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episode0032

 学園生活 第九話


 俺達は今クレアの部屋にお邪魔している。部屋の作りは男子の部屋と変わらず、入ってすぐ廊下があり左右に扉があり正面に主室となる部屋の扉があるだけだ。

 俺達はそのまま主室に通された。部屋の中は片付いているが、俺の部屋にないような家具などもおいてある。これらは持ってきたか王都に来てから購入したものだろうか? その他はベッドの片隅に少し大きめの人形が目立つくらいで特に変わっている部屋ではなかった。

 マルコからクレアには気をつけろと言われていたが実際接してみると少々危険で過激な部分もあるにはあるが、それ以外はなにげに面倒見も良い普通の娘である。

 最初にこの部屋に通されたのはクレアが湯浴みをするためであった。

 こんな時に湯浴みをする意味があるのかという疑問もあったが、それはクレア自身が決めることなので俺達は文句も言えず部屋でおとなしく固まっているしかなかった。

 やがて濡れた髪のクレアが部屋へと戻ってくる。

 いつもは少し毛先にかけて膨らんでいるショートボブの髪が濡れたことによりストレートに落ちている。身長も高めでスラリとしているので少し大人っぽく見えなくもない。

 というより目のやり場に少々困る。

 部屋着ということもあるのだろう。普段見るクレアの服装とは違い可愛らしい感じのものをまとっている。まあこれはいいのだがその可愛らしい感じの服が透けているのだ。

 胸は普段何かで締め付けているのだろう。今までそこまで胸はないと思っていたがクレアは結構あるようだ。同じ年齢ということを考えるとこれは将来爆乳街道まっしぐらか? まあ胸にそこまで興味ない俺はどっちでもいい話だ。巨乳であろうと貧乳であろうとも俺は関係ない。

 そんなクレアを見た俺達は視線をそらすことに必死であった。

 いろいろな意味で思春期な俺達には目の毒すぎる。

 そして、軽く打ち合わせをした後俺達はそそくさと水場へと逃げるように移動するのであった。


 水場に避難した俺達は一息つくことが出来た。

「一級貴族ともなると庶民の僕なんか気にする必要もないのですかね? あんな扇情的な姿を見せつけられるとは思ってもいませんでした」

「いや、あれは貴族とか関係ないと思われるぞ、俺も四級とは言え貴族の家系だが母も姉も人前ではあのような格好をしているのを見たことはない。流石に部屋ではどうかは知らぬところではあるがな」

「貴族の格は俺のところもクレアと一緒だが母様はあのような格好はしなかったと思うな。あれは単にクレアが俺達を男として見てないだけじゃないか?」

「それはそれで悲しいものがありますが、概ねそうなんでしょうね……」

「なんだナレンスはクレアに気でもあるのか?」

「いやいや、流石に身分の差はわきまえていますよ。たとえ学院では身分の差はないものとしていても実際ではれっきとした身分の差はあるのですから。でもクレアさんは正直言うと魅力的な女性だとは思いますよ。美しいですし、結構きつく言われることもありますが僕みたいな庶民でも相手にしてくれますからね。そんなエレク君はやっぱりメルさんの事を?」

「ん? メルの事か…… 気にならないと言ったら嘘にはなるが、正直わからんって言うのが本音なんだよな…… メルとは学院に来る前からの知り合いで、気持ちにも気づいているんだけど、娘もまあ身分の差はもちろんのこと、その動機がな……」

「えっ? メルさんは変な動機など考えていないと思いますが?」

「あ、うん、その貴族に取り入ってとかそういう動機ではないんだけど、はなすとながくなるんだよな……」

「どうせ夜は長いんですし、ここで親睦を深めるのもいいと僕は思いますよ」

「俺もエレク殿の事は気になります」

「はぁ、まあ別に隠すようなことでもないからいいんだけど、大して面白い話でもないぞ?」

 そう前置きをして俺はメルとの出会いからこれまでのことを話した。

「なるほど、それはメルさんがエレク君に惚れるのもわかりますよ。僕でもきっと惚れますってそんなの」

「たしかに、助けられた事に対しての恩が強すぎるというのも考えものかもしれないな」

「うん、メルはとてもいい娘だし、魅力的な娘なんだけど、そういうところで引っかかっているって感じかな」

「それがなかったら別にお付き合いしてもいいと考えてるのですか? 先程身分差の事もいっていましたが?」

「ああ、身分はまあ言ってしまえば家のフォールダイン家ではさほど問題にはならないと思う。大変なのはそうなった場合のメルだな。今まで勉強してこなかったら貴族としての振る舞い方等を覚える必要も出てくるだろうし」

