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町はずれのよろず屋は、今日も忙しい  作者: 凪野 リアン


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第三十八話 暮らしのそばで


「さぁ、そろそろ行こうか。」


 声を上げたのは茜だった。午後の移動販売に健司も見学で付いてくる約束となっている。よろず屋のお弁当も一緒に食べながら、午後の移動販売の話しや病院での話を聞きながら、食事を終えた。


健司は積み込みの手伝いもしてくれ、早く準備が終わった。茜は積み込みをしながら、移動販売を始めた頃の事を思い出していた。バイクにまたがり一人で配達していた時の事を。今は自分の店舗を持つまでになって、そして、幼馴染である健司と自分の店舗で食事が出来て、成長してきたことを実感していた。町の皆は喜んでくれているだろうか。不安は尽きない。だけど、よろず屋を利用してくれていることが茜にとって、喜びだった。


「よっしゃ!楽しみだなぁ。」


 積み込みも終わって、健司は助手席に座った。都会では経験できない景色を沢山見てもらいたいという一心で、茜は少しゆっくりと車を走らせた。山道にある緑も鮮やかに輝き、今日の天気は晴れ。青い空と木々の緑が映えて、より一層、空気も美味しく感じていた。

 健司は初めての移動販売で、顔もニコニコと楽しそうにしている。茜も嬉しくなっていた。移動販売をする場所まではおよそ30分。健司の疑問に応えたり、周りの景色を見ながら走っていた。すると、山道の脇から何やら飛び出してきた。


「きゃーーーーーーーー!!!!」

「うわっ!なに!?」


―キ、キィーーーーーー!バサバサ!ガチャン!ゴッ!

 茜は急ブレーキを踏み、急ハンドルで何者かを避けた。正体は鹿だった。この辺りでは確かに鹿の出没は多い。いつもは脇道で様子を見てくる鹿が多いのだが、今回に限って凄い勢いで飛び出してきていた。


「健司君、大丈夫?ビックリした~…。鹿が飛び出してきたわ。」

「鹿か~…。驚かすなよ。茜の声が一番ビックリしたって…。」

「ごめんごめん。驚いちゃって…。」

「ハハハ、あの鹿、横断した後、首を縦に振ってこっち見ていたぞ。」


 心臓の鼓動が早い。ドクドクと体中で鳴り響いているようだった。しばらくすると、落ち着きを取り戻し、車内は笑いに包まれていた。


(ぶつからなくてよかった~。そういえば、商品大丈夫だったかな?)


 茜は軽トラを静かに路肩に寄せて、危険のない所へと停止させた。


「健司君、ちょっと待ってて。荷台確認してくるね。」


 そう言い残すと後ろの荷台へと向かった。幌の紐を外し、開けてみた。すると、幌の中は多少、乱れてはいるものの大きな被害は無さそうだった。大きな音の正体はクーラーボックスが荷台を滑る音だったらしい。発電機もしっかりと固定されていて、ビクともしていない様子だ。内心は発電機に異常があったのかとひやひやしながら確認していたのだが、特に異常もなくホッとしていた。


「お待たせ。ごめん、特に異常は無さそう。ビックリした…。」

「結構、凄い音だったからな。問題なくてよかったな。」


 静かに茜は軽トラのアクセルを踏み始めた。突然の鹿の襲来に茜はスピードをさらに落として、注意しながら走り始めた。こんなことが、起きると安全運転になるのは必然だろう。ここからの話題は鹿の話しで盛り上がっていたのは聞くまでもない。

 

移動販売の場所に到着し、移動販売開始の音が鳴る。この地域は一つの集落で、少し住人が多い。続々とやってくるお客さんに笑顔を振りまき、仲良く世間話をする茜。今回は、健司も手伝いとして、お客さんと会話をしながら、販売してくれている。物珍しそうに健司をからかうお客さんもいて、なんとなく、交流が増えて表情も豊かになった気がした。


「先生、珍しいねぇ。今日はお手伝い?」


声を掛けたのは、昔からこの地域に住んでいるおばあちゃんだった。一人暮らしで、移動販売を毎回利用してくれるお客さんだ。ところが、健司はおばあちゃんの顔を見るなり、目を確認した。


「おばあちゃん、ちょっと見せてね……。ちょっと、貧血みたいだね。ちゃんと鉄分とか血になるものを摂らないとだめだよ。食事に気を付けてね。」

「そうかい?あまり、自覚はないけど気を付けるよ。茜ちゃん、買い物頼めるかい?レバーを買ってきてもらえるかい?ニラやもやしは販売してる?」

「足の速い野菜は扱ってないんだ。一緒に買ってきてあげるよ。何か他に欲しいのある?」

「ほうれん草と卵も頼めるかい?」

「わかったよ~。買ってきたら、お家に届けるね。だいたい、18時半ぐらいになると思うから、家で待っててね。」

「ありがとう。助かるよ。」


 一人暮らしの年配の住人はこの地域ではわりと多く、慣れ親しんだ土地というのもあって、離れる事が出来ない住人も多い。そういった、住人さえも茜は助けたいという思いから移動販売を始めたので、急な買い物も苦ではなかった。

 そして、そんな姿を健司はしばらく、茜の背中を見つめていた。


「健司君、どうした?何か私の顔に付いてる?」

「い、いや、何でもないよ…。」


 茜はまだ知らなかった。健司の心の内を…。

 

病院では、診察が終われば関係も終わる。しかし、茜は違った。その後の生活まで背負っていた…。


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