俺は人生の勝ち組になりました(上)
──あれから2週間経った。
どちらの人生もすごく楽しいものだ。この2週間で感じた幸福感は、俺の今までの17年間の人生で感じた幸福感を遥かに上回っただろう。
そのくらい楽しかったのだ。
赤城 悠雅としては、初めて女の子と遊んだりもした。
親友もできたし、もちろん男子達でバカやったりもした。
そのほとんどが初めての行為だ。
外に出ることがこんなにも楽しいとは思わなかった。常に心地いい悔しさに襲われていた。
望月 紗矢香としては、初めてガールズトークたるものをした。
いつもはうるさいと鬱陶しく思っていたのだが、実際に話してみると楽しかった。騒ぎすぎているのも仕方が無い気もした。
初めての生理は少し辛かったな。あんなのと数十年間、月一のペースで付き合うなんて大変だ……。俺も今や他人事ではないのだが。
まあ、とにかく楽しかったのだ。
そして、あれから2週間経った。今日は何の日だか分かるか?
今までの俺なら全く興味の無いイベント……そう。バレンタインデーだ。
もちろん、過去俺は1度ももらったことは無い。1度たりとも。
だが、このイケメンならさすがにいくつか貰えるのではないだろうか。女子の友達も多いし…。
あ、ちなみに昨日俺は紗矢香の姿では作りました。もちろん男子にあげようとは思わないが、女子間でも渡し合いというものがあるらしい。俺はそれを聞いて慌てて作ったのだ。出来は良かった。紗矢香ってホント色んなことできるんだな……いや、俺なんだけど。
とにかく。俺はあの初めてのイケメンの日以上にワクワクしながら家を出た。
あまり欲しがる素振りを見せるのは良くないよな……そんな、過度の期待を抱えて学校に向かった。
──8時間後。
俺はいくつかチョコをもらった。めちゃくちゃ嬉しかった。チョコを貰うってこんなに嬉しいことなんだな……ああ、ありがとう神様。いや、悪魔様。
「…おい。悠雅聞いてんのか?」
友達・恭平の声で我に帰った。少し自惚れすぎてたな……今のは自分でも気持ち悪かった。きっとそこそこまずい顔をしていただろう……。
「すまんすまん……で、なんだったっけ」
悪いが俺は今の恭平の話は頭に入ってなかった。
「おいおい……何浮かれてんだ?」
「な、何も浮かれてないっ…」
「そうか?」
そんなくだらない会話を交わす。最初は嬉しかった会話も、最近は日常と化しつつあった。
恭平の顔を見ながら話していれば、急にゲッとした表情を浮かべたのだ。
「わりぃ…俺上に忘れもんしてきたわ。ちょっと取ってくるからそこで待っててくれっ」
俺の返事を聞かずに、恭平はそのまま校舎の中へ戻っていった。