俺の思惑に気づかない祐二は素直に頷いた。

 綱渡りだった。永田が見つかるのが遅れれば、カジさんのメールを見ることがなければ、事態は全く別の展開となっていたはずだ。やはり今年の俺はついている。ついでに宝くじでも当たってくれないものか。離婚の慰謝料に貯金の粗方を女房に持って行かれた俺の懐は、十五年乗り続けた自家用車さえ買い換えられないほど寂しかった。


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