第四十話 花守町のこれから
健司が花守町を離れた数日後。茜たちはいつもの日常に戻っていた。毎日が忙しく、その中でも楽しく充実した毎日。大変な時もあるが、住人と話しをして笑って、毎日を過ごしている。
茜はふと、移動販売の帰り道に思い出すことがあった。それは都会で働いていた時のこと。人の多さに疲れていたあの頃。バリバリ働いて怒られたり、蔑まれたり、人の冷たさを感じていたあの頃。悔しくて、苦しくて、今みたいに笑顔になることも少なかった。茜はこの花守町に帰ってこられて、幸せだった。住人の皆も優しく受け入れてくれて、感謝する毎日。空気も綺麗で周りを見渡せば山々の木々たちが出迎えてくれる。そんな気分に浸っている。
森下がお店の仲間となり、そこまでの道のりに沢山の人たちが関わってくれていたことをこれからも忘れることはない。父と母も見守ってくれていた。少しばかりの小さな畑で作物を育て、私を育ててくれた。今になってその有難みが少しわかるような気がした。町内会長の佐藤、清水のおばちゃん、仕入れ先の皆、そして、渡辺夫婦。沢山の人に助けられ、茜は生活できている。
そんな事を思いながら、夕日に輝く山の緑を見つめながら店へと軽トラを走らせる。この生活を手に入れる事が出来たのは、皆のお陰だ。人の多さに疲れることも少なくなった。今はみんな大好き。たまには、悔しい思いもするけど、そんなのは一瞬の出来事。それよりも、楽しいが勝って悔しいことなんか忘れてしまうぐらいに。
茜はこの花守町に帰ってきてよかったと毎日考えるようになった。なんとも言い表せない感情で、とにかく、“最高”なのだ。まだまだ、茜のよろず屋は始まったばかり、これからも住人のために楽しく頑張ろうと心に決めた5月だった。
―数年後
あれから数年の時を経て、花守町よろず屋は今もバリバリと営業をしている。取り扱う商品も種類が増えた。
「茜さん、これ、載せちゃっていいですか?」
この声は、新しい従業員だ。最近花守町に引っ越しをしてきた若い夫婦の奥さんが仲間となった。移動販売の手伝いはもっぱら彼女にお願いをして、二人で販売している。彼女も住人との交流が出来て、とても喜んでいた。最初は緊張していたが、慣れてきたみたいで上手にコミュニケーションをとってくれている。引っ越してくるときは地域の人と上手くやれるかをどうしても考えてしまうもの。よろず屋は住人との交流は不可欠である。彼女に話しを聞くと、道端で地域の人に会っても、話題はよろず屋が多いらしい。有難いことだ。共通の話題が出来て話しがしやすいと教えてくれた。
「茜さん、出発しましょ。乗ってください。」
「今行くよー!」
運転は彼女に任せ、茜は助手席に座る。周りの自然を堪能しながら、彼女と話をする。
「どう?花守町にも慣れた?」
「えぇ、自然がいっぱいで私は嬉しいです。多少の不便はありますけど、今は移動販売もありますもんね。」
ニコニコと楽しそうに話をする彼女が輝いて見えて、茜も嬉しくなっていた。
「それにしても、昔は移動販売もなかったんですよね?どんな生活なのか想像も出来ないですよ。」
二人で笑いあいながら、車を走らせていると遠くの方でこちらに向かって手を振っている人が見えた。渡辺夫婦だった。茜も手を振り返し、その場を離れていった。30分経った頃、茜の家へと近付いていた。両親もこちらに向かって手を振り声を掛ける。
「頑張れよー!」
住人の皆もこちらに気付くと、毎回手を振って見送ってくれる。よろず屋が愛されていることを肌で感じて嬉しくなった。
ちょっと、走るとまた一人手を振る人が居た。
「茜――――!!!!」
凄く叫んでいる人、それは健司だった。そう、彼もまた花守町に戻り、病院を開院していた。隣接して薬局もあり、院外処方も対応している。
「たまには診せに来いよー。体に気を付けてやれよ―!」
「ありがとう!今度行く―!」
花守町もあれから続々と新しい住人が増えてきている。病院もあり、店もあり、自然が感じられる場所。それが花守町。
現在の世帯数は89世帯へと増えていた。若い世帯も増えて、子供の声があちらこちらで聞こえるようになってきた。子供の可愛らしい声に癒されながら、毎日を走り抜ける。
駄菓子コーナーには、今日も子供たちが集まっていた。時々、大人まで混ざっている。
茜は走る車の窓から、緑に包まれた花守町を見つめていた。
今日もまた、この町の一日が始まっていく。




