女の子ってのも案外いいかも?(上)
「よぉ…」
………?
「俺…よ……悪魔だよ」
ああ、悪魔か。
「お前の夢の中だ。……どうだ、調子は。」
最高だよ。イケメンも美少女も最高だ。
「なら良かった。……お前には期待してるんだぜ?」
……期待?何の話だ?
「まあそのうち分かる。……もうすぐ朝だぜ」
………。
俺はもう慣れ始めていた目覚ましの音で目を覚ました。
「……そういえば昨日……」
俺は夢の中の悪魔との会話を思い出す。
普段は夢の内容なんてほとんど覚えてないし、仮に覚えていても忘れていく一方なのだが、悪魔との夢は俺の頭にハッキリと残っている。むしろ時間が経てば経つほど鮮明になってくるのだ。
そして俺は少し不安になって胸元を触った。
……うん。膨らんでいる。良かった。
俺は女になっていることを確認すれば、ディズニーのカバーに包まれたスマホを手に取ってはカメラを起動させた。
内カメにして自分の顔が見えるように……つまり鏡替わりにして自らの顔を見ようと思ったのだ。
そのスマホの画面には、しっかりと見慣れた紗矢香の顔があった。
夢を思い出せば思い出すほど不安になっていたが、ひとまずその顔を見て安心した。画面に映る紗矢香も安心した表情を見せた。
そう言えば、昨日は初デートの日だったか。まあ、男の話だけど。
本当に楽しかったのだが、微妙に男の時よりは興味が薄れている気がした。やはり紗矢香と悠雅は別人ということなのだろうか。
俺はもうすっかり違和感も消え失せた女子の制服を身にまとっては朝の準備を始めた。
「おはよっ!」
「あっ!ねぇ紗矢香も来るよねっ!?」
教室に入っていつもの仲良しメンツに向かって声をかければ、突然その中の1人・唯がこちらを向くなり何かに誘ってくる。
「うんっ。行く行く!」
俺は何の話かもわからないが、とりあえずそう言った。これは男子の時もよくやっている。
例えば「お前もそう思うよな?」「うん。思う思う」的な。とりあえずそう返しとけよ、と。
ただ、ひとつ違うといえば男子の場合はそういう反応を求めて不意打ちしてくるのだが、唯に至っては純粋に聞いてきている天然様なのだ。
だから俺はノリとかそういったものではなく、何かしらに行くことになったらしい。
……まあ、いいんだけどね。
ちょっと他の子達がビックリしてるのが引っ掛かるけど……。
「じゃあ放課後教室ねっ!」
「わ、分かったっ」
……今日らしい。今さら引けないのもあって咄嗟に返事してしまった。……まあ、いいけどね。暇だったし。
「ほらっ!紗矢香が来るって言ってるんだしっ!莉奈と朱里もっ!」
莉奈と朱里というのは仲良し組のうちの残り二人の名前である。
「いやー……でも、私歌えないし……」
「私も男子の前ではパスかな……」
……はい?歌う?男子の前?
俺は耳を疑った。この2人は何を言ってるんだろうか。俺の不安度は一気に上昇して、思わず口を開いた。
「ね、ねぇ唯…今日の放課後、どこに行くの…?」
「ん?カラオケだよっ!斉藤と相川と!」
その二つの名前はどちらもクラスの男子の名前だった。
男子の前で、俺が、歌う?カラオケで?
おいおい……カラオケなんて行ったこともないし、そもそも歌に自信もない……くそ。自分の変なノリを恨む……。
「お、おっけーおっけーっ…」
今さら引くに引けない俺は少し力のない返事を返した。
唯はハイテンションで喜んでいた。
※紗矢香の学校は土曜日も午前授業があります。




