これからずっと繋ぎたい
千歳は俺の一生恋人宣言に怒ってたけど、やがて気を取り直したらしくて、ため息をついて言った。
『しばらくは付き合ってやるけどさ。尻は準備大変だから、やりたいときは事前に言え』
雰囲気というものが何もないな。いや、でもお尻って普通はそういうことに使わないし、準備大変ではあるのか。
というか。
千歳には性欲も恋愛欲もないわけで。俺は千歳と恋人らしいことをたくさんしたいけど、恋人らしいことを求めすぎて千歳に嫌われたら嫌だな……。
「そっ、その……普段抱きしめたりキスしたりはダメでしょうか……」
恐る恐るそう聞くと、千歳は『んー』と首を傾げた。
『人のいないところでならいいけど』
いいんだ! やった!!
千歳は、少し考えてから言葉を続けた。
『そのさ、ワシお前にドキドキもムラムラもしないけどさ、お前に触られるのも触るのも嫌じゃないんだ。お前がうれしいなら触らせてやりたい。だから……ワシ、相当お前のこと大事なんじゃないかな?』
そ、そうなの!? 嬉しい……千歳がそんなに俺を想ってくれてたなんて。
俺は、思わず涙ぐんでしまった。
「じゃ、じゃあ、これからよろしくお願いします……」
『うん、まあ、付き合ってやる』
「ありがとう!」
これで俺と千歳は晴れて恋人同士なわけだが、しかし。
恋人らしいこと。スキンシップやセックス以外にもいろいろあるけど、いろいろをどうすればいいだろう? もっと日常的にイチャイチャしたいし、デートだって行きたいけど、体調的に遠出はまだ不安だし……。
話しながら朝ごはんを食べ終わって、ひと休み。いつもみたいに軽く散歩したら、帰って二度寝したいな。
食器を洗い終えた千歳が『散歩行くよな?』と聞いてきたので「行く!」と返事して、お互い寝巻きから外出着に着替えた。
千歳と2人でぶらぶら歩く。季節は梅雨の走り、雨がちだけど気温は低め。歩くのにはちょうどいい。近所の木々はクチナシのつぼみが出てきて、紫陽花も咲いてきている。季節は少しずつ進んでいくなあ。
『うちのクチナシもさ、しばらくしたら咲きそうなんだよな』
千歳が去年、うちの庭にクチナシを植えてくれた。クチナシの香りを楽しめるのは、植えている家の特権だ。
「うん、楽しみ」
時刻は8時半。通勤も通学も落ち着いて、住宅街にも公園にも人気はない。
千歳が『誰もいないからいいか』と言い、すっと俺の手を取った。すべすべで柔らかな千歳の手が、俺の手をきゅっと握る。
「え!?」
『言っとくけど、ワシがしばらくお前の恋人やるの言いふらしたら怒るからな! こういうのは人がいないときだけだ!』
そ、そうだ、手をつないで歩く、まさにこれが恋人同士でやることだ!
千歳と恋人になれた実感が、ようやく湧いてきた。俺は、千歳の手を握り返した。
「俺、俺、今、ものすごくうれしい……」
俺がそう言うと、千歳は笑って、『デレデレしやがって』と言った。




