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第1話 はじまりの救済




 ボク――プリムラは天使だ。


 頭の上に黄金の輪、ハローがあって、白い翼があるあれ。

 その天使だ。


 天使っていうのは、その名の通り、天の使いって意味だ。


 何のために天から使われるかって言うと、ひとえに人間を正しく導くためだ。

 それがボクたち天使の使命。


 その大いなる使命のために、天使一人ひとりにまた別の使命が課せられる。

 その使命に応じて魔法が与えられて、魔法を使って、自分の使命をやり遂げるんだ。

 天使の母エキナセア様に生み出され、正義の母ルドベキア様に使われる、誇り高い天使。

 ボクもその一人だ。

 人間を導く、尊い、神の計画の手伝いができるんだ。


 ……と、思ってた。


「……アッチ! ああクソ、こぼしちまった……。

 おいお前! 僕のために、何か拭く物を持ってこい!」


 そこには、顔を真っ赤にして怒り狂ってる、ブクブクに太ったご主人様がいた。

 この野郎は、スープか何かをこぼしたらしい。


 スープをこぼしたのは自分の不注意だ。

 自分の不注意で起きたことなのに、このブタはなぜキレてるんだろうか。

 ブタでも自分の行いくらい、責任を持つというものだ。

 ブタに失礼だ。


 ……ボクは誇り高い天使だったはずだ。

 なのになぜこんな汚い言葉で、しかも顎で使われているというのか。

 本当に、本っ当に忌々しい。


「おい! 聞いてるのか! 速く持って来いと言っているんだ!」


 ああ、ホントうるさい。

 ブヒブヒしてんじゃないよ。

 こんなブタにくれてやる言葉なんて、ただ一つだ。


「はい、承知いたしました」


 ボクはニコリと微笑んでみせ、すっかり板についた仕草でハンカチを取りに行った。


「チッ、速くしろ」


 ……まったく、いい加減にしてほしい。


 ボクは今、ハローも翼もしまって、人間に擬態している。

 天使として活動する上で、人間に正体がバレないほうが何かと良いんだ。


 それでもやっぱり、天使である以上、ボクは天使然とした振る舞いをする必要がある。


 いや、それはあまりにも生ぬるすぎる表現か。


 ボクは天使として、人間に、完璧に接しなければならない。


 それが、天使全員に課せられた、使命だから。


 たとえ人間のフリをしていても。

 こんなブタに対しても、エンジェルスマイルでなければならない。

 この怒りには、フタをしなくちゃならない。


 そしてこいつは、紛れもなく、クズだ。


 でもそれは、仕方ないことでもあるのだ。

 

 こいつは今、悪魔に洗脳されている。

 というか、この屋敷の男は全員、洗脳されている。


 悪魔は、天使の急所をつくような、驚くべき方法で、多くの人間を洗脳している。


 ボクたち天使は、みんながみんな見た目が10歳弱くらいで創られている。

 理由はいまいち分からない。

 以前、かわいいからとか従いたくなるからとか、意味のわからない事が書いてある本を読んだ事があるけど、正直そんなわけはない。


 天使とはそういうものだ、と言い切っても良い。

 でも、もし、意図してそうされたのだったとしたら?


 一つ、仮説が浮かび上がる。


 私が立てた仮説は、人間と天使の関係が、潔白であるようにされたんじゃないだろうかという説だ。


 もし天使の外見が、艶めかしい美男美女だったら。

 人間と天使の間で、色恋沙汰に発展することもあるかもしれない。


 そうなれば、どれだけ天使が機能しなくなるかは、想像に難くない。


 そして悪魔は、天使の見た目が皆幼い、という点に付け入った。

 人間を、歪ませるたのだ。

 端的に言うと、幼女好きを、量産したのだ。

 そうすれば、自ら手を下さなくても天使を妨害できるし、人間そのものを攻撃できるしで一石二鳥だ。


 結果としてそれは、あまりにも効果的だった。

 現にボクは、奴隷として売られ、メイドとして馬車馬のようにこき使われている。

 

