女の子ってのも案外いいかも?(下)
土曜日の昼下がり。俺は女の子の制服に身を包んで繁華街を歩いていた。
隣には超ハイテンションな友達・唯。
そして前には斉藤と相川という男の子2人が楽しそうに会話をしつつ、たまにこっちに話題を振りながら歩いているのだ。
正直、俺は男女混合カラオケを前にしてテンションがもう一つ上がらない。横に居る超ハイテンションガールによって無理矢理引き上げられているのだが、それにも限界はある…。あぁ、何でこうなったんだ。
俺は今朝の唯との会話を何度か思い出してはその度に頭を抱えて蹲りたくなる。1人ならとっくにそうしていただろう。周囲の目が俺の感情を抑制していた。
絶望の眼差しを目前に向ければ、前を行く男子がこちらに笑いかけながらどこかを指さしている。その先には某有名カラオケ店がある。
俺はなんとか笑みを作りながらカバンの中から財布を取り出した。
平凡な広さのカラオケボックスに俺は居た。トップバッターは唯だ。トリセツという歌を歌っている。聞いたことはあるが、なんて勝手なんだ!と思った記憶しかない。しかし紗矢香の感覚で聴いてみればちょっと分かってしまうところもある。ああ、イケメンと美少女とを渡り歩けるのはいいが、こういうところはちょっとめんどくさい。
なんというか、区別が曖昧なんだよな、うん。
……って。今はそんなことを考えてる場合じゃない。この窮地をどう切り抜けるかだろ望月紗矢香!……ちなみにフリータイムなので、ここから超混み合って「すみません出てください〜」なんて言われる事になったとしても、少なくとも3時間はこの耐久ゲームを過ごさなければならない。
普通に考えて、ここに居るのは4人。1曲5分として、3時間だとしても1人あたり9曲は最低ラインだ。俺にそんなレパートリーはない。ましてこんなところでアニソンなんて歌えねぇ。
「紗矢香も入れなよ〜っ!」
「えっ…?あ、あぁ、うんっ…」
いつの間にか歌い終わっていた唯がベタベタくっつきながら言ってくる。気付けば男子が歌っており、3番目の曲も入っている。
つまるところ、俺に残された時間は約5分といったところか。5分で俺はこの状況を打開しなければならないのだ。
──それは一瞬の出来事だった。
「紗矢香はもっとテンション上げていこうっ!」
そんな訳の分からない唯の言葉と共に曲が送信されてしまったのだ。
そしてここで俺はもう一つの重大なことに気がつく。
──女子が歌う歌なんて知らない。
そうなのだ。俺は今女子だ。周りから見ても女子だ。つまり俺が歌う曲は女子が歌うような曲なのだ。
そもそも知っている曲が少ないのに、その上で女子が歌うような曲だなんてあるだろうか。いや、ない。
俺の番はすぐに回ってきた。マイクを握らされる。イントロが流れる。歌詞が出てくる…。
終わった。こうなりゃやけくそだと俺は口を開けた。
──綺麗な歌声が頭に響く。紛れもなく自分から出ている声だ。
俺はこの曲を何故か知っていた。理由は分かった。紗矢香が知っていたからだ。
そうか。よく考えれば紗矢香の記憶に意識を集中させれば良かったんだ。俺はなんてバカなんだ。
それにしても俺の歌はとても上手で、綺麗だった。男子はもちろん、唯でさえも目を輝かせている。
俺は気分が良かった。最高の気分だ。
2月18日(土) 晴
今日は、人生初のカラオケに行きました。
超絶楽しかった。
最初は嫌だったけど、歌ってみればすごく上手かった。90点なんて幻想だと思ってたけど、本当に取れるらしい。
唯には「歌姫」なんて言われたか。笑
調子に乗りすぎて喉が枯れそうになったのは反省点だけどな。
女の子って、案外いいかも。




