表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/100

四十四

 俺がそれを追及しようとするより早く加藤は席を立つ。「ちょっと、失礼」そう言うと、かかってきてもいない携帯電話を内ポケットから取り出して壁際に歩み寄り、小声で話すふりをした。こういう変り身の速さが何期も議員を勤めるためには必要なのだろうが、ヤツの動揺を確信した俺の目には、自身を落ち着かせるための小芝居としか映らない。携帯をポケットに戻して振り返ると「秘書からの電話だった。視察に行かねばならないところがあったことを忘れていた」と、いきなり辞去の弁を告げてくる。

「もっと早く話がつくものだと思っていたからな。予定を入れてしまっていたのだよ。後は頼むよ、中島君。すまんな、祐二君」

 ちらりと俺の方を見やり、足早に応接室を後にする。迎えに出た秘書に何事か毒づいたようだがドアが閉まるとその声も聞こえなくなった。

 勝った! 時効が成立していようがいまいが、ひとひとりを自殺に追い込んだ事件との繋がりが発覚すればヤツの政治家生命も危うい。隠蔽に成功したはずの事件をほじくり返すことに図らずも手を貸してしまったとなれば、上からの叱責にも遭うだろう。参議のひとりやふたり、権力はあっさりと切り捨ててしまうものだ。

 俺の鼻孔はきっと広がっていたはずだ。心の中で小さくガッツポーズを繰り出し、どんなもんだい、と快心の笑みを紗江子に向ける。しかし詳しい事情を知らされていない彼女は事のなりゆきが掴めず、怪訝そうに俺を見つめ返すだけだった。もっとうっとりしろよ、俺はちょっぴり落胆した。

 残された魚男と中島は呆気にとられたような顔で、俺を見ている。俺は次の作業にとりかかった。

「ご挨拶が遅れました。私は富士ノベルテックの小野木と申します。こちらでは、いつもお世話になっております」

「あ、うん。そうか、そうだったな」

 事のなりゆきが掴めないでいるのは中島も同様だ。ここは一気呵成に行こう。紗江子を呼びつけた理由すら理解出来ていない様子の中島には、ブラフもさぞかし有効なはず。

「ところで中島参事、このオフィスの規模ですと退職金はさぞかし莫大なのでしょうね。うん百万――、いや、ゼロがもうひとつ増えるのかな。しかしあの参議さんと懇意になさっていては、その保証はありませんよ」

 俺は完全に調子に乗っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