第49話
49.
私は山本さんのしたたかさに感服した。そして、そんな山本さんが私と貴志さんのことを応援してくれると言った。こんなに心強いことはない。そう思ったら貴志さんに会いたくてたまらなくなった。
「今日はなんだかすっきりしました」
「すっきりしたら、彼に会いたくなったんじゃない?」
「はい!」
「まあ!素直なのね。そんなあなただから安西さんはあなたを好きになったのね」
「そんな…」
「あら、あら。可愛いこと。私も好きになっちゃいそうよ。じゃあ、あとはお好きにどうぞ」
山本さんはそう言って私を見送ってくれた。和夫さんが二次会のカラオケに行こうと言っている。山本さんは私に手を振ると、和夫さんのもとへ走って行った。その向こうに一人で帰って行く横井さんの姿があった。
私はいつものようにみんなの姿が見えなくなってから貴志さんに電話をしようと携帯を取り出した。その時、誰かに腕を掴まれた。横井さんだった。
「ちょっと付き合えよ」
横井さんは私の手を掴んだまま強引に私を引っ張って行った。
そこは横井さんと何度か行ったことがあるお店だった。
「この前は悪かったよ。山本さんが妙に絡むから、つい、カッとなってさ。俺も今までちょっと強引なところもあったと反省してるんだ。だから、これからも仲良くやって行こうぜ。アオちゃんだって、本当は俺のこと好きなんだろう?」
横井さんは今までの自分の態度を反省しているようだった。いつもなら、ここで許してしまうところなのだけれど、今はもう信用することは出来ない。私が黙っているので横井さんは一人で最近知った新しいお店の話や職場であった失敗話などをしながら笑っている。けれど、私が何の反応も示さないので次第に言葉使いが荒くなってきた。
「なんだよ!人がせっかく話題を振っているのに無視かよ。そう言えばさっきもみんなで俺を無視してたよな。山本のババァがなんか俺の悪口でも言ったのか?お前もグルなんだろう」
私は我慢できなくなって席を立った。そしてそのまま店を出た。
「おい!こら、ふざけんな!」
横井さんが後を追ってきた。けれど、幸いなことにお店の人に勘定を払うようにと呼びとめられた。そのすきに私は走って店から遠ざかった。




