撹乱陽動乗りたくない
夜のまったりタイム。こたつに入って、Discord通話で狭山さんの嘆きを聞いている。
「既婚なのにクリぼっちでしたよぉー!」
新婚だと言うのに、イブも当日も金谷さんが泊まりがけの仕事だったそうだ。もちろん和束ハル関連である。
「和束ハル探し、そんなに大変なんですか」
「群馬の方にそれっぽい気配が見つかりましてね、いま総出で探してます」
「そうだったんですか」
「でもねえ、嫌な予感するんですよねえ僕」
狭山さんのため息のような声がした。
「それはどういう?」
「和束ハルの気配、これまで可能性のある場所あらゆるところ探してなかったんですよ。それがいきなり、千歳さんからも故郷からも生前の住居からも離れたところにぽつんと見つかって」
「よっぽど隠れたかったとか?」
「……ていうか、和束ハルは気配なんていくらでも隠せて、その上でわざと何の関係もないところに気配を残したんじゃないかと」
……狭山さんの言いたいことが、わかった気がする?
「撹乱ですか? 捜索の」
「もっと言うと、陽動の可能性もあるかもって……気配残したところから離れたところで、何かしようと企んでるんじゃないかって」
……筋は通ってる主張である。隠れきる能力があって頭も回れば、そういうことはできるよな。
「それ、緑さんとかは知ってる話なんですか?」
緑さんは、心霊業界ではそこそこ偉いようだし、耳に入れておいたほうがいいのでは。
狭山さんは元気のない声で言った。
「一応伝えてあるんですけど、緑さんは、隠れきる能力があるとしても人間うっかりはあるから、群馬でうっかりしたんじゃないかって言ってて」
「なるほど……」
まあ、そういう意見もあるか。
狭山さんは愚痴るように言った。
「僕、この業界では新参だし、他の人に言ったとしてもあんまり意見を受け入れてもらえる立場じゃなくて……和束ハルを探すより、和束ハルに狙われたらまずいものを守った方がいいんじゃないかとも言ってるんですけど、千歳さんに作ってもらうのは捜索用の御札の方が優先になっちゃったし」
ああ、千歳、御札の後にお守り組紐また頼まれたって言ってたな。
「そういう背景があったんですね……」
「ああいや、暗い話してすみません。といっても、千歳さんと和泉さんは万全に対策してあるから、和束ハルは手の出しようがないんですよ。それは安心してください」
「そうですか、ありがとうございます」
そんなこんなで会話は切り上げたのだが、こたつの向こうで御札に念を込めながら話を聞いていた千歳が『そう言うんなら、正月からもう組紐作り始めようかなあ』とつぶやいた。
『御札、これ終われば全部完成だしさ』
「そっかあ、無理しないでほしいけど、やれるならやったほうがいいかもね」
『別に無理はしてないけど。んー、明日御札狭山先生に渡したら、年末年始の買い出しして、早めに大掃除して、時間作るか』
「そっか、俺も仕事終わりなら手伝えるから」
千歳にばっかりやらせるのは悪い。
『じゃあ、土日に窓拭きと洗面所磨きやってくれ』
「わかった、あとお風呂掃除も念入れてやっとくよ」
実家にいた時担当していたこともあって、風呂掃除と食器洗いだけは普段から俺がやってるのである。
『じゃあ土日に掃除済ませて、月火でおせちとか作っといて、正月は組紐だけできるようにしとくか』
「そうだね」
俺達はとりあえず安全なのだから、他の人の安全を守るために励むべきだ。俺たちは安全なのだから。
……そう思っていたけれど、実は俺は安全じゃなかったのだ。




