風子、頑張る
翌日。
現在17時を回ったところ。定時上がりでみんな各々の居住スペースに戻る。秘密組織ってだけあって従業員の社宅も同じ地下にあるようね。私も住み込みだし、みんなそうみたい。
私は今日中に終わらせようと思っていた範囲を終わらせ、席をたつと帰り際の高藤さんを呼び止めた。高藤さんは何やら茶髪のポニーテール女性に話しかけていた最中で、二人揃って私へ目を向けてきた。
「なんだ。」
「書類整理は終わったんですが、入力がまだなので部屋に持ち帰って良いですか。」
なんでもここのフロアは原則18時には使用禁止になるらしい。使えるのは夜勤者だけで、それ以外の人は触れなくなる。
一応雑務といえども情報の持ち出しになるから、こうして許可はとらないとね。あとからぐちぐち言われたくないし。
「あぁ、好きにしろ。」
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると私はデータを抜き取ったUSBをポケットにいれて、マルをだっこして部屋へと戻った。
基本的にわたしとマルは行動を共にしないといけないんだけど、部屋だけならマルを一人にしても良いと言う条件がつけられた。もちろん部屋の施錠はして、だけど。
つまりマル個人の活動範囲は私のそばか部屋だけってことになる。早くこの辺りも何とかしたいけど、そのためには周りの信用を勝ち取らないといけない。
そのためならどんなことでも頑張れる!
ぷるーん!
部屋につくなりパソコンをつけて作業開始。マルにはキャットタワーで遊んで待っててもらうことにした。
ふふん、今に見てなさいよ。こちとら3年上司の愚痴と怒鳴り声に巻き込まれながら作業してたの。静かな部屋なら作業能率がうなぎ登……
…………。
おかしい、全く進まない。いや、進んでるんだけど、普段どおり過ぎる。
上司の邪魔がないのになぜか……考えなくてもわかる。
ぷるん!!
「もぉマル! 邪魔しないで!」
そう、マルがことあるごとにマウスの上に座ったり、キーボードを叩く腕にすり寄ったりと……とにかく構ってほしくてあれこれやって来る。
これじゃ思うように進まないじゃん!
「お願いだからマル! ほんのちょっと! ほんとにちょこっとだけ仕事させて!!」
ぽよーん!
あ、ダメだこれ、聞いてくれないやつ。さながらパソコン作業中に猫に邪魔される飼い主の気分だ。邪魔してるのはスライムだけど。
こうなれば……奥の手だ!
必殺、映画かけっぱなし!
マルは最近アクション映画にはまってて、かけっぱなしにしてるとずっとテレビの前から動かなくなるの。
よしよし、うまく注意を引き……
………………。
ダメだ、今度は映画が気になる!
マルにヘッドフォンをつけさせたいけど、それもできないし……。
うぅう、仕方ない……私が耳栓して作業に集中しよう。
こうしてマルが映画にかじりついている二時間はみるみるうちに仕事が終わっていった。
そして夜23時。ようやく仕事を終わらせることができた。
ふぅ……3-7日かかってた仕事を一日足らずで終わらせたんだ。誰も文句は言わせないし、あとはチェックしてもらうだけか。
こっちで整理したから、チェックする方は楽だろうなぁ。
……まぁ、楽はさせないけど。
「うーん……」
ぽよーーん!
私の仕事が終わったと悟ったマルは思いっきり私に飛びかかってきた。
よしよし、しばらく一人にしてごめんね、マル。
寂しい思いをさせたぶん思いっきり撫でてあげる。遅くなったけど、お風呂にも入ろう。
前の家はバスタブが狭くて足を伸ばせなかったけど。今の部屋はわりと良いお風呂になってるからゆっくり浸かって疲れを癒せる。
はぁ、良い湯加減。
マルと一緒に湯船に浸かり、しっかり癒される。マルはシャボン玉も大好きで、今日は泡風呂にしてあげたら大喜び。私もちょっとはしゃいじゃった。
泡もこになりながらシャボン玉をつくってあげたり、マルの上に泡をのせて遊んだり。
一頻りおおはしゃぎしたらお風呂から上がって缶ビールを一本、ぷしゅりと開けて飲む。
うーーん! さいっこう!
仕事終わりの一本は格別ね!
マルにはお酒の代わりにジンジャーエールをあげて二人で乾杯した。
こうして私は深夜1時くらいまではマルと一緒に過ごし、そろそろ寝る時間。以前は敷布団だった寝具も、今やベッドに変わっちゃって寝心地も最高。
でも部屋が大きくなっても、マルが私のところで寝るのだけは変わらない。
キャットタワーにクッションを敷いてマルの部屋も作ったんだけど、寝るときは一緒じゃないと嫌みたい。
こう言うところがかわいいんだよなぁ。
そのかわいい効果なのか、マルと一緒に寝ると驚くほど疲れがとれるんだよねぇ。
やっぱり、癒しって大切よね。
よーし、明日も頑張るぞ!
何せ明日は……私にこの雑用を押し付けた方々をギャフンと言わせるんだから!
待ってなさいよぉ!