第1話 『奪われた日常』
2026年某月某日、都内某所。
陽が傾きかけた中、家路を歩いていく中学生たちのなかに、1人で帰る少年の姿があった。
彼の名は、夢野康介。
中学3年生。部活は吹奏楽部。担当はアルトサックス。
通知表はオール5。
物静かな少年だが、父の勧めもあり小学時代にはラグビーのフルバックをしていた。
「明日は井上先生のパートレッスンか…。教えてもらうことまとめておかないと」
康介は心のなかでつぶやいた。
そのときーーー
視界が真っ暗になったかと思うと、康介は意識を失った。
◇◇◇
次に目を覚ますと、扉があった。家の玄関よりも大きいサイズか。
すると、声が聞こえる。
「さぁ、お目覚めかなぁ?よし、出るがいい」
シュイーン、という音とともに扉が開く。
「さぁ、出よ!」
康介は言われるがままに歩み出す。
すると、同じように別の4つの扉からも中学生が1人ずつ出てきた。
「ここは…?」
「諸君。君たちは栄えある私の餌食になってもらう。この度、我々は日本各地に爆弾を設置した。そしてその爆弾はスイッチひとつで一斉に爆発する。そして爆発すればーーー諸君の明日はない。」
途端に流れる言葉たちに、康介は言葉を失う。
「だが…私もそこまで鬼ではない。そこで、諸君にチャンスをやろう。制限時間は96時間。96時間以内に、新横浜駅までたどり着き、起爆スイッチを止めよ。それができなければ、日本が消し飛ぶ。しかし、歩いていくのは無理があろう。そこでーーー」
黒い面布をしている男が5人やってきて、札束を渡す。
「諸君には交通費・宿泊費として150万円をやろう。1人あたり30万円だ。」
そこから、ルールの説明が続く。
「今諸君がいるのは鹿児島中央駅。諸君にはここから新横浜駅を目指してもらう。ただし、22:00から翌朝5:00までは休戦とする。航空機、サンライズ、夜行バスは禁止。もちろん、タクシーも禁止。」
すると、スクリーンに日本地図が映る。
「あいにくと我々も無策のままにはいかない。そこで、鬼を配置した。鹿児島中央駅、小倉駅、新下関駅、福山駅、岡山駅、新神戸駅、新大阪駅、大阪駅、天王寺駅、名古屋駅、東京駅、新宿駅、上野駅、そして新横浜駅。各地2人ずつ配置してある。以上である。」
さらに続ける。
「ただし、5人全員が一体となって行動すること。二手以上に分かれての移動は禁止。ゲームは20:00開始として、鬼はその30分後に放出する。ルールは単純。全滅すれば負け。1人だけでも新横浜駅のスイッチを止められたら勝ち。その諸君はこの関門をクリアできようか?せいぜい頑張るがよい。ハハハハハハ…」
ついに、残ったのは中学生5人だけになった。
「よし、じゃあ自己紹介するか!」
そう言って声を上げたのは、陽気な少年だった。
「俺は井原宗士。生まれは愛媛やけど今は大阪の八尾市におる。よろしくな!じゃあ次…そこのメガネ男子」
メガネをかけた、いかにもザ・理系といった風貌の少年が答える。
「僕は前田優樹。出身は埼玉県さいたま市。よろしく」
優樹は、片手に小さな本を持っていた。
「それは何や?」
「これは、JRの全ての路線の時刻表。朝の読書に読んでる」
「お前鉄オタか。ええなぁ。じゃあ次は…ポニーテール。メガネかけてない方」
「私は上条彩音です。出身は福島県白河市です。よろしくお願いします。」
彩音は、かわいらしい風貌を持ちながらも冷静だった。
「じゃあ、次は…メガネかけてるあなた」
「私は今若柚希です。出身は大分県中津市です。」
「中津!?中津といえば阪急やろうが、大分ちゃうやろ!」
宗士が声を上げる。
「やめないか、井原君!」
「すまん、鉄道のことになると熱くなりすぎたぜ」
宗士はニヤリと笑う。
柚希はおとなしい女子である。初対面ではやはり緊張しているようだった。
「じゃあ…最後」
「僕は夢野康介。東京都調布市に住んでいます。よろしくお願いします。じゃあ…」
「始めようか」
5人の声が重なる。
こうして、少年たちの旅は幕を開けたのだった。
こんにちは、Megiladonです。本作を読んでいただき、ありがとうございます。今回は第1話ですが、本作は不定期の投稿になります。なお、便宜上いちど投稿したものを改変する場合があります。あらかじめご了承ください。第2話以降もよろしくお願いします。




