失われた記憶と謎の声
「……」
「……」
(な、なぜ……こんなことになった……?)
誤ってお酒を呑み、一人で帰ることが不可能になった後輩の女の子を家まで送った。ただそれだけだった筈なのに、その子のお父さんに家まで送って貰うことなったまでは良かった。
だが、なぜ……なぜこんなにも長い間、沈黙が続いているのだ……。
「あの……?」
「ん?」
「あ、いえ……なんでも……」
「そうかい?」
なんだろう、見た目が怖いとか、迫力があるとかいう訳でもないのだが、なんというかとても圧を感じる。それだけのせいで、話しかけるのがとても怖い。
「もし、何も言わないのであれば、僕のほうから一つ聞いてもいいかい?」
「え?あ、はい……どうぞ?」
「美帆は学校でどんな感じなんだい?部活での様子とかさ」
「様子ですか?んー、雪代さんが入部してからまだ日が浅いんで詳しいことはわかりませんが、楽しそうですよ?毎日楽しいって思っているんだろうなって感じるくらいの眩しい笑顔でいつも部活を盛り上げてくれていますよ」
「そうか……よかった……」
彼女の父親はそう呟くと、少し悲しげな笑みを浮かべていた。
「海斗君、だったよね?」
「え?あ、はい」
「美帆はね?元気で前向きな子ではあるけど、打たれ弱いところや少し天然なところがある子なんだ。だから、これからも支えてあげてね」
そう言葉にした父親の顔は、娘をとても大切に想う、優しい微笑み顔をしていた。
「……はい、任せてください」
「あ、でも学生の間は、清い交際で頼むよ?学生の本文は学業なんだから」
「なっ!?何を……!?ぼ、ぼぼ僕たちはまだそういう仲では……」
「着いたよ」
先ほどの発言を否定しようとしていたら、気づいたら目的地に到着していた。
「あ、ありがとうございます……」
「はい、どういたしまして」
車から降りると僕はそそくさとドアを閉めて一礼をする。そして回れ右をし帰ろうとした時、「海斗君」と車から声が聞こえてきた。振り返ると、車の窓が開いていた。
「娘をよろしく頼んだよ」
先ほど見せた優しい微笑みを再び僕に向ける。本当に大切なんだろうな……。
「はい、わかりました!」
海斗は力強く返事をした。この発言に嘘が一つも籠っていないことを証明するために。
「そういえば、まだなんだよね?」
「……はい?」
車を発進させようとした時、ふと思い出したかのように海斗にそう告げる。
「だって、『まだそういう仲』ではないんでしょ?」
「あっ!あれは、そういう意味ではなくて……!」
「美帆は、スマートにエスコートしてくれる男性が好みってこの前言ってたよ?それじゃあね」
それだけを言い残し、車を発進させた。
「はぁ……やっぱりあの人苦手だ……」
肩をガクッと落とし、海斗は大きくため息をつく。そして鞄からメモ帳を取り出す。
「……スマートにエスコート……って僕はいったい何をぉ!!!」
海斗の魂の雄たけびはたまたま通りかかったトラックにかき消されたため、近所迷惑になることはなかったが、しばらくの間、海斗本人を苦しめることになる。
――――――――――――――――――――
翌日。
目が覚め、ベッドから起き上がると激しい頭痛に襲われていた。
記憶的には落合先輩と榎本先輩の部屋に行き、部屋の中を物色して叱られ、その後にわいわいとご飯を食べていた所までは覚えている。
「うーん……確かあの後、炭酸で酔っ払った榎本先輩に絡まれて、本田先輩に助けを求めたら断られて逃げるように台所に行って……」
そしてそこで私の記憶はなぜか途切れていた。ベッドの上で数分思い出そうと必死に頭を悩ませるが、いくら粘っても出てこなさそうだったので、考えるのを諦めて部屋を出た。
「おはよう、お父さん、お母さん」
「あぁ、おはよう」
「おはよう。体調は大丈夫?」
「え?うん、頭が痛いかなってくらいで、後は全然大丈夫だよ」
「そう?辛かったらすぐ言うのよ?」
「う、うん……」
母からの謎の気遣いを不思議に思いながら、私は朝食の食パンに手を付けた。
「美帆、学校に行ったら海斗君にお礼を言うんだよ。昨日美帆を送ってきてくれたんだからね」
父から伝えられたその名に、食パンを食べていた私の手と口が止まる。どうやら私は本田先輩にかなり迷惑をかけてしまったみたいだ。
「うん、部活であったらお礼を言うよ」
「そうしなさい」
そして私は再び食パンを食べ始めた。
学校に着いた私は、教室に鞄を置いてすぐに部室に向かった。
「まぁ、さすがに誰も来てないか……」
私は部室に誰もいないのを確認して中に入り、ソファに腰をかけた。
「本田先輩……」
ソファに横になった私がふとその人の名前を呟いた。
まだ彼に会ってからまだ二日しか経っていない。けど、かなり意識してしまっている。
「私、本田先輩のこと好きなのかな……」
別に今まで恋をしたことがないわけではない。中学の頃にも実りはしなかったものの恋をしたことはあった。
だが今回はあの時の感覚よりも何だか胸を締め付けられるような気持ちになる。
「どうしたら良いんだろう……この気持ち……」
私が小さな声でそう呟いたその時、頭に誰かの声が響いた。
『その人の事が好きなんでしょ?ならアタックしなさい!誰かに盗られた後じゃ遅いんだからね?』
いかがでしたでしょうか?
実は第二部の完結がもう近いのです。
早っ!っと思う方もいると思いますが、このストーリーはもともとこのくらいの短さ、おまけストーリーみたいなものでした。
ちなみに二部が完結した後の構成は練っていますのでお楽しみに。
そして、あの声は誰なんでしょうね?
今回も見ていただきありがとうございます。
次回も読んでいただけると嬉しいです。




