優しく面倒見たげたい
千歳はフラフラと寝室に行き、ぶっ倒れ寝してしまった。緑さんたちは一旦現場に戻って、結界その他の後始末をするそうだ。俺はしばらくアタリの子の面倒を見ることに……いや、この子世話するにあたって、必要なものたくさんあるぞ! まず着替え、それからおむつ、おむつのセットとしておしりふき、あとおもちゃなんかも欲しい!
どうしよう、あの地下牢の中そこそこ物があったから、それくらい揃ってるだろうか。
緑さんにその辺を言うと「急いだほうがいいです」と言われた。
「警察が調べに来ますので、うるさいこと言われる前に総ざらいしたほうがいいと思います」
「が、頑張ります!」
玄関はまだ地下牢とつながってるので、慌てて地下牢に行く。アタリの子の子を放置するわけにもいかないので、片手でアタリの子の手を引いて、荷物集めを片手だけでしたので作業は困難を極めた。まあ、どこに何があるかアタリの子に聞けたのは助かったけど。
「お着替えどこかな?」
「あえー!」
アタリの子が地下牢の隅っこにあるカラーボックスを指さすので、持ってきたバッグに普段着から下着からパジャマっぽいのから、片っ端から詰め込む。いったん家に戻ってバッグを置いて、それからまた地下牢へ。
「おむつどこかな?」
「あっち!」
アタリの子の指差す方向に行き、封が空いてないおむつ1パックを見つけ、おしりふきも見つけたのでそれらを家に持っていく。
「おもちゃ、どれが好き?」
「ぶーぶー!」
アタリの子が指さす先におもちゃボックスらしいものがあり、そこにミニカーやらレゴやらぬいぐるみやらが入っていたのでボックスごと持って行く。
あと他にあるかなともう一度地下牢に戻り、そして俺は今更ながら床に画用紙が散乱しているのに気づいた。どれもクレヨンで色々書いてあり、車やら人やら……この年の子にしては形をよく捉えてる、うまいな!
俺はアタリの子に聞いた。
「お絵かき、好き?」
「しゅき!」
「じゃ、これも持ってこう」
床を探し、散らばってたクレヨンを拾い集めてクレヨンの箱に適当に入れる。子供用のスケッチブックと塗り絵の本もあったので、いくつか持っていく。やれやれ、これでなんとかなったかな……。
家に戻り、持ってきたものを整理したり広げたりしていると、アタリの子は早速お絵かきをし始めた。おとなしくてありがたい。
「ここあ! みーて!」
描いてあるのは、さっきのマグカップと、中に入っているココア。
「うまいねえー! えらいねえー!」
「えへー!」
そして、アタリの子はキョロキョロし始めた。
「ごはんは?」
「あ、もう夕飯くらいの時間か」
時計を見ると、もう6時。ちっちゃい子はおなかが空く時間だな。俺はアタリの子に聞いた。
「何食べたい?」
「しゃけおにーに!」
「おにーに? ……ああ、おにぎりか」
鮭か、千歳がちょいちょい朝ごはんに出してくれるから、冷蔵庫探せばあるかも。
「おじちゃん作ってくるね、それまでお絵描きしててね」
「うん」
探してみたら、鮭切り身パックは冷凍庫にあった。これ焼いてほぐしておにぎりにして、おにぎりだけじゃあれだから野菜いっぱい入れたお味噌汁でも作るか。小さい子は甘いものが好きだろうから、玉ねぎと、あと野菜室にかぼちゃあったからそれ入れよう。
グリルで鮭を焼いてる間に野菜を切って味噌汁を作る。鮭が焼けたので、骨取ってほぐして、千歳が炊いといてくれたお米に入れて小さなおにぎりを3つ作る。海苔は……ないか、まあ仕方ない。
お皿におにぎりを乗せ、小さい器を探して味噌汁も入れる。子供用の食器がないので、味噌汁用のスプーンとしてティースプーンをつけた。
「ほら、ご飯だよ、お手々洗おう」
俺はアタリの子を洗面所に連れてって適当に手を洗わせ、食卓に座らせた。
「ほら、いただきますしてね」
「いただきまちゅ!」
アタリの子はちっちゃな手をぱちんと合わせて、おにぎりに手を伸ばした。ぐちゃぐちゃに握りしめつつ、でも喜んで食べている。お味噌汁の方は、器から汁は飲んだんだけど、具は残してスプーンでいじって遊び始めた。俺は言った。
「お野菜も食べな?」
「はやくたべちゃいなさい!」
「それは俺のセリフ!」
いきなり流暢に喋るじゃん! どこで覚えたんだか……。
……いや、この子が言葉を覚えるなら堀江さんからか、せいぜいテレビくらいだ。そうか、この子は堀江さんに食事の世話してもらいながら「早く食べちゃいなさい!」といつも言われてたのか。
「……ちゃんと食べようね、食べないと大きくなれないよ?」
「もういいの!」
アタリの子はスプーンを放り出した。
「そう言わないの、はいおくちあーん」
俺は持ち手が米でベタベタのスプーンを手にとって、カボチャをすくってアタリの子の口に近づけた。アタリの子は素直に口を開け、俺がカボチャを入れてあげるともぐもぐしだした。
「ほら、甘くておいしいだろ?」
「おいち!」
アタリの子は両手を頬に当てた。かわいいことするじゃん。
