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闇魔法は使えない

「ちょっと待って、バトラー。あなたが闇魔法だとして、百歩譲って本当に闇魔法だとしても、どうしてこんなとこにいるの?! いてもいいの?!」


「家出したッス!」


「魔法が家出?!」


思わず自分の耳を疑った。

聞き間違いかと思って鸚鵡返しをしてしまった。


「そうッス! もう、忍耐の限界だったッス!」


魔法が忍耐の限界って何があったの?

魔法が自分の意志を持って家出してくるような事実より、そちらのほうが気になる。


「家出って、一体、何があったの?」


「光魔法や他の魔法ばかりもてはやされて闇魔法は不人気ッス! この前、最後の闇魔法の使い手が死んで誰も使わなくなったッス! だから家出することにしたッス! それで不遇な生活ともお別れッス! お嬢ちゃんに気に入られて毎日話しかけられる生活最高ッス!」


人気がないから家出って・・・。

使い手がいなくなったから家出って・・・。


「バトラー・・・」


呆れている私を他所にバトラーは気味の悪い笑い声を上げている。


「グフフフフ・・・。これであいつらより上ッス。人間にチヤホヤされて過労死させられていたら良いッス。おだてに乗って馬車馬のように扱き使われているのがお似合いッス」


ドス黒いオーラを醸し出すバトラーを見ていると闇魔法が邪悪な魔法使いの使うものだと言われているのが妙に納得できる。

もう、バトラーを抱き枕として見られない。


「・・・」


こんな怖い抱き枕があって良いはずがない。

駆除の対象だ。

魔法そのものだからどう駆除するのかはわからないけど、闇魔法バトラーの抱き枕生活は終止符ピリオドが打たれた。誰がやらなくても私が打つ。

そんな私の決意を闇魔法バトラーは気付かない。


「人気があるからって忙しい忙しいと自慢しやがって、こちとら羨ましくて堪らなかったッス。ざまあッス」


使い手である最後の一人が死んだって言うし・・・最後の一人?

それは邪悪な魔法使いはいなくなったってこと?

邪悪な魔法使いがいなくなったら、闇魔法も永久にわからなくなるってことよね?

それなら駆除する前に闇魔法を習っていてもいいかもしれない。

誰も使えない魔法なのよ?

皆が知らない魔法を私だけが使えるようになるのよ?


考えただけで嬉しくて頬が緩みそう。


「ねえ、バトラーが闇魔法なら闇魔法を私に教えることもできるわよね?」


「教えられるッスけど、何、企んでいるッスか? お嬢ちゃんがそんな声を出す時はいつだって悪戯を思いついた時ばかりッス。今度は何を思いついたのか怖いッス」


「企んでいるって人聞き悪いわね。私は闇魔法が使いたいだけよ」


失礼しちゃうわ、この偽装抱き枕(羊)。自分は何年も普通の抱き枕のふりをしていたくせに。

きっと勝手に私の部屋に入り込んでいたに違いない。

淑女レディの部屋をなんだと思っているのよ。

小さくても私は淑女レディなんですからね!


「お嬢ちゃんが闇魔法使ってくれるッスか?」


私は不自然に見えないよう、友好的フレンドリーな笑顔を浮かべる。


「当たり前じゃない。私とバトラーの仲じゃない」


闇魔法バトラーは飛び跳ねて(空中だから上下して?)喜ぶ。


「闇属性の適性が一番あるお嬢ちゃんのところに来て正解だったッス。お嬢ちゃんが闇魔法の使い手として有名になれば、闇魔法の復権も夢じゃないッスね。グフフフフ・・・」


またあの気味の悪い笑い声を上げて・・・。

何を想像しているかわからないけど、闇魔法を使うのは邪悪な魔法使いだけじゃない!

私が邪悪な魔法使いになったとわかったら、私だけでなく、一族郎党が罪に問われかねないじゃないの!

なんてはた迷惑な抱き枕なの?!

本当に呪いまでかかっているじゃない!


