表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/101

第76話 魔導スマートスピーカーと、孤島の教育革命

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。


作品ナンバー2。

ほっと一息ついていただければ幸いです。

ルメリア王国の南方、およそ三日間の航海を要する孤島《レメディア島》。


この島は美しい自然に囲まれながらも、本土から遠く離れているために文明の恩恵を受けにくく、教育環境も長らく整備されていなかった。


読み書きのできない子供たち、そして彼らに教える術のない大人たち。


島の時間は、まるで数十年前のまま止まっているようだった。


だが、その静寂を破る変革の種が、ひとつの箱に収められて、今ここに届こうとしていた。


「これが……魔導スマートスピーカー?」


佐藤達夫が島に持ち込んだのは、試作段階ながら完成度の高い新型の魔導具だった。


球体状の本体に淡い光が灯り、話しかけると魔導演算装置が反応し、知識を音声で返してくれる――まさに、現代技術の“スマートスピーカー”を魔導技術で再現したものだ。


だが、それは単なる情報端末ではない。


音声での操作、双方向の会話、そして質問に応じた柔軟な応答。さらに、数千冊分の書物を内蔵しており、読み聞かせや解説もできる。


教育の届かない場所に、知識そのものを持ち込む――それが、達夫の狙いだった。


レメディア島の広場に集まった島民たちは、目の前に置かれた丸い装置を怪訝そうに見つめていた。


「しゃべる石……?」


「これが本当に、子供たちに読み書きを教えてくれるのか?」


達夫は穏やかにうなずき、膝をついて島の子供の一人――赤毛の少女ミーナに声をかけた。


「ミーナ、ちょっとこれに話しかけてごらん。『こんにちは』って言ってみて」


おそるおそる少女が装置に近づき、声を出す。


「……こんにちは?」


すると、魔導スマートスピーカーは柔らかな声で応えた。


「こんにちは、ミーナさん。今日はどんなことを学びたいですか?」


少女は飛びのいた。だがすぐに、周囲からどよめきと笑いが起きた。


「おおっ、返事したぞ!」


「名前を覚えてる……!」


達夫はうなずく。


「魔導刻印で島にいる皆さんの名前を一時的に登録したんです。話しかければ、返事を返してくれます。たとえば――」


彼は自ら装置に向かって話しかけた。


「この島の子供たちに、アルファベットの歌を教えてくれ」


「了解しました。アルファベットの歌を再生します――」


心地よいメロディと共に、AからZまでの歌がスピーカーから流れ出す。


子供たちは音楽に合わせて体を揺らし、大人たちも思わず笑みを浮かべた。


教育のはじまりだった。



レメディア島の生活は、静かに、しかし着実に変わり始めた。


達夫は魔導スマートスピーカーを数台用意し、村の広場や集会所、漁港の近くなどに設置した。


各装置は島内の魔導波通信網で繋がれており、中央の演算核が知識を供給していた。


子供たちは毎朝、スピーカーに「おはよう」と話しかけ、音読の練習を始める。


午後には数の学習、夜は星座の物語。


装置は眠る直前まで彼らの知的好奇心に応え続けた。


さらに、スピーカーは大人たちにも恩恵をもたらした。


漁業に関する最新の操業知識、気象の予測、作物の育て方、簡単な医療知識――すべてが音声で得られる。


「昨日な、漁に出る前にあれに“明日の潮の流れ”を聞いたんだよ。そしたら、見事に当たった!」


「わしは、“歯が痛い”って相談したら、塩水でうがいするのがいいって教えてもらってな……今日はだいぶマシだ!」


村長のゲルバンは、集会でこう言った。


「これは……知識の神さまのようだな。まさか、わしらのような島民が、学ぶ喜びに触れられる日が来るとは」


達夫は頭を掻いた。


「神様なんかじゃないですよ。ただの機械です。でも、学ぶきっかけにはなれます」


その言葉を、ミーナが聞いていた。



ミーナは村で一番、魔導スマートスピーカーを愛用していた。


朝は詩を暗唱し、昼は物語を聞き、夜は星の知識を学ぶ。


ある日、彼女はスピーカーにこう問いかけた。


「ねえ、どうしたら学校の先生になれるの?」


スピーカーは答える。


「教師になるためには、多くの知識と、教えたいという気持ちが必要です。あなたは、誰かに何かを教えたいと思いますか?」


「うん、みんなに読み方を教えてあげたい」


それからというもの、彼女は他の子供たちに「音の練習」を見せたり、書き取りのお手本を見せるようになった。


数週間後――


「この島には、初めての“先生”が生まれましたね」


ラゼルがほほえむ。


「彼女はきっと、次の時代を引っ張ってくれますよ」


達夫もうなずいた。


「この島は、もう自分で学び、育っていける」



ルメリア本土では、達夫の実験が高く評価されていた。


魔導省教育局からの正式な報告依頼が届き、スマートスピーカーの島内での効果検証が始まった。


だが、それと同時に、達夫の元には懸念の声も届いていた。


「こんな便利な機械があれば、人はもう努力しなくなるのではないか」


「機械任せの教育が、本当に“心”を育てられるのか?」


達夫は答える。


「道具は、あくまで手段です。教え、導くのは、人の意思。便利な道具に頼るか、活かすかは……その人次第です」



数ヶ月後。レメディア島には、確かな変化が芽吹いていた。


木の枝で作られた“教室”には、黒板とベンチが並び、スピーカーの声に合わせて皆が朗読をしていた。


村長ゲルバンは、自慢げにこう言った。


「この島に学校ができたんじゃ。しかも、最初の先生はこの島で生まれた子じゃよ」


ミーナが胸を張る。


「もっともっと勉強して、今度は私が教科書を作るんだ!」


それを聞いた達夫は、ふと空を見上げた。


「この世界には、まだ学びの届いていない場所がある……次は、どこへ行こうか」


家電と魔導の力が、再び新たな地へと踏み出す日が近づいていた。

ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!

モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