43話 研究ノート
「魔力の流れを観測できる魔道具があれば研究が楽になるから、私からはそれを提案したい」
学院長先生は研究の為に、色々と考えてくれたみたいだった。
「私はクローキングの出来る魔道具があったらいいなと思います。魔法のクローキングだと魔力の消費量が大きいので短時間しか使えないのよね。その魔道具があればキリエさんとオルカさんも外出しやすくなると思うわ」
姿を隠す魔法を魔道具で実現したい、というイレーネ先生。
「イレーネ先生、それは流石に危険なので、つけている間魔力が持続的に回復する指輪とかならどうですか?」
イレーネ先生の言葉に、オルカは冷静に切り返した。
クローキングの魔道具が出回ればいろんなところに侵入されかねないものね。
「良いですね、それ。そちらの方が安全で汎用性も高そうです」
オルカの提案に、イレーネ先生も嬉しそうだった。
やがて昼食も食べ終わり、いつも通り廊下のワゴンに空いた食器を返して、また応接テーブルのソファに戻った。
オルカはメモ帳に学院長先生とイレーネ先生の提案魔道具をメモしている。
イレーネ先生はクローキングを何につかっているのだろうか。ちょっと気になったけど、まあいいか、と置いておいた。
メモをテーブルに置いて、オルカは少し目を閉じて思考を巡らせているようだった。
少しした後に目を開き、ノートを開いて何か書き込んでいく。
実用するにあたってのデザイン案と、その下に機能や理論が書き込まれていく。
学院長先生の魔力観測の魔道具から書いているみたいだった。
人の前に浮かぶスクリーン状の魔道具の様子が描かれている。付属品で術者の魔力の流れをより詳細に見られるとされたブレスレットみたいなものも描かれている。
完全にこの研究の為の、私の魔法発動の過程を観測する為の魔道具だわ。
今までは多分、人の目でよく見ての観測だったのだろうな。
しばらくオルカはノートを書き続けていた。
私も自分の作業に戻ろう、と思い、ノートに向かう。
アイシクルの魔法の具体的な発動イメージを文字で書きこんでいく。
魔力を自身の周囲に集中させて単一または複数のつららを自分の周囲に発生させ、それを対象に向けて飛ばす。
というように。
「周囲に魔力を展開する、というのはファイアービットと同じね」
私のノートを見たイレーネ先生が手助けの言葉を入れてくれる。
「そうなんですね。それなら先生達もイメージがしやすいと思います」
私は向かいの席のイレーネ先生の方へ顔を向け、微笑む。
「キリエさんの考えた魔法が形になっていく行程に立ち会えるの、楽しいわ」
「そうだね。あくまでもこの研究室の主体はキリエ君とオルカ君だ。私達はその手助けをする立場だが。新たな魔法創造の瞬間に立ち会えるとは本当に感慨深いよ」
先生方はそれぞれの感想を口にする。なんだか少し照れくさかった。
オルカはその間も集中してノートに書き込み続けている。
様子を見ると、魔力の持続回復の指輪に移ったようだった。
私は続いて、考えた魔法のうち、災害を起こしてしまいそうなものを線を引いて消していく。
アースクエイクとか、ダークホールとか。一般魔導師が使うならそれほど危険は無いかもしれないけれど、実習室で実験をするようだと私ではだいぶ危ない気がする。
学院長先生はその私の様子をじっと見守っていた。
今のところ実現可能そうな複合属性魔法は、アイスフレアとイリュージョンフレア、それとクラッグサンダーくらいかな、と目星を付ける。
アイシクルが発動成功したらブレイジングアイシクルもいけるだろう。
クラッグサンダーは雷を纏った岩を降らせる魔法で、風属性のサンダーに土属性を追加する形になる。
集中している私達に、学院長先生はお茶を淹れてくださる。イレーネ先生も腰の道具袋からクッキーや飴等のお菓子を出してくださった。
「ありがとうございます」
私達はお礼を言って、オルカは飴を、私はクッキーをいただいた。
そうしているうちに終業のチャイムが鳴った。
私はノートから顔を上げ、少し冷めたお茶を口にする。
学院長先生の入れてくださるハーブティーはとても美味しい。
「さて、もう少ししたら移動しようか」
学院長先生もティーカップに口をつけながら言う。
イレーネ先生も、マシュマロを頬張りながら頷いた。
生徒達が校舎から出払った頃に、私達は実習室に入る。
「さて、夕食の時間まで少しだけど、キリエ君の魔法を試しましょう」
研究者モードに入った学院長先生が口を開く。
「はい。どれからやりましょうか」
私は持ってきたノートを学院長先生に渡した。
「そうだね……さっき話していたアイシクルから始めましょうか」
そう言いながら、学院長先生はデコイを召喚した。
「はい。やってみます」
私はデコイに向き合うと、デコイに向けて手のひらを向け、人差し指と中指の指先を合わせるようにして周囲に魔力を集中させる。イメージ通り、そこにデコイの方に先端が向いたつららが出現する。
そして、呪文と共にデコイに向けて解き放った。
「アイシクル!」
私の声と同時につららは一直線にデコイに向かって突き進み、デコイを破壊すると消滅した。
学院長先生とイレーネ先生から拍手が上がる。
「素晴らしい。キリエ君のノートに書いてあったとおりです」
「そうですね。魔力の流れも美しかったです。本当にファイアービットの氷属性版という感じでした」
先生方からお褒めの言葉をいただいた。オルカはその様子を微笑みながら見ている。
「キリエ、緊張してるだろ。ちょっとだけぎこちなかった」
微笑みながら、オルカはそう優しく声をかけてくれた。
「初めて使う魔法だったから……」
私は少し照れながら、オルカの言葉に答えた。




