第一章 星々への旅立ち 第一話 死の先で、神と出会った
その日、俺の人生は突然終わった。
いつもと変わらない帰り道。
学校を出て、家へ向かって歩いていた俺は、交差点に差しかかったところで、耳をつんざくようなクラクションを聞いた。
顔を上げる。
視界いっぱいに迫る大型トラック。
逃げようとしたが、身体が動かなかった。
――あ、これ、死ぬやつだ。
そんな場違いな考えが頭をよぎった瞬間、世界が白く染まった。
◇
「……ここ、どこだ?」
目を開けると、俺は真っ白な空間に立っていた。
地面も、壁も、天井もない。
上下の感覚すら曖昧なのに、なぜか立っていられる。
周囲を見渡していると、少し離れた場所に、一人の人物が立っていることに気づいた。
長い銀色の髪。
性別さえ判然としない整った顔立ち。
その背後には、星々を閉じ込めたような光の輪が幾重にも浮かんでいた。
「目覚めたか、異界の魂よ」
「……えっと、誰ですか?」
「お前たちの世界の言葉を借りるなら、神と呼ばれる存在に近いものだ」
神。
その言葉を聞いた瞬間、俺は自分が置かれている状況を理解した。
理解したくなかった、とも言う。
「ということは……俺、死んだんですか?」
「そうだ。お前のいた世界で、命を落とした」
「マジかよ……」
あまりにもあっさりした説明だった。
もっとこう、走馬灯だとか、後悔だとか、最後に何かを言い残す時間があるものだと思っていた。
しかし、実際には何もなかった。
いつもの帰り道が、俺の人生の最後になったらしい。
「では、これからどうなるんですか? 天国とか地獄とか?」
「そのどちらでもない。お前には、新たな世界で生きる機会を与えよう」
銀髪の人物が片手を掲げる。
すると、何もなかった空間に無数の光が生まれた。
光の向こうに映し出されたのは、見たこともない世界だった。
巨大な樹木が空を覆う森。
雲の上に浮かぶ城。
魔法陣が描かれた塔。
夜空に二つの月が浮かぶ街。
まるで、ファンタジー小説の中に入り込んだような光景だった。
「これらは、お前がこれから生きる世界の一部だ。魔法が存在し、人々は剣を手にし、数多くの種族や文明が共存している」
「……異世界転生ってことですか?」
「そう呼ぶこともできるだろう」
まさか、自分がそんな展開に巻き込まれるとは思わなかった。
ただし、俺はまだ一つだけ気になることがあった。
「なんで俺なんですか?」
神のような存在は、すぐには答えなかった。
その視線が、俺の奥にある何かを見透かしているような気がした。
「お前には、世界と世界をつなぐ可能性がある」
「可能性?」
「いずれ分かる。だが、その前に一つ、頼みたいことがある」
空間に浮かぶ光景が切り替わった。
今度は、無数の星々が広がる宇宙だった。
その中央には、巨大な銀河が渦を巻いている。
星の海を横切る光の航路。
惑星の周囲を巡る都市。
見たこともない形をした宇宙船。
そして、各地に設けられた巨大な競技場。
「これは……?」
「アストラル・ノヴァ銀河。お前が、いずれ訪れることになる場所だ」
俺は思わず息をのんだ。
画面の中の映像ではない。
そこには、本当に無数の世界が存在しているように見えた。
「この銀河には、多種多様な文明が存在する。そして、その文明を越えて人々を結びつける競技がある」
神のような存在が、静かに告げる。
「サッカーだ」
「……サッカー?」
「そうだ。だが、お前の知るものと同じとは限らない。魔法を操る者、身体能力に優れた者、特殊な技術を持つ者。さまざまな存在が、それぞれの力を用いて競い合う」
宇宙規模のサッカー。
正直、想像もつかなかった。
だが、映像に映る試合会場を見ていると、胸の奥が少しずつ高鳴っていくのを感じた。
「お前には、十一人の仲間を集めてもらいたい」
「十一人……?」
「お前を含めて十一人だ。異なる才能を持つ者たちを見つけ、仲間とし、アストラル・ノヴァ銀河へ向かえ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺は慌てて手を挙げた。
「いきなり十一人集めて宇宙に行けって、無茶苦茶じゃないですか! そもそも俺、特別な力なんてないですよ!?」
「今は、な」
「今はって……」
「お前が新たな世界で何を選び、誰と出会い、何を成し遂げるか。それによって未来は変わる」
神のような存在は、俺の目を真っすぐに見つめた。
「ただし、覚えておけ。お前が進む先には、星々を脅かす災厄が待ち受けている」
銀河の映像が歪んだ。
星々の光が一つ、また一つと消えていく。
銀河の中心に、黒い亀裂が広がっていた。
その亀裂は、まるで宇宙そのものを飲み込もうとしているかのようだった。
「その名は――INFINITY DISASTER」
聞いたこともない言葉だった。
しかし、その名を耳にした瞬間、背筋に冷たいものが走った。
「お前が出会う仲間たちとともに、その災厄の正体を突き止めろ。そして、世界が失われる未来を変えるのだ」
「……俺に、そんなことができるんですか?」
「未来を決めるのは、私ではない」
神のような存在が手を伸ばした。
その指先から、柔らかな光が広がっていく。
「さあ、新たな人生を始めるといい」
白い空間が、光に包まれた。
◇
「――起きなさい。朝ですよ、ハルト」
誰かの声が聞こえた。
俺はゆっくりと目を開けた。
見知らぬ天井。
大きな窓から差し込む朝日。
そして、ベッドの横に立つ、見知らぬ少女。
「……え?」
少女は、俺が目覚めたことを確認すると、ほっとしたように微笑んだ。
「もう。今日は星辰魔法学園の入学式でしょう? 寝坊なんてしたら、初日から遅刻してしまいますよ」
「せいしん……まほう、学園?」
聞き覚えのない言葉だった。
俺は慌てて身体を起こした。
そこで、さらにおかしなことに気づく。
自分の手が、以前よりも小さい。
髪の色も、鏡に映った顔も、記憶にある自分とは違っていた。
ベッドのそばに置かれた制服には、見覚えのない紋章が刺繍されている。
窓の外には、空中を移動する乗り物と、巨大な魔法塔が見えた。
そして、部屋の机に置かれた一枚の学生証。
そこには、こう記されていた。
ハルト・エルシオン。
星辰魔法学園、新入生。
「……俺、本当に転生したのか」
呆然と呟いた、その瞬間。
頭の中に、あの銀髪の人物の声が響いた。
『ハルト。新たな人生の始まりだ』
続いて、見覚えのない文字列が脳裏に浮かび上がる。
『十一人の仲間を集めよ。星々の彼方へ向かう時が来る』
俺は窓の外を見つめた。
その先に広がるのは、魔法と未知の文明に満ちた世界。
そして、そのさらに向こうには、無数の星々が待っている。
まだ知らない仲間たち。
まだ見ぬ惑星。
そして、世界を脅かす謎の災厄。
こうして、俺の二度目の人生が始まった。
――これは、一人の少年が十一人の仲間とともに、世界の境界を越えていく物語。
その旅路の果てに何が待っているのか。
この時の俺は、まだ何も知らなかった。