 ……天使の外見はについては、あくまで本で読んだ仮説でしかない。

 でももし、その仮説が正しかったんだとしたら。

 それは皮肉としか言いようがない。


 はあ。世界の現状を憂いても、なんにもならないのにな。


 はじめの方は、脱出しようとしていた。

 翼も出せるけど、この首枷が重くて飛べそうにない。

 この屋敷は見張りも多い。

 ボクの魔法も、ここでは使い物にならない。


 自力ならだめでも、待っていたら助けに来るんじゃないかとも思った。

 けれど、仲間の天使たちはなぜか助けに来てくれない。


 ボクは半年で脱出を諦めた。


 はあ、もうどうしようない。




「はあぁ」


 今日も散々だった。


 あのスープで、ブタにやけどの跡ができたのだ。

 ハンカチを持ってくるのが遅かった、お前のせいだとか言われて、ムチ打ちにされた。


 でも多分、ハンカチは関係ない。

 あのスープを落とした時点でやけどはできてたはずだ。

 それをボクになすりつけるのはおかしい。


 ……どうせちょっと焼けるくらいなら、いっそ丸焼きにでもなってしまえばよかったのにな。


 しかも今日の料理当番もボクだったから、追加でムチ打ちにされた。

 全部ぜんぶ、あのブタの自業自得だろ。

 なんで……。


 いや、今にはじまったことじゃないな。

 ムチ打ちにされた回数なんて、100は優に超えてる。


 ムチ打ちにされている間もいつものようにエンジェルスマイルを貼り付けていたら、毎度のごとく気持ち悪がられた。

 ブタに気持ちが悪がられるならまだしも、大人の使用人の人にも引かれた。

 天使の使命で気分を害されたんだから、たまったものじゃない。

 ボクにどうしろってんだ。


「でも」


 メイド服の袖をずらして、ムチで打たれた右手首を見る。

 そこにはムチで打たれた跡なんてキレイサッパリなくて、自分で言うのも何だけど、ピチピチの素肌があった。

 この調子だったら、背中の方も大丈夫でしょ。


 天使は精神生命体。

 心が死なない限り、肉体は無限に再生する。

 それでも痛いのは痛い。

 あのブタァ……。


 とにかく今日は早く休もう。


 そう思って、使用人の寝室にやってくる。

 使用人の扱いも悪くて、この屋敷の全使用人が、男女関係なく、二段ベットがずらりと並んだこの部屋で寝るのだ。

 ここは空気も乾燥してて、寝心地が悪い。

 最悪としか言いようがない。


 私は一段目のベッドだ。

 チラリと上のベッドを見る。

 するとそこには、ちょこんと座っている茶髪の女の子――ボクの同僚がいた。


「あ、プリムラちゃん」


「おつかれ、シトリン」


 この子はシトリンという名前の女の子だ。

 たしか9歳くらいって言ってたっけ。


 この子も私と同じで、奴隷にされてから使用人になってる。

 お父さんが死んで、母親といっしょにさらわれたと聞いた。


 連れてこられた当初は、お父さん、お母さんと言って泣いていた。

 はやく帰りたいと言って、泣いていた。

 今でも夜に、うわごとのように両親の名前を呼んで泣く子だ。


 当たり前だ。

 この子は外見こそ私と同じくらいの年だけど、中身が17歳くらいの私と違って、正真正銘の9歳なんだから。


 私が、守らないと。


 ふと、シトリンが二段ベッドの上から降りてきた。


「ねえねえ、こんやもまた、おじぎのちかた、おてーてくれる?」


 小首をかしげて、上目遣いで、舌っ足らずでも頑張ってお願いしてくるシトリン。

 ……かわいい。

 思わず笑顔になるようなかわいさだ。

 これだから、あのブタはいつもシトリンにだけメロメロなんだろう。


「いつもの礼儀作法ね。いいよ」


「わーい! やったあ!」


 満面の笑みで飛び跳ねるシトリン。

 この子は無邪気でいいな。


 ボクはいつも不気味がられて、この子はいつも溺愛されてる。

