第31話:GR(ゴッドレア)真龍と、千億の知的財産と笑うちえちゃん
コモドドラゴン(体長一・五メートル)へと進化(?)を遂げたヘルパンギーナの扱いは、神子神社において非常に微妙なものとなっていた。
まず、純粋にデカくて邪魔だった。
本殿の廊下をのしのしと歩かれると通行の妨げになるし、トカゲ時代にあった「手のひらサイズのマスコット感」も完全に消失している。
そして何より致命的だったのが。
「うわぁぁぁぁぁぁんっ!! ヘ、ヘルちゃんが……でっかいトカゲに、食べられちゃったぁぁぁぁぁっ!!(号泣)」
久しぶりに遊びに来た親友のナミに、その姿を見た瞬間に絶望の号泣をされてしまったことである。
無理もない。六歳の幼女からすれば、愛らしい小さなトカゲが突然一・五メートルの巨大オオトカゲに変貌していれば、「親友が魔物に丸呑みにされた」と錯覚してもおかしくはなかった。
「ち、違うのじゃナミ! 我じゃ、ヘルパンギーナじゃ! 泣かないでくれぇぇっ!」
ワタワタと弁明しようと近づくコモドドラゴン(ヘル)だったが、その巨体とリアルな爬虫類の顔面が近づいてくる恐怖で、ナミはさらに大泣きして賢人の足元にしがみついてしまった。
「……あーあ。可愛げが激減した上に、親友にも泣かれて、もう踏んだり蹴ったりだな、お前」
賢人が呆れ顔でため息をつく横で、すっかり落ち込んで丸くなる巨大トカゲ。
「あのう」
そこへ、書類の束を抱えた安倍ちゃん(権禰宜)が、恐る恐る口を挟んだ。
「私たちが使役する式神なんかだと、人間や別の動物に変化できるものも結構いますけど……。龍の皆さんは、そういうのは無理なんですか?」
「「「…………それだあああああああああああああっ!!!!」」」
広間を揺るがすような、三人の絶叫がハモった。
叫んだのは、落ち込んでいたヘル本人。
そして賢人。
最後に――可愛いトカゲ姿のヘルパンギーナのマスコットグッズを大量に発注し、荒稼ぎしようと目論んでいた矢先にコモドドラゴンになられて、在庫の山を前に頭を抱えていたちえ(事業本部長)だった。
「そうです! 変化です! 竜人ですよ!」
ちえは、バサァッ! と手元の決算書を放り投げ、血走った目でヘルに詰め寄った。
「美女! いや、美少女ならもっと大当たりです!! 神子神社なんですから、巫女服を着せてそっちもグッズ化すれば、トカゲ時代のグッズも『真の姿』とのギャップ萌えで飛ぶように売れます!!」
「お、おお……?」
謎の気迫に押され、後ずさるコモドドラゴン。
「我、何代か前の生では人型を取っておったようじゃが……。あれは全盛期の能力を持ってしてじゃからのう。今のリソース不足の状態で、都合よくその姿になれるかどうか……」
「お任せください、ヘルパンギーナ様」
ちえの眼鏡が、キラァンと怪しく光った。
「地球には、竜人や巫女がお好きな層がたくさんいらっしゃいましてね。完成図は、私が売れるものを山ほどご用意いたします」
「おおおおお? な、なんじゃこりゃ、我もこうなるのか!?」
こうして。
ヘルパンギーナはちえによって神子神社の奥の部屋へと連行され、丸一日かけて『売れる竜人もしくは巫女の理想図』を脳内に直接叩き込まれることになった。
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そして次の日。
いよいよ、変化のお披露目の時がやってきた。
本殿の広間には、賢人やザラたちに加え、葵神商事の面々も集まっていた。
「ちえさん、ヘルにどんなデザイン教え込んだんスか?」
システム部長の二木が、隣に立つちえに小声で尋ねる。
「やっぱ、竜人なら『小〇さんちのメイド〇ゴン』のト〇ルや『転〇したらス〇イムだった件』のヴェ〇ドラとか?巫女なら定番の犬〇叉の〇梗とか、東方の博〇霊夢とかっスか?」
「……ロ〇ズとお〇ヌちゃんよ」
「!?」
二木の時間が止まった。
