全然特別なんかじゃない
「和泉さんのファン?」
「ゆっちゃんのファン?」
唐和開港綺譚5巻のリモート打ち合わせ中。狭山さんとおっくんと俺でだいたいの打ち合わせが終わってから、俺が、ネトストにあってるかもしれない、もしかしたら唐和開港綺譚絡みかもしれない、と説明したら二人とも心底驚いていた。
狭山さんがあわあわしている。
「えっ、Discordってフレンドか同じサーバー同士の人しかDM送れませんよね? うちのサーバーにそんな変な人いるかな?」
「同じサーバーじゃなかったです、承認した覚え全くないんですが、フレンドになってました、いつの間にか」
「怖……」
俺はおっくんに向けて聞いた。
「私が名前出してる場所、会社かここかくらいなんですけど、なんか変なファンついてるとかありません?」
「いや、変なものはまったく届いてないです。エゴサもかなりしてますけど、心当たりはないですね……」
狭山さんがうなった。
「うーん、和泉さん×僕のナマモノ小説ならありましたけど」
俺は乾いた笑いが出てしまった。
「そっちの方がマシですね、そういうジャンル、本人突撃厳禁でしょ?」
「そうですよねえ、リア凸一番怖いですもんね」
「ハッカー能力あるのも怖くて。渡されたデータ、多分マジのなんで……」
「まあでも……」
狭山さんは腕組みした。
「和泉さんの人となりは、好かれるだろうなと思います」
褒め言葉なのだが、今はあんまり嬉しくない。
おっくんも口を開いた。
「和泉さんはネットの使い方が相当マシだし、そこが好かれたのかも」
「ええー……」
「少なくとも、唐和開港綺譚絡みではないと思います」
「そうですか……ありがとうございます」
その場はそれで終わったのだが、後でおっくんからLINEが来た。
「ゆっちゃんのファンとかいう奴、もし尻尾見せたら俺にも言ってね! 唐和開港綺譚絡みじゃないと思うけど、ネトストなら唐和開港綺譚も含めてゆっちゃんを偏愛してる、はあるかもしれないから!」
「ありがとう、気をつける」
「マジで気をつけて、必要なら筋肉見せつけに行くから!」
「それは千歳にごついおっさんになってもらえばいいから……でも、ありがとう」
唐和開港綺譚関連ではないのか。じゃあ俺に目をつけた理由なんなんだろうな?
俺に特別なところ……人と違ったところ……
……あれ、もしかして、怨霊に祟られてるって特別で人と違ったりする?
そうか、千歳関連か! でもなんで千歳じゃなくて俺に来たの!? あっ、化け狸さんたちの間で俺が男気ある人というひん曲がった噂が流れてるから、他所でもひん曲がった噂流れてる可能性ある!? うわあ……。
どうしようかと思ったが、相手とこれ以上関わりたくないし、あるかどうかもわからない噂をどう訂正すればいいのかもわからないし、ここは沈黙しておくしかないのか……。




