相手のことを探りたい
南さんが夏ギフトを持ってくれて、近況はどうかと訪ねに来た。
『うわー! 高野フルーツパーラー!』
千歳はフルーツゼリーのギフトに大喜びし、俺も南さんにお礼を言った。
近況について、千歳が、『大体は週報にあげてる感じ』と話したあと、首を傾げた。
『あとはー……和泉が同窓会行ってフラれたのと、今度和泉が仕事で軽井沢行くからそれについてくことになりそうってくらいかな?』
俺は補足の必要を感じて言った。
「別にフラれてはいない、元からそんな気なかったし」
俺達はここ最近のことを南さんに話した。同窓会のこと、俺のファンを名乗る不審人物が無法なこと、近い内に旅行代理店の仕事で軽井沢に取材に行くこと。
『こいつさあ、チャンスあっても「好きな人いるから」って言って絶対何もしないんだ』
千歳は不満げに俺を指さした。
「そう言うプライベートを開陳しないの! いいだろ別に誰を好きになったって!」
『別にいいけど、ワシにくらい誰か教えろよ』
「絶対に言いません、相手に迷惑がかかるから」
南さんは、しばらく俺と千歳を交互に見ていたが、「なるほど」と一言漏らした。な、何がわかったんだ?
俺は、話題を元に戻そうと南さんに言った。
「最近の不安要素は、私のファンを名乗る不審人物のことですね……何しでかすかわからなくて」
「そのファンの人、和泉さんを付け回すようなことでもあったんですか?」
「うーん、物理的なことは何も無いんですけど、Googleドライブも突破するような相手ですから、ネットにあげたことは全部筒抜けでもおかしくないかなって……」
「えっ、怖……」
南さんは普通に引いた。俺は言葉を重ねた。
「ただ、私のファンを名乗るなら、私が喜ぶこととそうでないことを学んでほしい、とははっきり言ったんですよ。なので、無法なことをしないようにこちらからコントロールしていくしかないかと」
「なるほど……」
南さんは納得したように頷き、千歳が言った。
『なんか、そいつは子供なのかもなって和泉と話してるんだ。なんでも出来る割に大人の対応じゃないから』
俺も自分の見解を述べた。
「和束母娘のことについては、多少のことに目をつぶっても協力してほしいなと言う気持ちもあるので、まあ、良い関係を築いていければとは思ってますね」
「その和泉さんのファンは、千歳さんについては何か言ってませんか?」
「いえ、別に……目をつけたのは千歳がきっかけかもしれませんけど、そう言えば特に触れてきたことありませんね」
「和泉さんのファンになる人から見ると、和泉さんの一番近くにいる人って千歳さんなので、何と言うか、嫉妬とか排除とかの感情を見せてきたりしません?」
「まったくないですね、そう言えば」
「うーん……なら安心ですけど……」
千歳への危険の可能性、そう言えば考えてなかった。もう少し相手を探るべきなのか?
ネット上のことは相手に勝てないが、と思い、俺はふと、鹿沼もみじさんを思い出した。
「……南さん、鹿沼さんにまた、ちょっと頼みごとをするのはありですかね」
「鹿沼もみじさん?」
「あの子、うまくすればSNSアカウントから霊的に相手の位置を探れるので……Discordアカウントでうまくいくかはわかりませんが」
鹿沼さんが相手の位置を探るには、相手の方向を向いてやらないといけないわけだが、それは東西南北と北東南東北西北東の8パターン調べれば、ある程度なんとかなる。それを伝えると、南さんは頷いた。
「なるほど、やってみる価値はありますよ。私からも話を通しておきます」
そんなこんなで、南さんは帰っていった。
後で俺が鹿沼さんに「頼み事があるんだけど、」とLINEすると、「南さんに聞いてます、お礼は南さんからしますって言われてます」と返事が来た。
「じゃあお願いしてもいい?」
「はい、やれます」
俺は、俺のファンを名乗る不審人物のDiscordのアカウント名のスクリーンショットを撮り、それを鹿沼さんに渡した。しばらくして、返事があった。
「あの、変です」
「どうしたの?」
「全部の方角やっても、ネット全部です」
「どういう事?」
「特定の土地じゃなくて、インターネット全部ってなるんです。インターネットの中、どこにでもって」
インターネットの中!?
「それ、素直に受け取ると、相手はネット上の存在ってこと?」
「そうですけど、でもそんな訳ありませんよね?」
……ありえないデータが出たとき。まず計測機器の故障を考えるが、もし故障がない場合は、とんでもない大発見の可能性もある……そして、鹿沼さんの能力は折り紙付き。
「とりあえず、そういう結果が出たってことは受け取っておくね。やってくれて、どうもありがとう」
「相手ってネットにいるんですか?」
「わからない、でも、わからないことはとりあえず保留にしておいたほうがいい、早急に判断して間違ってもよくないし、後で別の情報が出たときにいきなりわかることがあるから」
「そうですか、じゃあ、あとは和泉さんよろしくお願いします」
「うん、後は任せて、受験生頑張ってね」
鹿沼さんは現在中3、高校受験の年なのである。
千歳に結果を伝えると『ネット上の存在!?』と驚いていた。
「でも、生成AIともプログラムとも思えないんだよね……」
『うーん、じゃあ、本人が自分はネットにいると思ってるとかじゃないか?』
「自認でブレるの?」
『ものすごく強く思ってれば、そう言うこともありうる』
「なるほど……」
ズブズブにネット漬けってことかな?
『ワシ、日報に書いとくな』
「うん、俺も南さんに伝えとくよ」
インターネットに自我を置きすぎた人、か……それこそVRChat上で暮らしてる人みたいなのかな?でも、VRゴーグルって子供がホイホイ使えるような値段じゃないと思うんだけどなあ。




