悪逆皇帝でも愛したい
三日後、伯爵の行方は分からなくなった。
どこで何をしているのか。
でも、もうでもいい。
興味もなかった。
だから気にしないことにした。
だって、わたしは陛下に愛されて幸せだから。
「ここにいたのかい、クレメンタイン」
「陛下……」
わたしはお城の二階にあるバルコニーで街並みを眺めていた。
もしかしたら、伯爵が見つかるのではないかと。
「……伯爵はもう消えた。気に病むことはない。君は自分の幸せだけを考えればいい」
「そうですね。そろそろ気持ちを切り替えていきたいと思います」
「ああ、この城にはずっと居ていいのだから」
「本当ですか。住んでいいのですか?」
「もちろんだ。君ほどの才色兼備はそうはいない」
なんて嬉しい。
もうお別れかと思っていたけれど、陛下は止めてくれた。お城に住んで欲しいとさえ言ってくれた。
この三日間、食事も睡眠も同じ時間を過ごしている。
こんなにも、わたしを愛してくれている。
……平民の言う悪逆皇帝とは真逆。
陛下には優しさと相手を思いやる心がある。
それを知っているのは、わたしだけでいい。
誰にも彼を取られたくないから。
――だから。
「陛下、わたし……」
「こんな僕を好きになってくれるのかい? 僕は悪逆皇帝だよ」
「わたしは知っているから……陛下が優しいって」
「僕と付き合えば友達や家族すら失うかもしれない」
「構いません。その覚悟がわたしにはあります。陛下を支えたい……」
その思いを強く伝えると、陛下は嬉しそうに微笑んだ。
「クレメンタイン、僕と一緒にしてくれるかい」
「はい、ずっと……」
わたしと陛下は幸せになった。
わたしは悪逆皇帝でも愛したい。