「一級貴族であるフォールダイン家にしてはそのあたりは結構寛容なのですね」

「ほかがどうかあまり知らないんだよな、俺…… ザムドのところはどんな感じなの?」

「俺の家は言ってしまっても四級貴族ですからね。庶民から嫁に来ることも普通に有り得る話です。出来たら貴族同士というのが望ましくはありますが、長男ともなると跡継ぎが必要になりますから贅沢は言っていられないというのが現状ですよ。俺みたいな三男であれば好き勝手が許されていますよ」

「そういえばエレク君には兄弟いるのですか?」

「ん? ああ、したに弟がいるよ。これまた優秀なやつでな。多分総合的に見たら俺なんかよりよっぽど優秀なんじゃないかな?」

「エレク君は上級魔術扱えるんですよね?」

「ああ、弟と一緒に上級合格もらったよ」

「ちなみに上級魔術の合格をもらったのって幾つの時なんですか?」

「九歳の時だったかな、弟は八歳」

「九歳で上級ってすごすぎですよ……」

「えっ? でも確かメフィナスだっけ? フィナとか呼ばれてる娘、あまり話したことないから詳しくは知らないんだけど、あの娘も十三歳で上級魔術つかえるだろ?」

「たしかフィナさんは宮廷魔術師を親に持つ方ですよ。僕もありまり話したことがないのでわかりませんが……」

「メフィナス・ルラルラン殿は、確か十二歳で上級魔術を収めたと聞いたことがありますね。これでかなり優れていると騒がれていましたよ」

「三年なんて大した違いないだろ?」

「いや、大有ですって…… ザムド君はたしか中級魔術を収めてますよね?」

「確かに、俺は中級まで魔術を収めているけど、エレク殿達と一緒にしないでほしい。多分俺も良い教師に教えてもらえていたと思っているが、それでもやはりこの歳で中級が精一杯というのが現状だ」

「そう言うけどさ、魔術って要は詠唱を覚えるだけだろ?」

「「はっ?」」

「えっ? 違うの?」

「違いますよ、上級魔術を扱う技量がなければ魔術言語を覚えられないと俺は聞いていますが?」

「ん? どういうことだ?」

「僕は魔術初級と中級を少々しか使えないのでわからないですが、でも初級を完全に収めて更に練習を重ねた後、中級の魔術言語を理解することが出来るようになりましたよ」

「俺は中級を収めていますが、上級の魔術言語は未だ理解することが出来ません」

「いやいや、ちょっと待て、少しまとめさせてくれ……」

 一体どういうことなんだ?

 魔術言語を理解できない? それって俺と同じ状況ってことだよな?

 そもそも魔術を扱うのは詠唱さえできれば、厳密に言えば微精霊達に言葉を届けられればいいわけだろ? それで中級まで魔術を使える状態なのになんで言語が理解できないという事になるのかさっぱりわからん。レネに聞ければ手っ取り早そうなんだけど……

「ダメだ、俺じゃわからない」

「エレク殿はどのようにして中級の壁を超えたのですか?」

「中級の壁? またよくわからない言葉が出てきたぞ……」

「壁というのは、各級にあるのですが、それを超えないと次の階級に行けないものです。壁を超えてさらに技術を磨くことにより次の級の詠唱を理解できるようになるのですが。ちなみに中級魔術を収めたなど言えるのも、このきゅうの壁を超えたかどうかです」

「なるほど、ぶっちゃけどうやって超えたかなんて俺わからないよ。これってここだけの話にしてほしんだけど、俺魔術言語理解できないんだ」

「「ふぁぁぁぁっ?」」

 見事に二人して驚いてくれた。

 だが今は作戦中静かにしてもらいたいものである。

「しっ、静かに」

「静かにじゃないですよ、どういうことですか?」

「そうですよ。なんでそれで上級魔術を扱えるんですか?」

「魔術言語を必死に暗記したから?」

「暗記って…… エレク殿……」

「そうだ、ここ水場だしどうせだから試してみないか? 俺が教える通りに詠唱して魔術が発動するかどうかの実験だ」

「上級魔術を部屋の中で使うなんて頭おかしいのですか?」

「えっ? 範囲とか威力とか絞れるだろ? 俺が上級魔術の試験を受けた時範囲とか自分で決めてつかったけども」

「確かに範囲調整はできますが、それって上級試験合格のための課題ですよね? それに魔術の威力調整ってなんですか? 魔術って一定の威力が決まっているものですよ!?」

「えっ? 俺魔術全部威力調整してるけど…… 多分そうしないとクラス対抗戦の時死人出てたと思うよ?」

「ナレンス、諦めろ…… エレク殿は規格外の何かだ…… 俺は今それに気づけた。今日はそれだけでも大収穫だよ」

 少し遠い目をしながら語るザムドだった。

 少し気を取り直してから興味深そうにしているナレンスを実験台として上級魔術を使わせてみることになった。威力や範囲の調節は自信がないとのことだったので、即興で被害が出なそうな魔術を作り上げることにする。要は試験のときと一緒だ。ルシオがやってのけたのだどうにかなるはずである。

