2話 初めての学院生活
学院に到着した私達は門を潜り、入学式の会場を目指す。広い校内は格式高い、歴史のある様子を思わせた。
案内に従って講堂へと進み、指定された席に座る。少しして入学式が始まり、滞り無く式次第が進んでいく。
近隣の町から来た新入生代表の生徒の挨拶を聞きながら、隣の席のオルカの様子をちら、と見る。
オルカは退屈そうに虚空を見つめていた。
『ちょっとは話を聞いてあげたら……?』
『まあいいだろうと思ってな……。そういうお前もあまり聞いていないだろう』
『貴方ほど興味が無いわけじゃないわ……人も頑張っているもの……』
オルカの中身のシンは、基本的に私以外の他者をどうでも良い存在として見ている。
対して私は、それなりに人々の意思や行動を尊重している。
私達が頭の中でやり取りをしながらぼんやりと過ごしているうちに入学式は終わり、クラス分けで私とオルカは1年2組になった。
「キリエ、同じクラスだね。よかった」
「そうだね。よかった」
このクラス分けは、シンの仕組んだものだろう。彼は世界の中で私と一緒に過ごすようになれば決して離れる事の無いように、秩序を構築する。
こうして世界へ降りた時に都合の良いようになるのは大体事前にシンが決めている事が多い。そしてまた、その場その場でも彼の都合の良いように流れを変化させていく。今までの世界ではそんな感じで過ごしていた。
席は少し離れているけれど、同じクラスで過ごせるのなら彼も私も問題は無い。
私が自分の席に着くと、隣の子が話しかけてきた。
「こんにちは!初めまして!私はライ・ヴェロニカっていうよ。貴女は?」
「私はキリエ・オランジュよ。ライさん、宜しくね」
座席は二人ずつ並んで座るようになっていて、私の隣は女の子だった。
元気そうな子だ。青みがかったボブカットの髪に黄金色の瞳が印象的だった。
間もなくして担任教師が教室に入ってきて、挨拶をし始める。
「皆さん、入学おめでとうございます。そしてようこそ、ヴィルトゥス魔法学院へ。私がこれから一年皆さんの担任を務めますイレーネです。よろしくね」
言葉の端々から先生の柔らかな雰囲気が伝わってくる。緑がかったロングヘアを後頭部にまとめ、青い瞳、金色の縁の丸眼鏡に赤紫色のローブといった感じの外見。
「この学院は皆さんが持つ無限の可能性、その力と才能を最大限に引き出し、そして正しく導くための場所です。時には難しい課題に直面するかもしれません。自分の力が思うように扱えなくて、戸惑うこともあるでしょう。ですが、恐れることはありません。私たちは皆、隣にいる仲間と共に学び、助け合い、成長していきます。私自身も、皆さんがこの一年、大きく飛躍できるよう、全力でサポートすることをお約束します」
『話が長いな……』
『……暇だろうけど少しは我慢して』
担任の先生の挨拶の間もシンは話しかけてくる。
彼にとったらこういった“直接私とは関係ない要素”は本当に退屈なのだろう。
「これから始まる一年が、皆さんにとって実り多く、素晴らしいものになることを心から願っています。さあ、共に魔法の探求を始めましょう」
ようやく先生の挨拶が終わり、シンの声も止んだ。
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それから、皆それぞれ教科書となる魔導書を数冊受け取り、その日は解散になった。
寮の部屋の案内も受け、それぞれ散り散りに各自の部屋へと入っていく。
私の部屋は個室だった。
男子寮とは分かれているけれど、直接会わずともオルカ……というかシンは話しかけてくるから特に問題はなかった。
机の上のブックスタンドに先程受け取った魔導書を納め、窓から外を眺める。
景色が良い。遠くには山脈が見え、麓に広がる森の木々や湖の畔、平原には色とりどりの花が咲き誇っていた。
しばらく景色を眺めていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。
「はーい」
出てみると、ライが立っていた。私の顔を見て、嬉しそうに笑顔になる。
「やっほ、キリエ。隣の部屋だねー。……あれ?キリエの部屋個室なんだ」
「ライさん。そうみたい。端っこの部屋だし何となく気楽だわ」
「いいねえ。あ、そうそう。お昼一緒に食べに行こ!」
ライは無邪気な笑顔で食堂へ誘ってきた。けれど、その瞳の奥に何か暗い輝きが見える。
「そうね。あの、もしかしたら一人男の子が一緒になるかもだけど良い?」
「教室に居る時一緒に居たあの子?キリエと仲良さそうだったけど彼氏?」
彼氏ではないけれど……表向きは一応まだ。
「幼馴染なの。さあ、食堂へ行きましょう」
私が答えると、ライはうん!と頷いて私の隣に並んだ。
ライと歩きながら、私はシンへ声をかける。
『隣の席の子からお昼ご飯に誘われたわ。貴方も来る?』
『行く。現地集合で』
私とライが食堂に着いた頃、オルカもちょうど着いたところだった。
「キリエ、もう友達出来たんだな」
「こんにちは!ライ・ヴェロニカだよ。貴方は?」
「オルカ・フェール。キリエとは同じ村出身だよ」
「そうなんだー。一緒にご飯食べよ!」
ライの社交性が少し羨ましい。そんな事を思った。
けれどオルカはライの顔を見て、その瞳にほんの少しだけ嫌そうな色を浮かべた。彼もまた、彼女の瞳の奥に暗いものを見たのだろう。




