エピローグ 金谷千歳と1000年
それからもワシと和泉はずっと一緒にいて、いろんなことがたくさんあった。
和泉が30代のとき。とにかく子育てが大変で、毎日が飛ぶように過ぎていった。りゅーちゃんはクーちゃんと一緒に保育園に行くようになって、保育士さんとかにずいぶん絵を褒められるようになったので、和泉が「絵を習わせてあげようよ」と言い出して。近所にお絵かき教室があったので通わせて、和泉は「絵を描くんだから、きれいなものをたくさん見せてあげよう」って花や宝石やきれいな生き物の図鑑をたくさん買ってりゅーちゃんに見せてあげてた。りゅーちゃんは大きくなるごとにめきめき絵が上達して、賞をたくさん取った。特にうまかったのは、クーちゃんを描いた絵だった。
和泉が40代のとき。りゅーちゃんは中学生になって、ちょっと子育てが落ち着いて。でも和泉はりゅーちゃんの進路にすごく心を砕いてて、「将来絵の仕事に就くにしても勉強はできたほうがいいよ」「将来フリーランスになるとしても一度は会社に雇われて働いたほうがいいよ」とだいぶ早すぎる心配をしていた。りゅーちゃんはよくわかってなかったみたいだけど、高校になって「俺美大に行きたいな」と言い出して、だから画塾ってところに通わせたら、そこですごく認められたみたいだった。勉強もそこそこできたから、りゅーちゃんは国立の美大に一発で合格した。あとで知ったけど、一発合格はものすごく珍しいんだって。東京の大学に通うわけだから、一人暮らしかなあ、寂しいなあと思ってたけど、九さんが目をかけてくれて、大学の近くのドアにうちを繋げてくれて、りゅーちゃんはうちから大学に通えるようになった。ワシはまだりゅーちゃんといられて、とってもうれしかった。
和泉が50代のとき。りゅーちゃんはイラストレーターっていうのになって会社に入って、でもお金を貯めたいからってうちからの通いになった。ワシは全然気づかなかったんだけど、りゅーちゃんはずっと昔からクーちゃんが好きで、クーちゃんが住んでるところから離れたくなかったんだって。クーちゃんは猫の運動神経を活かしてスポーツ選手になってたけど、りゅーちゃんと一緒にやっていくことに決めたそうで、りゅーちゃんは「クーちゃんと結婚します」と正式にうちに連れてきた。クーちゃんのことは小さい頃から知ってたから、ワシも和泉も大喜びした。
和泉が60代のとき。仕事に余裕ができて時間ができたし、ゆっくりしていい年だしで、2人で全国いろんなところに旅行に行った。そしたら、りゅーちゃんとクーちゃんはうちの隣に家を建てて暮らしだした。そして2人の間に赤ちゃんが生まれて、ワシと和泉は初めて孫を抱いた。孫ってこんなにかわいいんだねって、2人で笑い合った。
いろんな事があったけど、ワシが老けないから変な目で見られることもあったけど、ワシはずっと和泉と一緒にいられた。だからワシは、和泉と一緒の暮らしがこれからも続くんだと思っていた。
和泉が70代最後の年。朝飯のとき、和泉が盛大にむせて、それからずっと咳が止まらなくて、しまいに熱が出て、その熱が下がらなくて。病院に行ったら、誤嚥性肺炎って言われて即入院になった。
和泉はどんどん弱っていった。酸素マスクつけられて、それでも息が苦しくて、酸素濃度は下がり続けて、寝たっきりだからどんどん体が弱っていって。ある日、お医者さんにこう告げられた。
「少し早いと感じるかもしれませんが、老衰です。時間の問題です」
老衰? 老衰? それって……寿命ってこと?
