閑話 ゆず胡椒
日曜日。冬の夜はやっぱり鍋がおいしい。熱々を食べて体が温まるし、鍋の湯気で部屋も温まるし。
そんなわけで幸せに水炊きを食べていたのだが、千歳が難しい顔で言った。
『お前に食わせてやりたいけど、食わせたくないものがある……』
「どういうことなの」
『星野さんがさ、ゆず胡椒っていうのがすごく鍋と鶏肉に合うって言ってて』
「ああ、ゆず皮と唐辛子の?」
ブラック企業勤めの時、コンビニのおでんの添え物についてるのを見たことがある。食べたことは……そう言えば、ないかも。
『ゆずだから絶対お前好きだと思ったんだけどさ、唐辛子はあんま食わせたくない』
千歳は困った顔だ。
「そうだねえ……まあ控えなきゃいけないやつだけど……」
俺の腸は今落ち着いているが、それは油脂と刺激物を控えているからなのである。俺を慮ってくれる千歳の気持ちが嬉しいのと、ゆず系のスパイスなら試したい気持ちと。悩むな。
ちょっとだけ……ちょっとだけ食べるなら、俺の腸もそんなにダメージ受けないんじゃない?
「んー、まあ、たまにほんのちょっとなら食べたい。おいしいなら、千歳もたくさん食べればいいんだしさ」
『そうか? じゃあ明日買ってこようかな、ゆず胡椒』
そんな訳で、千歳は翌日の夕飯に柚子胡椒のチューブを出してくれた。
『鶏肉に合うって言うから、蒸し鶏につけてみろ』
「うん、ありがとう」
スライスした鶏むね肉に、ゆず胡椒をほんのちょっとだけ乗せて食べてみる。わ、鶏の旨味とゆずの香りってやっぱ合うなあ……。ゆずは、ちょっと青っぽい香りなんだけど、それが爽やかだ。あ、あとから辛味もくる。でもピリ辛くらいの辛さだから、鶏肉が引き立つ……。え、ベストマッチじゃない?
「すっごくおいしい、どうしよう、一切れだけにしとくつもりだったのに全部ゆず胡椒つけて食べたい」
千歳にそう言うと、苦笑された。
『全部はやめろ、二切れまでにしとけ』
「味わって食べるよ」
『ワシも食おっと』
千歳も鶏肉にゆず胡椒をつけ、口に放り込んだ。
『あっうまい! 蒸し鶏にめちゃくちゃ合うな!?』
「全部ゆず胡椒つけて食べたいっていうの、わかるだろ?」
『わかる……』
千歳は蒸し鶏を味わうように目をつぶり、『これは多分、おでんにも大根にも合うぞ……』とつぶやいた。
「俺はそんなに食べちゃダメだから、千歳試しなよ」
『ワシだけ悪いなあ』
「いいじゃん、千歳がおいしくご飯食べててくれたら、俺嬉しい」
千歳が幸せなら、俺も幸せなんだよ。まあ、照れくさくて、そんなことなかなか言えないから、言えるのはこれくらいなんだけどね。