 だからこの子はめったにムチ打ちされないし、反対にボクにはすごいムチ打ちされる。


 でも、嫉妬はしてない。

 ボクだって、この笑顔に何度も救われたんだ。

 ボクがムチ打ちされて、この笑顔が守られてるんだと思うと、ボクが耐えてきたのも、無駄じゃなかったんだな、って思う。


 シトリンの手を取って、いつものように、礼儀作法のレッスンをはじめた。

 本当はすぐに寝てしまいたいくらいだけど、この子のためなら我慢できる。


 だってこの子は、いつもいつも、一生懸命なんだ。

 この子だってへとへとなはずのに、やめようとしない。


 この子はよく間違える。

 はじめの方は受け入れられてなかったけど、今ではみんな笑って許してくれる。

 あのブタだって、許してくれる。

 ボクなら許してくれないのに。


 なのに。それでも。

 なにも頑張らなくてよくても。

 この子は一生懸命なんだ。

 頑張り屋さんなんだ。


 半刻ほど練習し終わると、シトリンの息は上がっていた。

 なにせ、微動だにせず、きっちり立っているだけでもしんどいんだ。

 体力がまだそんなについてない、普通の子どもには難しい。


 けど、諦めない。

 この子は、諦めないんだ。


 この子がもし、奴隷なんかになってなくて。

 普通の暮らしができていたら。

 お父さんとお母さんと一緒……いやせめて、お母さんとだけでも。

 普通の暮らしができていたら。


 いろんなことを、諦めずに挑戦して。

 もっといろんな人を、幸せにできていたんじゃないだろうか。


 この子も幸せになれたんじゃないだろうか。


 だから何としても、この子は守らなくちゃ、ならないんだ。

 お母さんは生きてるか分からないけど、せめて。


「ねえねえ、プリムラちゃん」


「なに?」


 シトリンはなにやらそわそわとポケットに手を突っ込んで、それを取り出した。

 緑色のリボンだ。


「はいこれ。わたしからのプレゼント!」


「え、ボクに?」


 言われるがまま、リボンを受け取る。


「なんで今?」


「んー? わかんなあい」


 わかんないって。

 でもこういうところがかわいい。


 ボクには理由もないのに他人にものをあげるなんて、できない。


「ちょっと、よごれてるんだけどね、よろこんでくると、うれしいんだあ」


 それはプレゼントというには、汚れていて、シワが寄っていた。

 とてもキレイとは言えない。


 けど、それがシトリンがこの奴隷生活のなかで、ボクのために頑張って集めてくれたんだと思うと。

 キラキラと輝いて見えた。


「ふふっ、ありがとう。大切にするね」


 これは、一生使わずに、大事に取っておこう。




 翌日。


 その朝はブタの兄が突然来るとかで、大忙しだった。


 なにせあのブタがものぐさなもんだから、掃除が大変なのだ。

 あのブタ、ロードコリスリ家とかいう貴族で、この屋敷はただでさえ広いんだ。


 掃除ができたら、ブタにそれっぽい服を着せる。

 ほんっとうに似合わない。


 ゴミを褒め称えたら、次はランチの用意だ。

 他のメイドさんたちが作ってくれた食事を並べて準備完了。


 ボクとシトリンは、お出迎えを担当することになった。

 玄関の両脇に立つ。


 ――コンコン。


 その音が聞こえたのは、ボクたちが準備を整えたすぐ後だった。

 危ない。ホントにギリギリだった。


 ボクとシトリンは、練習したとおりに扉を開ける。

 少し重たいけれど、大丈夫だ。


 扉の先にいたのは、フルプレートアーマーに身を包んだ兵士。

 そして、その奥には、高貴な身なりをした細身の男がいた。

 だいぶ目つきが悪くて怖い。

 ブタとは似ても似つかないけど、あの身なりからして、あれがブタの兄なんだろう。


「いらっしゃいませ」

「い、いらったいましぇ」


 シトリンが横でガクガク震えている。

