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『定年異世界転生 ~家電の知識で魔法文明をアップデート!~』  作者: ねこあし


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第75話  魔導除湿機と南方島嶼の台風対策

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。


作品ナンバー2。

ほっと一息ついていただければ幸いです。

ルメリア王国の南、遥か海の向こうには、常に湿った空気と高温に包まれた南方諸島が点在していた。


その中でも「フィロア諸島」は、特に豊かな自然と温暖な気候、そして独自の文化を育んできた群島である。


しかし、その楽園もまた、自然の猛威とは無縁ではなかった。


台風——。


年に数度、巨大な嵐がこの島々を襲い、農作物をなぎ倒し、家屋を破壊し、人々の命を奪っていった。


特にここ十年は、気候変動と呼ばれる現象により、台風の勢力は年々増していた。


達夫がその報せを聞いたのは、アステリアの王立魔導技術研究所に戻って数日後のことだった。


「南の島が大変なことに……?」


フィロア諸島の一つ、カリム島に住む弟子の一人、元技術兵の少年セディが書き送ってきた手紙には、島の現状が綴られていた。


近年の台風被害が酷く、住民の半数以上が仮設の小屋暮らしを余儀なくされているという。


雨漏り、湿気、カビによる病気……。乾燥機能や耐湿性に乏しい島の建材は、自然の前に容易く崩れ落ちていた。


達夫はその手紙を読み終えると、ため息と共に椅子を立った。


「……行くか、フィロアへ」



達夫はラゼルとともに、王国の南港から魔導蒸気船に乗り、数日をかけてフィロア諸島へ渡った。


「わあ……湿気がすごいですね……」


ラゼルが顔をしかめて言った。空気はまとわりつくように重く、肌は一瞬で汗ばんでくる。熱帯雨林特有の蒸し暑さに、達夫も額をぬぐった。


出迎えたのは、やや日焼けした肌に快活な笑みを浮かべたセディだった。


「師匠! よく来てくださいました! もう……島はひどいことになっていて……!」


案内されたのは、かつて村があった場所。


今は倒れた柱と土台だけが残り、草が無造作に生い茂っていた。


仮設の小屋では人々が肩を寄せ合い、湿気に苦しんでいた。


木材は腐り、布団は常に湿っており、カビの胞子が原因と見られる咳や喘息の症状も見られた。


「このままでは、次の台風で全滅します……!」


セディの声には切迫したものがあった。


達夫はしばらく黙って周囲を見渡したのち、静かに口を開いた。


「湿気をなんとかしよう。……俺が持ってきた新しい魔導具を、試すときだ」



その名は「魔導除湿機」。


達夫が近年、南部の湿潤地帯対策として設計していた新型家電である。


その構造はこうだ。


空気を吸引し、内部の「冷却魔導管」により水分を凝縮。凝縮した水分は、魔導タンクへと自動的に移送される。


そして乾燥した空気を再び排出する。


重要なのは、魔力によって常に一定の気温と吸引力を保つ調整機構にあり、島のような不安定な気候でも安定運転が可能だった。


「これを、各小屋に設置する。そして台風前に一時避難用の大型除湿シェルターも組み立てる。湿気と病気に負けない環境を作るんだ」


セディと島民たちは、目を輝かせながら頷いた。


「さすが師匠だ……!」



島民総出の作業が始まった。


達夫が持ち込んだ設計図を元に、セディは島の資材を加工してシェルターを組み立て、除湿機を設置していく。


魔導除湿機の構成部品は、王都で作られた精密部品だが、シェルターそのものは現地の竹や石材を用いていた。


「除湿機を稼働させてから、小屋の空気が全然違うんです!」


「咳が止まったって母さんが……!」


子どもたちの声が広がる。


数日後、衛星魔導通信が台風の接近を告げた。


達夫は直ちに非常モードに切り替えるよう島民たちに指示を出し、全員を大型シェルターへと誘導した。


そこには、三台の大型魔導除湿機が稼働しており、内部の湿度は一定に保たれていた。


さらに、床下に設けた排水システムにより、床上浸水の心配もなかった。


外は嵐。


だが、内部には落ち着きがあった。


人々は、はじめて恐れずに台風をやり過ごすことができたのだ。


「……ありがとう、師匠」


セディがぽつりと呟いた。


達夫は、照れたように笑った。


「礼なら、あの魔導除湿機に言ってくれ」



嵐が去った翌朝、島には静けさが戻った。


倒れた木々はあれど、家屋の被害はわずか。


なにより、誰一人、病に倒れることもなく、無事だった。


「この技術……他の島にも広めようと思います」


セディが、固い決意を胸に達夫に言った。


「俺はこの島を出て、フィロア諸島の他の島にも除湿シェルターを作っていきます。師匠が与えてくれた希望を、広めたいんです」


達夫は、少し寂しげに微笑んだ。


「……そっか。もう、俺の手を借りなくても、お前は一人でやっていけるんだな」


「……はい。でも、ずっと師匠の弟子です」


握手を交わしたその手には、かつてよりも強く、頼れる力が宿っていた。


その日、フィロア諸島に新たな風が吹いた。


それは、台風に立ち向かうための風——魔導除湿機がもたらした、希望の風だった。

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