そのまま野菜を食べさせて、俺も自分用に握ったおにぎりを適当に食べて、アタリの子にごちそうさまさせ、また手を洗わせる。もう7時か、これくらいの子なら8時に寝てもいいし、お風呂入れちゃおうか。
「おじちゃんとお風呂入ろっか?」
「ぶっぶーもってく!」
「壊れるからだーめ! レゴにしな!」
俺はおもちゃボックスからレゴの車を探してアタリの子に持たせ、2人分の着替えを持って脱衣所まで行った。
髪が長いから、俺はアタリの子を女の子だと思っていて、女の子の体の洗い方分かんないしどうしようかなと思っていた。だけど、アタリの子のおむつを脱がせたら股間に小さいどんぐりちゃんがついていて、俺は安堵した。
「シャンプーしようね、ほーら上向いてね」
「あーい」
しばらくお風呂に入れてもらってないのか、全然シャンプーが泡立たない。二回目のシャンプーでやっと泡立った。体の方も同様だった。
自分のことも適当に洗い、アタリの子と湯船に浸かってレゴで遊ばせる。
「肩まで浸かってね、10数えるまで浸かるんだよ、いーち、にーい、さーん……」
「おじちゃんにぶっぶーすゆ!」
アタリの子は俺の脇腹にレゴ車を走らせた。
「俺を道路にしないで!」
なんとか入浴を終え、アタリの子におむつを履かせ、パジャマも着せる。水分補給に麦茶を飲ませ、俺も飲んで、そしたらもう8時近い。あとは歯を磨いてやって、そしたら布団に入れて絵本でも読んであげて寝かしつけようか。
「歯磨きしようねー」
しかし、大人用の歯ブラシしかない。子供用の歯ブラシ探して持ってくればよかった!
それでも何とか磨いてあげたが、大人用の歯磨き粉を使ったら辛くて泣くと思って歯磨き粉は使えなかった。磨き残しが不安だな……。
「はい、くちゅくちゅぺー」
「ぺー!」
口をゆすがせて、リビングに戻ると8時。もう布団に入れちゃお。
千歳を起こさないように、そっと寝室に入る。千歳はぐっすりすやすや。俺は声を潜めて言った。
「起こしちゃいけないから、ちっちゃな声ね」
「ねんね?」
「そう、おじちゃんとねんねしようね」
アタリの子は、不安げにキョロキョロしだした。
「ねぇねは? ねんねしないの?」
ああ、そうか、堀江さんに寝かしつけられてたか……。
「……ねぇねは……遠くにいるよ、元気だけど君とは会えないんだ」
「きみ? きみってなあに?」
君がわからない? 堀江さんは使ったことなかったのかな? そう言えば、俺この子の名前知らないな?
「お名前は?」
「ないないなの。ないないちゃんなの」
「ないないちゃん?」
俺は思い出した。朝霧の忌み子は、呪われにくいように名無しだったこと。名前すらなかったのか、この子……。
「ないないちゃんはちょっとね、おじちゃんが名前つけてあげようね」
「???」
目をぱちくりするアタリの子。この子にふさわしい名前か……そういやこの子、人としての生が終わったら竜神にならないかってお誘いが来てるんだよな。なんかそれに因むか?
アタリの子をよく見て、着てるパジャマの柄がドラゴンなことに気づいて、俺は決めた。
「今日から、君のお名前は竜だよ」
「りゅー?」
「これのことだよ」
俺はパジャマにプリントされたドラゴンのイラストを指さした。
「りゅー? りゅーちゃん?」
アタリの子は自分を指さした。
「そう」
「りゅーちゃん!」
りゅーちゃんは嬉しかったらしく、飛び跳ねて踊り出した。
「しーずーかに、千歳起きちゃうから」
「りゅーちゃん!」
寝かしつけたいのに、興奮させちゃったな……。
「ほーら、お布団入るよりゅーちゃん、絵本読んであげよう」
りゅーちゃんを布団に入れようとして、子供用枕なんてないことに気づき、適当にタオルをたたんでりゅーちゃんの枕にする。タオルケットをかけてあげて、タブレットで2歳向けの絵本を探し、寝る前に良さそうな絵本を見つけて買った。
「はい、ねむねむごろんだよ。ぞうさんがねむねむ」
「ねむねむ」
「どしーん、ねちゃったね」
「どしーん」
「くまさんがねむねむ」
「ねむねむ」
「ごろーん、ねちゃったね」
「ごろーん」
一冊読み終わる頃には、りゅーちゃんはまぶたが重くなり始めていた。
「はーい、ねむねむ、ごろーん」
「ごろーん……」
タオルケットの上からしばらくぽんぽんしてあげる。りゅーちゃんは目を閉じ、そして深い呼吸をし始めた。もうちょっと寝かしつけて、起きそうになくなったら俺は起きよう。
しばらくして、りゅーちゃんはすやすやになり、俺は布団から起き出した。やれやれ、食器洗ってないし洗濯物も放り出しっぱなしだし、持ってきた荷物も整理しきれてないし。必要なものもこまごまと買い足したいし、何とかしなきゃ。
寝室から出ると、広げっぱなしのスケッチブックが目についた。スケッチブックには肩くらいまでの髪の人物が描いてあって、俺は心が痛んだ。それは、堀江さんの髪型と一緒だったから。
ねぇねのこと大好きなんだね、ねぇねとは多分会えないけど、その分俺がいっぱい優しくしてあげるから、それで満足してくれないかな?