 あ、そうか。

 ボクはもう慣れてるけど、目つきの悪い大人の男の人に睨まれたら、そりゃ怖いよね。

 忍耐力が強くて、忘れがちになるけど、この子はまだ9歳なんだから。


 事前に決めていた通り、シトリンが挨拶の口上を述べる。


「ひっ、ほ、ほほ、本日は、ようこそいらったいまった……おたいりくだちゃい、私たちロ(・)ー(・)ド(・)ゴ(・)キ(・)ブ(・)リ(・)家へ」


 あ。

 やって、しまった。

 ロードコリスリだよ。

 ロードゴキブリ、ゴキブリの王なんて言ったら……。


 シャキン。

 鋼と鋼がこすれる音がした。

 細身の男が、兵士の剣を引き抜いた。

 男は、顔を真っ赤にして。

 剣を構えて。

 何でもないように無言で近づいてきて。

 シトリンの前に立って。


 振り下ろした。


 え


 あかいものがとびちる。

 ほおに、てに、あたたかいものが。

 あのこが、くずれおちる。

 あかいみずたまりが、ひろがって。

 ちからなく。

 てつみたいな、においが。


(ああ、まただ)


 それでもボクは、貼り付けた笑顔を崩せない。

 シトリンを助けに行けない。

 この人の前では、笑顔を崩せない。


 男は、ボクの方をギロリと見て。

 掃除をしておけ、と言って。

 フン、と鼻息をならして、血まみれのまま中に歩いていった。

 兵士もそれについて行って。

 遠くで、怒鳴り声が聞こえた。


 ボクは、崩れ落ちた。

 血で汚れるのも構わずに、シトリンに抱きつく。


「」


 なにも、言葉が出てこない。

 かわりに視界がにじんだ。


「掃除、しなきゃ……」


 あの男が帰るまえにしておかないと。


 からっぽな心で、ふらふらと、壁に当たりながら。

 血まみれになって。

 遺体をズタ袋に入れて運んで。

 床の血を拭って。


 血はなかなか取れなかった。

 いくら拭き取っても、しつこく残って。


 ちがう。

 ちがうちがうちがうちがう!

 そうじゃない!


 ボクは!

 大切な友達を亡くしたんだ!

 なのに何がそうじしなきゃだ!

 何がしつこいだ!


 なんでこんな時も、心から悲しめないんだよ……。


 なんで悲しむことより先に、ボク自身が怒られないようにって、行動するんだよ……。


 なんであの子を殺したやつを、心の底から憎めないんだよ……。


 きもちわるい。


 キライだ。

 嫌いだ。

 大っ嫌いだ。


 ボクのことが。


 大っ嫌いだ。


 なんでシトリンなんだよ。

 なんでボクじゃないんだよ。

 ボクなんて、いらないじゃないか。

 ボクを切っても、治るじゃないか。

 なにも、失わないじゃないか。


 なぁ……。




 昨日はまったく眠れなかった。

 久しぶりに、ベッドで横になるのは早かったのに。

 さみしい。


 死んじゃった。

 また、死なせてしまった。

 これで何人目だ。

 いや、忘れもしない。

 これで6人目だ。


 天使の使命は、人間を導くことなのに。

 ボクが守らなくちゃ、いけなかったのに。

 こんなの、ボクが殺したようなものだ。


 一生使わないと決めた緑のリボン。

 ボクの、宝物で、短い髪をまとめる。


 もう、シトリンは、いなくなってしまった。


 今日の仕事は買い出し。

 本当はシトリンと行くはずだった。


 決まった金を握らされて、文字の読めない兵士を伴って。

 重い足を、一歩前に動かす。

 のっそり、のっそりと。


「おい、速く歩け」


「申し訳ありません。ご指摘通り、少し、早足にしますね」


 ボクから出る言葉は、いつも反吐みたいなものだ。

 こんなだから、あのブタにもいらないと言われる。


 シトリンが死んで、あのブタも悲しがってた。


『子爵家として、あんな子どもの恥さらしが、出迎えなんてしていいわけないって? 