「じゃあナレンス、今から俺が言う詠唱に続いて詠唱してくれ。俺は魔力を載せないけどなレンスは魔力を載せて詠唱してくれよ」

 そうして俺は思いついた内容を魔術言語で発音した。

「ブルサルエビー・ペペエワディ・ブーワムシフィーロ・ブーワビーモークスメスセブーワシィルディーポ・ジャジャペヲムーセビー・レイウーソユーシュメペップエビー・ラローゥジャユルアーユーシュメパップエム・プドウドールーユセメウィゥウェシシスプーシヤウクスメピィピルプセ・ブーワセ・ヨユアヂシワームオリポリシ・ソガィヤスーウェ・ブーワシサルエビーペペエワユシスゥピワービパッスラッススサディ」

 ふう適当だがこんなもんだろう。

 だいぶ詠唱は端折ってある。必要最低限伝えなければならないことだけ伝えた感じだ。

 よくよく理解してみると魔術の詠唱は無駄な言い回しが多すぎるのだ。

 それを俺なりに削ってみたらとりあえずこんな感じなった。

 それにこれがもし成功したら成功したで今の作戦で役に立つかもしれない。そんな打算もあった。

 そうして俺に言われたとおりに詠唱をするナレンス。

 顔色は正直ちょっと悪くなってきている。これはアレか? 魔力が足らないとかそういうあれだろうか? まあこの魔術は魔力量に合わせてある魔術だから問題ないと思いたい。

 そしてしばらく詠唱が続いたあと魔術が完成したのであろう。ナレンスから一瞬何かが吹き荒れる。そしてそれは何事の間買ったのかのようにあたりに充満していくのを感じた。ちょっと俺の予想とは違ったがまあ概ね成功しているのではないだろうか?

 俺は立ち上がり部屋の中を動き回った。

「うわ…… 何だこれ、き、気持ち悪い……」

「おいナレンス大丈夫か?」

 心配そうにナレンスに尋ねるザムドだがナレンスはそれに返すこともままならないようだ。

 今ナレンスの頭のなかにはきっとものすごい量の情報量が流れてこんできていることだろう。あの反応もまあ分からないでもない。俺だったらこの魔術使いたくないからな。

「エレク殿、一体どんな魔術を使わせたのですか?」

「ああ、範囲探知の結界を張ってもらったんだ。範囲は指定するのがめんどくさかったからナレンスの魔力で間に合う範囲、どのくらいの範囲になっているか正直俺にもわからないけど、今ナレンスの頭のなかにはものすごい情報量が流れ込んできているんじゃないかな?」

「なんですか? その魔術…… 聞いたこともありませんよ」

「そうなの? まあこれは俺が適当に思いつきで今考えた魔術だけど似たようなものはあるんじゃない?」

「俺も一応魔術についてある程度知っていますが、そのような上級魔術は聞いたことはないですね。それに内容を聞く限りそれは戦略級魔術になるのでは? 結界に居るものの情報を得られる魔術なのですよね?」

「まあ、成功していたとしたら範囲内の気配を察知できる魔術で間違いないと思うけど、それがなんで戦略級なの?」

「エレク殿は何を言っているんですか? もしそれが本当であるなら情報を得られるということですよ? もしこれが敵味方を判別できる結界だとしたらそれはもう恐ろしいものだと思いませんか?」

 ザムドの言っていることを聞いてなるほどと思った。

 確かにこの結界が成功していて、ザムドの言うように敵味方を判別できる結界だとしたら、敵が何処にひそんでいるかも一目瞭然の恐ろしい結界ということになる。

 だがそれだからといって戦略級はおおげさだろうと思わずにはいられなかったが、その後のザムドの話を聞いてこれまた納得させられたのだった。

 戦略級魔術、その名称はフィア先生からも聞いたことがあったがぶっちゃけそれは名前だけでその内容がどういうものか全く解ってはいなかった。

 しかしザムドのお陰で戦略級魔術というのがどういうものか少しだけわかった気がする。

 戦略級魔術は、簡単に行ってしまえばその戦局を有利にし得る魔術ってことだ。

 上級魔術以上の威力で持って敵を一網打尽にするのも戦略級魔術だが、敵の位置情報を的確に調べることが出来ればそこに向けて魔術を放つことで戦局を有利にできる。よってこれも戦略級魔術として機能しているということになるのだ。まあ敵味方が判別出来ればの話だが。

 俺とザムドが話しているうちにナレンスも多少慣れたのであろう。少しフラついては居るがなんとか立ち上がることが出来るようにはなったようだ。

 ナレンスに肩を貸しつつ立ち上がらせるとナレンスが「犯人が来るよ」、そう呟いた。

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