第50話
50.
私は走りながら時計を見た。もう深夜の1時になる。自宅のそばまで来ていた。そのまま帰ってしまえば横井さんも追っては来られない。けれど、やっぱり貴志さんに会いたい。貴志さんならこんな時間でもきっと来てくれる。私は迷わず貴志さんの番号にタッチした。
「へへへ、こんな時間にごめんなさいね。何してましたか?」
走ったせいで酔いが回ったみたい。思うように言葉が発せられない。
『寝てたけど…』
貴志さんは少し戸惑っているようだった。
『無理ならいいです』
私はそのまま電話を切った。声が聞けただけでも十分だった。今日はこのまま帰ろう…。そう思って歩きだしたとき、不意に背後から声を掛けられた。
「誰と話してたんだ?」
横井さんだった。心臓が止まりそうなほど驚いた。横井さんは私の腕を掴むと強引に私を引っ張って歩きだした。そして、ちょっと先の駐車場の影に私を連れ込んだ。
「安西ってやつだろう?おまえ、あいつと付き合ってんのか?だったら、今からお前んちまで行ってお前の旦那にお宅の女房は浮気してますってぶちまけるぞ」
「そうしたいなら、そうすればいいでしょう。あなたの言うことなんて誰も信用しないわ」
「なんだと!どうやら、やっぱりそうなんだな。だったら、お前なんかとは別れてやるよ。その代わり最後に一発やらせろよ」
そう言って横井さんは強引に私の胸を掴んだ。私はその手を振り払って逃げ出した。
「この野郎!」
そう叫ぶ横井さんの声が聞こえたと思った瞬間、頭部に強い衝撃が走った。目の前に地面が映ったのと同時に私の意識は消えてしまった。
目が覚めたら貴志さんが朝ごはんを作ってくれていた。
「おはよう。優里は今日も可愛いね」
そう言って貴志さんが私の頭を撫でてくれた。私は嬉しくて貴志さんに抱きついた。
「私、貴志さんと結婚したの?」
「今更なにを言っているの?優里はずっと僕の奥さんだよ」
そう言って貴志さんはキスをしてくれた。その途端に景色が真っ白になって頭が痛くなった。気が付くとそこは病院のベッドの上だった。真っ白な天井が見えた。そして、不意に見知らぬ人の顔が現れた。
「優里!大丈夫か?」
この人誰?どうして私の名前を知っているの…。




