巫女体験を手伝いたい
本日休日。特に何をするでもなく、本を読んだりDiscordを巡ったりでのんびりしようと思ってたのだが、千歳に『本白神社に遊びに行こう』と誘われた。
「遊ぶようなことあったっけ?」
『巫女体験がどんなのか見たい』
千歳(朝霧の忌み子の姿)は、こないだ水香さんがくれたチラシを出した。
「ああ、そんなんあったね、そう言えば」
神社振興のための公開巫女体験。どれくらい人が集まるんだろう。て言うか。
「千歳、その格好で行ったら巫女服着せてもらえるんじゃない?」
『あ、そうかもなあ』
今の姿の千歳が巫女服を着たところは……見たいな、割と。うん。
「じゃあ行こうよ、何時から?」
『9時から受付、10時開始だって』
「じゃあ9時に着くように行こう」
そう言うわけで、俺たちは本白神社に向かった。鳥居への階段を登ると【本日巫女体験】の張り紙がしてあり、受付の長机に何人か人の姿が見えた。
『あっ、水香さん!』
千歳が受付の方に手を振った。浅葱色の袴を着た水香さんがこちらを振り返った。
「あ、おはようございます。いらしてくださったんですね」
『うん、ワシも巫女装束着ていいか?』
「どうぞ、余裕持って用意いたしましたので」
『ありがとう!』
俺も頭を下げた。
「おはようございます。私は特に関係ないんですが、どんな感じなのか興味あって来ました、よろしくお願いします」
「どうぞ、ご覧になっていってください」
『……うん?』
水香さんが頭を下げた拍子に、胸元から緑のものがちらっと出た。
『榊出ちゃってるぞ』
「あ、申し訳ありません……」
水香さんは慌てて緑のものを胸元に押し込んだ。なんだ? 何かの植物?
『大丈夫か? あんま顔色よくないけど』
「あ、ええと、その……」
水香さんは無表情ながら、視線を泳がせた。え、今の何なの? 確かに言われてみたら水香さんの顔白い気がするけど、榊って何?
『なんか大変ならワシ手伝えるぞ、着付けできるし、作法も多少なら知ってるし』
「…………」
水香さんは迷うような目つきだったのだが、「その……案内の手伝いをお願いしてもよろしいですか?」と言った。
「その、今日のでは巫女装束を着てもらって、お清めをしてもらって、神社を案内して、玉串拝礼をしてもらう予定なんですけども。着付け以外の案内が私なんですが、あんまり大きな声出せる体調じゃなくて……私と一緒に回って、私の言う事の復唱をしていただけるだけでありがたいのですが……」
『うん、わかった!』
千歳は快諾した。
『ワシ、この格好より巫女装束の方がいいかな?』
「そうしていただけるとありがたいです。他の方が来るまでまだ時間ありそうなので、裏の社務所でさっと着替えていただければ」
『わかった!』
千歳が神社の裏に向かおうとするので、俺は慌てて後を追った。
「えっ、今のなんだったの、なんで手伝う流れになったの!?」
『いや、それはその……後で説明してやるよ。これも人助けだしさ』
「それはそうだけども」
受付にいた女性が千歳のところに来て、「ご案内します」と声をかけた。
『ありがとう、着付けは自分でできるから』
そう言って千歳は社務所に入ってしまい、俺は流石に着替えの場所に行くことはできないのでぼけっと突っ立っていた。しばらくして、千歳を案内した女性が戻ってきて俺に声をかけた。
「あの、申し訳有りません。和泉様はお写真を取るのに慣れているとうかがったのですが」
「え? まあ、その、普段花の写真なんかよく撮ってますけども」
「その、今日巫女体験に来る人が予想より多いので、写真を撮る手伝いをしていただけないかと……もちろんお礼はお支払いします」
その女性の話によると、体験に来るのは小学生くらいの女の子が多く、家族連れがけっこう来るとのこと。ただ、その家族連れ全員がスマホで写真撮ると混雑や混乱が起きるので、参加者の撮影は一律禁止だそうだ。代わりに本白神社の人間が写真を取って後で希望者にデータを渡す形式にしたのだが、別に写真を撮り慣れてる人がいるわけではなく、ちゃんと撮れるか困っているそうだ。
「デジカメはお渡ししますので」
「そ、そうですか」
いきなりのことで、ちゃんと撮れる自信はなかったが、まあ今日時間はあるし、お礼ももらえるしなあ。うーん、頑張ってみるか。
「お引き受けします、大したことはできませんけど」
俺は女性に頷いた。
「ありがとうございます、すぐデジカメ持ってきます」
女性は社務所に引っ込み、小さいデジカメを持って戻ってきた。
「オートフォーカスである程度撮れるみたいです」
「あ、ありがとうございます」
オートフォーカスはいいのだか、撮影モードがいくつかあって、どれが適しているかわからない。うーん、できれば何回か試し撮りして慣れたいな……。
『あっ、お前撮ってくれることになったのか!』
千歳の声でカメラから目を上げると、緋色の袴を着た千歳がいた。上半身の真っ白な着物と、つややかな黒髪の対比がまぶしい。顔立ちが整っているのも相まって、すごく絵になっている……。
「あっうん……あ、そうだ、試し撮りしたいからちょっと撮らせて!」
『え、うん』
千歳は頷き、俺はデジカメのモードを変えて何回か千歳を撮った。
「うん、ありがとう」
『どんな風に撮れた?』
千歳は俺に寄って来て、デジカメを覗き込んだ。
「こんな。ちょい待って、どのモードで撮るのが一番か選ぶから」
俺は撮った写真を見返し、スナップかポートレートモードがいい感じに撮れるのを発見した。
「この2つ、どっちがいいかなあ」
『うーん、周りがはっきり写ってるやつのほうが、何してるかわかりやすくていいんじゃないか?』
「じゃ、スナップだな」
写真の中の千歳は、本当にすてきな巫女さんだった。
……今撮った写真、後でデータもらおう。




