番外編 金谷千歳とQOL
寿司食って帰った次の日の朝飯で、和泉に「この所暗くてごめんね」と謝られた。
「仕事のプレッシャーはあるんだけどさ。今のところ順調に進んでるし、そんなに重く見ないようにする」
『そっか、昨日の酒、気晴らしになったか?』
和泉は苦笑した。
「いや、実はあんまりならなかったから、もっと普段から自分で努力しないといけないなって」
『ふーん』
まあ、あんまり酒飲まれても心配だし、こいつがプレッシャーに潰されないように努力する、ってことならそれを応援してやりたいな。
『ほどほどに頑張れ。疲れるなら、またマッサージしてやるし』
「うん、ありがとう。QOLを上げてきたいから、ちょっと買い物増えるかもしれない」
『きゅーおーえる?』
知らない単語だったので、ワシは首を傾げた。
「クオリティオブライフ、人生の質ってこと。やっと安定した職につけたしさ、体も健康だしさ、人生楽しんでいきたいじゃん」
和泉は笑った。
『まあ、そりゃそうか』
その勢いでいい女探して結婚してほしいけど、仕事落ち着くまでは難しいかな。まあ、9月になったらせっつこう。
「だからさ、いつかやってみたかったけどまだやれてないことをやろうかなって。福島の桃を買ったり、献血してみたり」
和泉は両手を広げた。
『なんで福島? 献血?』
ワシはまた首を傾げた。
「んー、千歳は東日本大震災のことどれくらい知ってる?」
『すごく揺れて津波が来たって』
星野さんが当時すごく怖かったって言ってた。
「それで、福島で原子力発電所から放射性物質漏れが起きちゃってね、でも農家の人が頑張って汚染された土とか樹皮とか取り除いて、農作物も検査して、今出回ってる福島の農作物は国際基準よりもずっと安心なんだよ」
『へえ』
「俺の両親さ、放射性物質漏れの時にインチキ商品ばらまいて「福島は危険!」みたいに煽ってたから、俺一度は福島のおいしいもの買って罪滅ぼししたかったんだけど、なかなか……今日に至るまで人生に余裕なくて」
和泉は少し眉根を寄せた。そうか、地震起きたのこいつが高校生の時くらいだし、そのあとは苦学生だし、さらにその後はブラック企業で体壊したんだもんな。
『でも、なんで桃なんだ?』
「季節だし、あと福島の桃ってすごく評判がいいんだ。一緒に食べようよ」
ふーん、まあ、うまい桃食べられるなら反対する理由ないな。
『じゃ、買ってきたら剥いてやる。あと、なんで献血したいんだ?』
「それは単に個人的に一度やりたくて……今健康だから薬特に飲んでないし、千歳のご飯のおかげでいい血になってると思うし、一度したいなあって」
『ふーん』
こいつからそんなに血取って大丈夫かなあ?いや、でも人助けになることだし、本人がやりたがってるんだしな……。
『じゃ、しばらく鉄分の多いもの食わすぞ』
「わー、ありがとう」
和泉はワシを拝んだ。
……QOLって、死が近い人の残された人生の質をよくするって意味もあることを、この時知っていれば、と思う。