周囲で聞き耳を立てていた元葵商事の社員たちも、思わず「(古っ!!)」と心の中で一斉にツッコミを入れた。
「うむ。では行くぞえ。我の真の威厳に、平伏すがよい!!」
ヘルの声と共に、前回同様のまばゆい光が広間を包み込んだ。
光が収まり、そこに立っていたのは――。
真っ白な長髪。
頭からちょこんと生えた、可愛らしい龍の角と、お尻の小さな尻尾。
そして、ダボダボの特注サイズの巫女服に身を包んだ――年齢にして六歳ほど。そう、ちょうどナミちゃんと同じ年頃の、愛らしい幼女の姿だった。
「お、おおおっ……お!?」
予想外の姿に、賢人たち一同が完全に固まる。
当のヘル本人も、自分の小さな手を見つめ、「え!? なにこれ、ちっさ!?」と戸惑っていた。
「きゃあああああああああああああああああっ!!!!!!」
静寂を引き裂いたのは、女性の絶叫だった。
見れば、ちえがその場に両膝をつき、天を仰いで両手でガッツポーズを作りながら、滝のように涙を流していた。
「うわはははははははっ!! UR……いや、GRだわ!! キタコレ!!」
「ど、どうしたちえちゃん!?」
完全にキャラが崩壊したちえに、賢人がドン引きしながら声をかける。
「松本さん! これが興奮せずにいられますか!!」
ちえは立ち上がり、鼻息荒く賢人に詰め寄った。
「そもそも『龍』というだけでレアキャラなのに、人化したら『白髪』で『龍の角』で『尻尾』ついてて『幼女』ですよ?!しかも口調が『のじゃロリ』ですもん! こんな属性の暴力みたいなキャラ、売らずにどうするんですか!! よし、これで勝つる!! 待ってろサ〇リオ! いや、千葉のネズミめ!! 版権ビジネスだけで千億は稼いでやりますよォォォッ!!」
高笑いするちえ。
あまりのテンションの異常さに周囲は完全にドン引きしていたが、「きっとこの女なら本当に千億稼ぐんだろうな……」と全員が妙な確信を抱いていた。
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「……まさか、幼子になってしまうとはのう」
ちえの狂乱が落ち着いた後、縁側に座ったヘルパンギーナは、パタパタと短い足を揺らしながら若干凹んでいた。
「魔力が足りんかったのか、それともあの眼鏡女の執念が変化に影響したのか……。我、真龍の威厳ゼロじゃん……」
そこへ。
「ヘルちゃーん!」
賢人に手を引かれ、神子神社に遊びに来ていたナミが駆け寄ってきた。
「わーっ! ヘルちゃん、ナミと同じだねー!」
ナミは、自分と同じ背丈になった真っ白な髪の幼女を見て、パッと花が咲いたように笑った。
昨日のような爬虫類の恐怖感はゼロだ。
「ナミちゃん、ヘルにすべり台の滑り方、教えてあげてよ」
賢人が、神社内に併設されている職員用託児所(幼稚園)の園庭を指差して促す。
「うんっ! 行くよー、ヘルちゃん!」
ナミは園庭の遊具の方へと駆け出していった。
ポツンと取り残されたヘルは、自分の小さな幼児の手をじっと見つめ、戸惑うように振り返った。
「……ケントよ。我は……」
賢人は、縁側から優しく微笑みかけた。
「お前も『子供』になったんだ。……だったら、まずは子供からやってみたらどうだ?」
「…………」
「ヘルちゃーん! 早くー!」
遠くから、初めてできた小さな親友が手を振っている。
ヘルパンギーナは、もう一度自分の小さな手を見て、それから賢人を見上げて。
「……うむっ!」
ニッと、年相応の無邪気な満面の笑みを浮かべた。
「待っておれナミ! すべり台とやら、我が極めてやろうぞ!!」
そう言って、白い髪を揺らしながら、親友の元へと元気いっぱいに駆け出していった。
*明日より『ゾンビパンデミックですが、正直他人事です』 ~異世界は断ったのに、パラレル現代日本がゾンビだらけでした~
を投稿します。
作者初のゾンビ物ですが、特に無双しません。
このゾンビ、空気や水や食料無いと死にます(笑)
応援よろしくです!




