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子々孫々まで祟りたい 〜転んで祠を壊しちゃったら怨霊が子々孫々まで祟りに来たけど「俺で末代」と言ったら怨霊が困り始めて子孫を残させようと奮闘しだした件について〜  作者: zingibercolor・種・がくじゅつてきあかげ
第8シーズン

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番外編 金谷千歳の気付き

 今日は『唐和開港綺譚』ニ巻の発売日なんだけど、祟ってる奴はもう狭山先生と三巻の打ち合わせをしてる。ワシは組紐を作りながら、二人の声を聞いていた。三巻は漢方薬の医学論文も参考に書くんだって、すごいな。

 打ち合わせが一段落して、二人は雑談し始めた。


〈じゃあ妹と話したんですか!〉

「結構話したんですけど、名前聞き忘れちゃって」


 何してんだもう、名前聞くなんてナンパの基本だろ!

 

〈狭山サキって言います。花が咲くで咲〉

「あ、そうなんですね、なんか、咲さんにもご家族にも私のこと、話してくださったみたいで」

〈そうなんですよ、和泉さんがいなかったら僕結婚できなかったんで!〉

「まあ……結果的にはそうかも知れません」


 祟ってる奴の照れ笑いが、ノートパソコン越しに見えた。


「機会があったら、また狭山さんと飲みとか遊びとか、ご一緒させてほしいです」

〈わ、本当ですか!? 僕もご一緒したい! あ、でも……〉


 狭山先生の声が、暗くなった。


〈和泉さんと遊びたいって気持ちと……新生活で時間がないって気持ちと……心が2つあるー!〉


 そ、そうか、働いてるとな……。新年度だもんな、忙しいよな……。


「遊びたいと時間がないの板挟み、ってことですか。いや、私も割とそんなですが」


 祟ってる奴は苦笑した。

 

〈えーと、新生活っていうのはその、僕、昨日からあかりさんと一緒に住み始めまして。休みの日に生活にいるもの買ったり、お互いの生活のすり合わせしたりで、なんだかんだでしばらく……〉

「あ、そうだ、新婚でしたね! そっか、金谷さん高校卒業したから、もう一緒に住めるんだ!」

〈あはは、そうなんです。で、新婚なんで僕の改姓手続きも大変で……〉


 狭山さんの声が、またどよんとなった。


 〈僕、通称は旧姓のままで行きますし、小説の名義も狭山のままですけど、行政とか銀行とかクレジットカードでは、全部、真名は金谷ってことにしないといけないから、本当にめんどくさくて……〉

「お疲れ様です……」


 祟ってる奴は心底労る声でそう言い、それから、ふと思いついた顔になった。


「じゃ、狭山さんは今、金谷さんには下の名前で呼ばれてるんですか?」

〈いえ、普通に「狭山さん」のままです。習慣になっちゃってて、なかなか変えにくくて〉

「あー、なるほど」

〈まあ、でも、あかりさんに近くで呼びかけられるだけで嬉しいですけどね〉


 狭山先生の笑い声。祟ってる奴も笑った。


「わー、惚気ですね!」

〈へへへ、バレましたか〉


 ……そう言えば、ワシ、祟ってる奴に名前で呼びかけたことないな。いつも、おい、とか、お前、とかだ。それで用が済んじゃうからだけど。

 祟ってる奴の打ち合わせが終わった後。特に用事はなかったけど、祟ってる奴に、和泉、と名前で呼びかけてみようと思った。『和泉』と呼びかけようとして……声が出なかった。

 不思議に思ってもう一度やり直したけど、声が出ない。いずみ、いずみ、いずみ。何度も名前で呼びかけても、口は動くが声が出ない。


『え、なんでだ!?』


 驚く声は、なんの異常もなく出た。


「ん? どした?」


 祟ってる奴がワシを見た。


『え、いや……えっと……なんでもない』


 声は普通に出る。こいつに名前で呼びかける声だけが出ない。

 ……どういうこと?

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