かかりつけになるかもしれない
新型コロナワクチンを打つため、前に世話になっていた病院に行って、呼ばれて診察室に入ったら高千穗先生がいた。
「え、高千穂先生!?」
「あ、こんにちは」
高千穂先生は普通に頭を下げた。
「和泉さん、ここ通ってらしたんですね。寛解してよかったです」
あ、カルテ見たのかな。いや、でも、しかし。
「え、なんでここにいらっしゃるんです!?」
「ああ、本白神社の近くに勤めることにしまして。とよか病院クビになっちゃったので」
「えっ、そうなんですか」
高千穗先生は苦笑した。
「ハルちゃんを匿ってたようなもんですからね、仕方ないんですけど」
「あー、なるほど……」
確かに、和束ハルが家にいると知っててシラ切ってたんだから、心霊関係の病院クビになってもおかしくないな。
高千穗先生はカルテが写ってるらしきパソコンを見た。
「今日はワクチンだけで大丈夫です?」
「はい、それだけで」
高千穂先生はこっちを見て、身を乗り出した。
「千歳さんは、健康診断とか受けに来たりしません?」
あ、忘れてた、この人割と千歳にマッドサイエンティストだった。
「ものすごく健康なので、病院に行く理由がないですね……」
「そうですか……」
あからさまに残念そうな顔をするな、この人……。
高千穗先生は、気を取り直したように言った。
「まあ、ワクチン打ちますね。二の腕出してください」
「はい」
半袖をまくって二の腕を出すと、高千穗先生はさっとアルコール綿で拭い、すっと注射針を突き立てた。意外と痛くない。さてはこの人、注射うまいな?
高千穗先生は注射針を抜き取って言った。
「じゃ、これで終わりです。副反応用の解熱剤いります?」
「欲しいです」
「じゃあ、ロキソプロフェン出しときますね、お大事に」
「ありがとうございます」
手技だけじゃなくて、患者とのやりとりも手慣れて素早い。高千穂先生の、医師としてのちゃんとした姿を見た感じがして、俺は感心した。
帰って、千歳に「高千穂先生にワクチン打ってもらったよ」と伝えたら驚いていた。
『えっあの病院勤めてるのか?』
「とよか病院、クビになっちゃったんだって、和束ハルを匿ってたようなもんだから。で、本白神社の近くの病院に勤めることにしたんだって」
『へえー、じゃあお前、これから高千穂先生に見てもらうかもしれないのか』
「そうだね、前の先生もいい先生だったけど、高千穂先生も任せて大丈夫そうだった」
まあ、これで外取材の準備も完了か。探してる魂関係での外出も多くなるだろうし、コロナにも熱中症にも気をつけなきゃな。