こんな日が来ると思わなくて、来るとしてもずっと先だと思ってて、どうしていいか分からなくて、泣いて泣いて泣いて、そしたら、話を聞いた和束ハルがある術式を渡してくれた。
不老不死の術式。和束ハルが高千穂先生に作ったのと同じ物。ワシは20年前に和束ハルに霊力を分けて、和束ハルは高千穂先生を不老不死にしたんだけど、それと同じ物。
「どうせ覚悟できとらんのやろ。和泉豊がいい言うたら、これを握らせて霊力を流せ」
ワシは和泉がいる病院に飛んでいって、死にかけの和泉に全部説明して、泣きながら言った。
『行かないでくれ、ワシと、ワシとずっと一緒にいてくれ……』
和泉は、少しだけ目を開けて、返事の代わりにワシの手を握った。だから、ワシは和泉に術式を握らせて、霊力を流した。
そしたら、ワシの霊力が強すぎて、和泉はみるみるうちに20代まで若返ってしまった。
病院では大騒ぎになった。他の人たくさんに見られちゃったから。国中、いや世界中を上げての大騒ぎになって、和泉は医学的にめちゃくちゃ詳しく調べられることになっちゃった。
ワシは、これからも和泉と一緒にいられて嬉しくてボロ泣きしてたんだけど、りゅーちゃんは和泉を見て呆然としてた。
「何やってんの! 俺よか若くなっちゃって!」
「いや、俺もここまで若くなるとは……」
「どうすんの、これから」
「とりあえず研究には協力するよ、科学的に何がどうなって若返ったのか、俺も興味あるし」
『和泉! これからも、これからもずっと一緒だよな!』
和泉は優しく微笑んで、「もちろん」とワシを抱きしめてくれた。
和泉は一年くらい研究対象としてあらゆるところを調べられたけど、その後は数年ごとの定期検査で済ませることになって、暮らしがちょっと暇になった。
「俺、若返っただけじゃなくて不老不死になったんだよね。どうしようかな、これから」
『貯金はそこそこあるから、しばらく暮らしには困らないぞ?』
「うーん……」
和泉は考えて、そして言った。
「それなら、大学入り直したいな。いや、高校くらいからやり直さないといけないかも……」
ワシはびっくりした。
『お前まだ学校通うのか!?』
「だって、学び直さなきゃ20代としてやっていけないし。生涯勉強」
『うわー、そういやお前、頭いいんだった……』
○o。..。o○
ワシは、ずっと和泉と一緒にいた。和泉も、ずっとワシと一緒にいてくれた。
たくさん時間が過ぎて、いろんなことがあった。りゅーちゃんは人としての生を終えたあと竜神になって、長命のクーちゃんとずっと添い遂げることになった。和泉は最高の防御力を持ってて、ワシは最高の攻撃力を持ってたから、人から霊から神から仏から、いろんな頼みごとをされた。和泉は学生をやりながら、時には働きながら、ワシと2人でいろんな頼みごとを解決していった。ワシは、和泉とずっと一緒にいられて、一緒にいろんな事ができて、とっても嬉しかった。
それで、何年も何十年も何百年も経って、西暦3022年の春。ワシと和泉は火星旅行に来て、宇宙ステーションの中を歩いていた。ふわふわの低重力。ワシは、初めての宇宙にはしゃいでいた。
『行きのシャトルさ、無重力ってマジですごかったな!』
「俺はちょっと酔った……」
『かわいそうに』
「しかし、まさか個人で火星に行けて写真撮れる日が来るなんてなあ」
『りゅーちゃんに送ってやろうよ、火星写真』
そんな事を話しながら、透明アクリル張りの宇宙ステーションから火星の風景を見ていると、和泉はふと真面目な顔になって、ワシの顔を覗き込んできた。
「ねえ、覚えてる?」
『ん? 何だ?』
「あのね、今日で1000年なんだよ、俺と千歳が会ってから」
『え!? ……あっ、そう言えばそれくらいか!』
「千歳はさ、1000年でも祟れるって言ってたじゃん」
『まあ、そんくらいは余裕』
「次の1000年も、俺を祟ってくれる?」
和泉は、改めてワシにプロポーズするみたいな、真剣な表情だった。だから、ワシは微笑みを返して、和泉と手を繋いだ。
『千年でも、万年でも、ずっと一緒だ』
これまでいろんなことがたくさんあったし、これからもいろんなことがたくさんあるだろうけど。
2人一緒なら、きっと大丈夫。




