四十五
「どうゆう意味だね」
相変わらずぞんざいな口調ではあったが警戒心が滲んでいる。尻に帆をかけて逃げ出していった参議の様子に、中島のうちでも警報が鳴り出したようだ。こういう手合いは他人の痛みには鈍いが、自身自身に危害が及びそうな気配には非常に敏感なのだ。
「そのままの意味です。おそらくこの問題に加藤先生が再び首を突っ込んでこられることはないと思われます。また、このわたしが日参するこちらに足をお運びになる機会も少なくなるのではないかと思います。どうでしょう、中尾さんは業務に戻して参事さんもオフィスにお戻りになられませんか。十五分ほどこのお部屋をお借りできれば、こちらに納得のゆくご説明をして帰っていただけると思うのですが」
俺は魚男に掌を向けて言った。
「そ、そうだな、事情のわからないわたしがいてもなんの役にも立たない。そうさせてもらおうか」
俺の提案は渡りに船だったようだ。中島は、ほうほうの体で応接室を逃げ出した。
釈然としない様子の紗江子にも、いいから俺に任せて仕事に戻りなさい、と言って部屋を出す。
さてと、残すはこいつか。ふたりを見送って振り返った俺に、魚男は得体が知れないものを見るような目を向けてきた。
「あんた、一体何者なんだ」
「さっき、言ったろ? ただのサラリーマンだよ」
「でも、おじさんや――」
「いいから黙って俺の話を聞けっ! おまえが信じたくない話もしなきゃなならないが、世の中の真実ってのは、大抵はクソ面白くもなきゃ醜いもんだ。だけどな、それに目を背けていたらおまえはずっとそのまんまだぞ」
俺の鋭い語気に気圧されたように魚男は口をつぐんだ。これが俺本来の若者への接し方だ。俺は自分が既に失くしてしまった若さを持つ彼らが嫉ましくて仕方がない。
「――紗江子をレイプしたお前の親父さんを許す訳じゃないが、彼だって犠牲者だったのかもしれない。自殺に追い込まれるほどのプレッシャーに自分を見失ってたんじゃないのか」
魚男、いや、今後は祐二と呼んでやろう。彼は涙を流しながら俺の話を聴き終えた。報告書を読んでいなかった俺の弁舌に多少の脚色があったのはこの際許してもらおう。




