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1話 創造

 暗い、何もない空間。

 その中で寄り添って座るふたり、シンとレイラは互いに顔を向き合わせる。

 彼らが『元の場所』と呼ぶここでは、光は無くとも互いの姿がはっきりと認識できる。

「何か、したい事はあるか?レイラ」

 この空間にふたりきりで存在する神々の、無限を過ごす中での退屈。

 そのふたりのうち一柱、男神からの、次に降りる『世界』の候補を問う質問。女神への深い愛情を含んだその声と視線は、まっすぐに目の前の彼女へと向けられている。

 シンの問いかけの意図を理解したレイラは、しばらく考える。

 今まで過ごしてきたいくつもの世界のこと、その中でシンと過ごしたいくつものかけがえのない記憶を辿る。


 「……穏やかに過ごしたい……けれど……」

 レイラは抑揚のない声で無表情に言葉を発しながら考えを巡らせた。

 過去に自身が作った世界が、自分が関わろうとも関わらざろうとも、その内側で暮らす者達の限度を超えた身勝手な行いによって制御を失い何度も崩壊を迎え、彼女はその度に絶望し、次第に感情を失ってしまった。

 作り直しても、作り直しても。全て壊れていってしまう。

 そんなレイラを見かねた配偶神のシンは、現行の世界に出来得る限り干渉することの無いように、自分達は彼女の夢を通して世界に降り立ち、同時に彼女の状態を夢の外側であるこの何もない空間で管理しながら過ごすことで彼女の心を慰めようとした。世界の内側では彼女が感情を持てたから。


 どの程度までわがままを言ってもよいものか、とレイラは考える。そして。

「……暴れたい……かも……」

 暴れる。やりたい放題、何も気にせず自分の力を振るいたい。今まで、どんなに願っても叶う事のなかった願望。混沌と創造の女神たる彼女の悩みの一つでもあった。

 人間の暮らす世界に降りた中で、オンラインゲームの対戦システムを通じて「暴れた」ことはあった。

 だが、それはゲームの中での話だ。実際にレイラがその世界で力を行使すれば、何の抵抗も持たないその場所は容易に消し飛んでしまうだろう。

 それはレイラの望むところではない。

 自身の夢を通じて世界に降りているとはいえ、そこで暮らす人々もいるのだ。


「なら、久しぶりに魔導師でもやるか?」

 だいぶ前、剣と魔法の世界に降りた事があった。それもどれくらい前だったか。

 レイラは初めて『世界』の中でシンの愛を感じた時の事を思い出す。

「……そうね……」

 無表情ながらも、肯定の意思を示したレイラに、シンは微笑む。

 彼はレイラの頬に触れ、唇を重ねる。彼女を眠りにつかせ、世界の中へ降りるための手順の一つ。

 シンの口づけによってすうっとレイラの意識は遠退き、彼女は深い眠りについた。

「さて……どうするか。レイラの希望を叶えるのなら一から構築したほうが良いだろうな」

 シンは穏やかに眠るレイラの額に触れ、意識を彼女に注ぐ。

 秩序と再生の神たる彼は、彼女の夢の中に、彼女が今まで経験してきた世界の断片を紡ぎ合わせ、新しく『世界』を構築していく。

 やがてその作業も終わり、彼はレイラを優しく抱き寄せると、自身も意識を深く、彼女の夢の中へと落としていった。


 -------


 物心ついた時には私とシンはこのエゼル村で、幼馴染として暮らしていた。

 家が向かい同士で、幼少の頃からよく一緒に遊んだ。

 表向きはただの村の子供だけど、彼とはずっとテレパシーで今までどおりやり取りをしていた。

 キリエ・オランジュ。それがこの世界での私の名前だった。肩より少し下くらいまでの銀髪に群青色の瞳。外見的な特徴は髪の長さ以外は元の場所での私と変わらない。

『おい、間違っても今使うなよ』

『……分かっているわ……』

 頭の中に直接話しかけてくる彼のここでの名はオルカ・フェール。短めの黒髪に黒い瞳。シンも外見的な特徴は元の場所に居た時と同じだった。

 魔導師として暮らすという目的のあるこの世界で、魔法の心得がない今はどうあっても自身の能力は伏せておかなければならない。

 私達は村の中で穏やかに暮らしながら、すくすくと育っていった。


 13歳の誕生月を迎えると、この村の子供はこの先の進路を決める。

 私とオルカは共に3月生まれ。私達は魔法学校への進学をそれぞれの両親に希望し、無事に通えることとなった。

 そこは寮制の学校で、ヴィルトゥス魔法学院といった。

 入学案内と一緒に制服が届き、袖を通してみる。

 私の制服は白いブラウスに、黒を基調として紫色の装飾の入ったベストとジャケット、それにひざ丈の黒いスカート。

 寸法もぴったりで、着心地や動きやすさも問題なかった。



 そして、入学式の日。私とオルカは朝早くに二人で村を出て、学院までの道を歩いていた。

 比較的平和なこの地域はモンスターの数も少なく、こうして子供だけでも出歩けるくらいだった。

「キリエ、制服似合ってる」

 待ち合わせ場所に着いたときに私の姿をまじまじと見た彼からの素直な誉め言葉に、少し照れくさくなる。

「オルカも。似合ってるよ」

 私も素直に誉め言葉を返す。男子学生の制服も女子の制服と同じデザインで、違いは白いシャツと黒いスラックスといった感じだった。

 普段着の彼も格好良いけれど、きっちりと制服を着こなす姿は私から見てもとても格好良い。


『どうせ人間から惚れられるんだろうな、お互いに』

『そうかしら……』

 昔から他人に興味を持たなかったオルカは、シンとしての言葉を私に向けてくる。

 表面的にはキリエとオルカとして和やかに会話しながら、私達は歩みを進めた。

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