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68 この日、終わりが始まった

 板垣は朝の食卓に着く。

 味噌汁の湯気が顎にかかり、小さく震える右手で箸を持つ。ニュースの音声を聞き流しながらいつもと変わらない味の目玉焼きを食べる。

 逃げ出すためではなく、これからの自分の血肉にするために。



 板垣は朝食を終えると、制服に着替え、研究室で渡されたUSBをリュックに入れた。リュックを背負うと、荷物は少ないはずなのに、なぜか背中がずしりと重く感じる。



 板垣は玄関で靴を履き、爪先をとんとんと打ちつけた。その振動が、今の自分の重さを教えてくれる。


 これから行く場所は、決して許しが得られる場所ではない。むしろ、これまで以上に激しい悪意や、冷たい好奇心に晒される場所だ。

 怖くないわけがない。膝は意識を離した瞬間に震えだしそうだった。


 板垣はリュックに付いたカワウソのストラップを柔らかく握りしめる。

 ――それでも。あの時とは違う。私には味方がいる。

 手から離れたストラップは、一瞬振れた後にピタリと止まった。


 

 玄関のドアを開けると、まだ少し冷たい朝の空気が流れ込んできた。


 視界の端で揺れる木の葉が見える。それはもう、目の前で突然粉々になることはない。感情がどれほど波立っても、見る世界はもう歪ませない。

 自分が犯した過ちの形を、そのままの輪郭で、最後まで見届ける覚悟ができていた。



 板垣は一歩踏み出す。

 救いなんてものは、どこにも転がっていない。だから、自分で自分を救いに行く。


 背後で玄関のドアが乾いた音を立てて閉まる。

 それは、板垣が昨日までの自分に告げた、静かな終わりの音に聞こえた。




◆最後まで読んでくださった方

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました(^^)

少しでも面白いと感じていただけたら幸いです。


◆最終話を先に開いてくださった方

この物語は全編通して楽しめるように書きましたので、

ぜひ、1話から読んでいただけると嬉しいです!



また、別作品も投稿しておりますので、よかったらそちらも覗いてみてください。

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