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風子、転職する

 とんとん拍子で転職の話が進み、なんと次の日には私のID付き社員証が贈呈された。


 これにより、監視生活はわずか数日で終わることになった。よかった、短くて。尚支給された部屋はそのまま使って良いとのこと。これは常にモンスター……この場合はマルを監視し続けると言うことから特別ボーナスと言う形での支給らしい。


 マルを監視、という建前は嫌だけど、これも一緒にいるためには仕方ない。もしもマルがなにか問題を起こしたら、それは監視不足ということで私の責任となる。


 それは当然、飼い主ですから。全責任はとりますとも。


 そして今日は新人研修と言うことで、私はアーノルド君と共に改めて組織……正式名称ギルドの案内をしてもらった。もちろん、マルをだっこしてね?


 ぷるん!


 始めてみる地下施設に、マルはマルで大興奮。目を輝かせながら震えていた。私はそんなマルに癒されつつ、アーノルド君からの説明を聞く。


 まず私の配属だけど、特例で「外来種担当」の事務員という形で入ることになった。事務員と言えどかなり異例で、簡単に言うと新米警察が警視庁の第一課に配属されるくらい凄いこと、らしい。


 普通なら他部署で経験を積んで、さらに実力ある、いわゆるエリートが来るような場所なんだって。


 そんなところにただのOL上がりがいったところで……


「おいお前か? スライムと一緒にきたって言う他所者は」


 目の敵にされるに決まってるよね!! 知ってた!


 外来種担当のフロアにきたとたん、数人から囲まれるはめとなった。そりゃ、そうよねぇ。向こうから見ればいきなり知らない部外者とスライムが一緒にきたんだから……いい気分にはならないよね。しかも皆さん、スライムを危険視してるわけだし。


「高藤さん……」


「アーノルド、お前は部署が違うだろ。ここから先は外来種担当が引き受ける、かえるこったな」


 うぉおい! アーノルド君と引き離されるのは困る!


 これじゃいびりの的じゃない!


 しかしアーノルド君、部署……いわゆる縄張り違いの場所で力を発揮することはできず……


「わかった。それなら終わり次第連絡をくれ」


 あー、アーノルド君おいていかないでぇ!


 主人を待つ子犬みたいな目で見つめると、彼は足を止め、そっと耳打ちしてくれた。


「高藤さんのバディは覚えてないが、君の家を調査して返り討ちにあってるんだ。だから気を付けて」


 気を付けろって何を!?

 よりにもよってマルが返り討ちにした調査員が同僚って、すごく運悪くない!?


 アーノルド君は申し訳なさそうにそういいながら去っていった。


 うわぁん、置いていかれたぁ!


「おいこら新人! 新人には必ずやることがあるんだ、ついてこい!」


 もぅ、いちいち怒鳴らないでよ!

 怒鳴り声でマルが警戒しながら震えているので、落ち着かせるように撫でながら高藤さんと言われたその人の後ろをついていく。


「まずこの部署に入ったら絶対に行われる洗礼があるんだ。まぁ、それが終わらねぇと次の仕事はない。」


 そういうなり、高藤さんはバンッ!と[倉庫]とかかれた扉を開いた。


 中には、山積みとなった書類がたくさん……


 うん、今なんとなく察した。

 これ、整理しろってことでしょ……


「ここの整理とデータ入力を全部終わらせろ」


 ほらやっぱりー!

 にやにやしながら高藤さんは私に指示を出す。まぁ新人ですし、言われたことはやりますけど……。


 それにしてもデータ入力まであるのかぁ……それも一人で全部。


「終わったらいえ。お前のデスクは向こうだから作業はそこでやれ、以上。」


 そういうと高藤さんは私から離れていった。


「うわぁ、新人いびりひどいなぁ。」


「俺もあれやらされて三日はかかったな。」


「私なんて一週間よ! かわいそうに」


「見ろよ、新人立ちすくんでるぞ」


 後方から、ボソボソと話し声が聞こえる。みんな心配してると言うより、話のネタにしているような感じだ。


 このフロアに、いや部署に、私の居場所なんてないんだ。


 ぷるん……?


 大丈夫? と心配してくれるのはマルだけ。それだけで救われる。

 だって前職は、誰も心配してくれなかったもん。


 今はマルがいる。それだけでどれだけ頼もしいか。


「あのぉ……」


 だからこそ、頑張れる。私は高藤さんのデスクまで来ると、コーヒーを飲む彼に声をかけた。


「あ? なんだ?」


「さっき、終わるまで次の仕事はないっていってましたよね……」


 私はおずおずと訊ねる。すると高藤さん、コーヒーを置いて私を見上げた。


「そうだ、文句あるか? いっとくがお前だけを特別目の敵にしてる訳じゃない、みんな通る道だ。」


 目の敵にしてない、ねぇ……それが言えるだけ大人か。見たところ私と年が近いようにも見えるけど、たぶん年下だ。


 それなら……思いっきりやっても良いよね。


「それなら次の仕事、早めに用意してくださいね」


「っは、終わってからいえよ」


 軽くあしらわれた宣戦布告。さっさと行けと言わんばかり手を振られ、私は踵を返す。


 味方がいないなんて、いつものこと。

 でもここには、ガミガミ文句を言う上司も、私を影で笑うやつもいない。


 いまはまだ、嘗められてるだけ。


 ……今に見てなさい。

 私の実力がわからないなら、証明してやるわよ!


 “たったあれだけ”の書類整理、三日や一週間もかかるパソコンスキルのやつらに目にもの見せてやる。


 さっさと終わらせるわよ!!

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