「ちょっと待ってよ! 闇魔法の使い手と有名になるってことは、魔物扱いされている邪悪な魔法使いになれってことじゃない! 私だけでなく、サイファー伯爵家も責が及ぶじゃない!」


「? 闇魔法を使っても邪悪な魔法使いにはならないッスよ」


「何を言っているの? 邪悪な魔法使いは人を操ったりするじゃない」


「人を操る精神操作系は無属性か複合魔法ッス」


「へ?」


闇魔法自体が違うと言ってしまうってことは闇魔法では人を操れない?


「呪いもかけられないの?」


「呪いなんて無理ッスよ。何でそんな危ないものを使えると思っているッスか。それが使えていたら世界は終わってるッス」


聞き捨てならない言葉が聞こえたようだけど、高位貴族のスルースキルを発動する。


「じゃあ、闇魔法は何ができるの?」


「眠らせることと目覚めさせることと闇に包むことッス」


寝て、起きて、意識失う?


「・・・。 もう一度お願い。聞き間違えたみたい」


「だから、眠らせることと目覚めさせることと闇に包むことッス」


「役に立たない! 眠らせるって、眠いから眠っているだけじゃない! 目覚めさせるって、水でもかければ覚めるじゃない!」


「ひどいッス! お嬢ちゃんがひどいこと言うッス! ちゃんと眠らせていたッス! 医者だった最後の使い手は患者の治療の時に使ってたッスよ! 治療されていた人だって痛みを感じなくて静かだったッス! いらぬ体力を使わせなくていいから回復も早くなったと褒められたッスよ!」


医者だから上手に利用できたけど、単体では使えないなんて魔法の意味あるのかしら?


「でもそれでは役に立たないわ。そうね、眠らせることができるなら夢は操作できるの?」


「無理ッス! それは特殊能力の一種ッス! 魔法じゃないッス!」


「使えないじゃない! 人気ないのも当然だわ!」


使えない!

なんて使えない魔法!


「わかったッス・・・。悪夢を見せる方法ならあるッス!」


あるなら早く言いなさいよ。

使えないと絶望するところだったわ。


「何?」


期待に目を輝かせて闇魔法バトラーの言葉を待つ。

闇魔法バトラー心持ち胸(?)を張る。


「眠らせてから胸の上に重しを置くッス!」


期待して損した!!

使えない闇魔法は使えないままだった!!


「それ、力技すぎるから! 魔法じゃないから!」


「ひどいッス! そこまで言わなくていいじゃないッスか!」


「だって、人を操ることも、呪いをかけることも、夢を操作することも出来ないのよ!」


「怖っ! そんなことしたくないッス! お嬢ちゃん、怖すぎッス!」


こんなことで震えるなんて、闇魔法はなんて軟弱なの?!

人間のほうが神経図太いんじゃない?!


「私なんか怖くないわよ! 闇魔法が使えないのが悪いんじゃない!」


「魔法だってやりたいこととやりたくないことがあるッス! そんな恐ろしいことしたくないっていう気持ちをわかってくれないッスか?!」


「魔法に気持ちがあることなんか、今、初めて知ったわよ! 魔法に意志があったり、話したりすることだってさっき初めて知ったばかりだし!」


「魔法にだって考えることや感じることができるッス!」


「だからって、闇魔法は使えなさすぎ! もっと使える能力、増やしなさいよ!」


「嫌ッス! 使えなくていいッス!」


闇魔法バトラーは私の抱き枕以外の使い途がないことだけはわかった。もう、抱き枕としては使わないけど。

クッションとして使ってやるから。

本当に、闇魔法は使えない。

今日は闇属性であることを後悔するしかない一日だった・・・。

せっかくの貴重な闇属性に生まれたのに闇属性の魔法自体が使えない魔法だったと判明するお話はこれでおしまいです。

お粗末な内容でしたが楽しんで頂けたのなら幸いです。


使えない闇魔法は抱き枕をクビになってもクッションとして怖いお嬢ちゃんのところにいます。では、また別の短編作品でお会いしましょう。

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