 兄貴は分かってない。

 あれくらいドジでわたわたしてるのがかわいいんだよ。

 それなのに、あの兄貴……僕のかわいいかわいいシトリンちゃんを殺してくれちゃってえ……』


 不純。

 あまりにも不純。

 

 でも、あのブタでも、シトリンが死んで悲しがるんだ。

 という驚きは、すぐに消え去った。


『よし、ポジティブに考えよう! なにせ、これで新しい奴隷が買える……!』


 もう、死ね……。


 なんでそれがポジティブなんだよ……。

 ボクたちは物じゃないんだよ……。

 尊い命なんだよ……。


 なあ、なんで……。


 ボクを一人にしないで……。


 ボクの周りに味方はいないんだよ。

 ブタにも、あまつさえ仕事仲間にも。

 こいつが死ねばよかったのに、って目で見られるんだ。


 涙が……出ない。

 人間――この兵士の前で醜態は晒せない。


 苦しい。

 気持ち悪い。

 吐きそうだ。


「おい、どこが早足だ。

 遅くなると怒られるのは俺なんだぞ!」


 殴られた。

 殴られた。


 痛い。

 痛い。

 痛い。


 でも、あの子が受けた痛みは。


 ボクが変わってあげられたら。


 こんなときでも笑顔なボクが。

 大っ嫌いだ。


 ……ん?


 上空に何か見える。

 桃色の光……の線?


 魔法陣……?

 はじめて見た。


 でもなんで空に。


 魔法陣の中心に何か浮かんでいる。

 白い何か。

 金色みたいな茶色も見える。


「え?」


 魔法陣が光った。

 ヒィィィイインと、ガラスみたいな音がする。


 魔法陣から、無数の光が雨のように降ってくる。

 

 光が、この街全体を包んだ。

 兵士の体を包んだ。

 ボクの体を包んだ。


 あたたかいくて、やさしい、光。


 涙が溢れた。


 よく頑張った、って、言われてるみたいだ。


 ――救済。


 なんでそんなことを思ったのかは、わからない。


 でもなんとなく。

 これは救済なんだと思った。


 それからどれくらい経っただろうか。

 一日だったような、瞬きをする間だったような。

 そんなくらいのふわふわした時間の後。

 

 光の雨が止んだ。


「あれ、俺は……」


 さっきまでボクのことを殴っていた兵士が、困惑して立ち尽くしていた。

 体の異常がないことを確かめて。

 周りをキョロキョロと見渡して。


 やがて、ボクの姿を認めた。


「お前は……奴隷?」


 兵士がまじまじとボクの顔をのぞき込む。


 また殴られる。

 とかいう考えは、不思議と浮かばなかった。


「いや俺は、なぜあんなクソみたいなロリコンに仕えていたんだ?」


 こいつ、様子がおかしい。

 どうしてしまったんだ。


「よし。お前のことは見逃してやろう。俺も今の仕事をやめよう。まぁ、頑張れよ」


 その男は、憑き物が落ちたような、晴れやかな顔になって、走り去っていった。


 状況が全くわからない。

 なにが起きたの……?


「そこの女の子ー、だいじょーぶ?」


 なんだか聞き覚えのある声が、後ろから聞こえた。


 忘れもしない、あの子の。

 昨日まで聞いていた、あの子の。

 シトリンの声。


 思わず振り返る。


「うそ」


 そこにいたのは、幼い女の子。

 髪の色も髪型も、目の色も背格好も。

 シトリンそのものだった。


(生きてた……?)


 でも、ハローがあって、白い翼で浮かんでいる。

 天使なのは間違いない。


 その子は、ボクの頬に優しく触れた。


(もしかして、ホントは天使で、生きて……)


「ねえねえ、キミ、すっごくかわいいね! 名前はなんて言うの?」


 ボクはただ、涙を流して救済を受け入れるしかなかった。




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