SS-3
フォールダイン家でのシェリルの一日
私はシェーリエルル、親しい人はシェリルと呼ぶわ。
今私は領主の屋敷に来ているわ。
家はこの領主の治める小領地を任されている家になるので、いうなれば親貴族みたいなものね。
実際に血のつながりはないけれど。
今日はこの家の子供の洗礼式という事でそのお祝いできているんだけど、はっきり言って最初はこんな事面倒だったわね。
でも詳しく話を聞いた時、少しだけ楽しみになったの。
その子供は凄く優秀で、次期領主街が無いとまで言われていたわ。
それで私は遠い中このように来ている訳。
話を聞いていた通り、この家の子供エレクレールはとても優秀だった。
そしてその弟であるルシオールも私なんかとは比べ物にならないくらい優秀だわ……
昨日エレクレール、エレクに中級魔術を見せてもらったわ。
私と同い年なのにすでに魔術を習っているなんてちょっとずるい気がする。
私もお父様に頼んで先生を雇ってもらわないといけないわね。
私は昨日の事を思い出しながら屋敷内を散歩していたの。
この家のメイドはのびのび働いているわね。
それだけこの家では良くされているって事よね。
家も勿論メイド達の待遇は良いと思うわよ?
でもお母様に聞いた話によると、家によっては、今はすでに廃止されている奴隷のような扱いの家にもあるって事だし、うちの親貴族となる家がそういう感じじゃないようで良かったわ。
散歩と言っても屋敷の中だけになるからあっという間に終わってしまったわね。
とはいっても他にやる事は無いしどうしようかしら?
出来たらエレクに魔術を教えている先生に少し話を聞いてみたいのだけど、どうしたら会えるかしらね。
お話しできたら私も魔術を少しだけでも教えてもらいたい。
そんな事を思っていたの。
そんな時エレクの専属のメイドをみかけた。
確か彼女はアンだったわね。
彼女に聞けばエレクの先生に合わせてくれるかしら?
というか彼女は何故武装しているのかしら? 話しかけて大丈夫なのかしら?
私の少し先にいる彼女は動きやすそうな服装に革の胸当て、さらには籠手などをメイド服の上からつけているの。 髪は少し茶色がかった金色ね、長さは動きを阻害しなそうな方よりも少し上で短めに揃えてるわね。 それよりもなぜ彼女は武装しているのかしら? 確かにメイドはある程度戦えると聞いているわ。 でも今日はこの家には客人も多く来ているし…… ひょっとして盗賊でも敷地内に侵入したとか? うん、自分で考えたけどありえないわね。
領主の屋敷に侵入するような馬鹿な盗賊なんて聞いた事が無いわ。
直接聞いてみるしかないわね。
私は速足で武装しているアンの元へと向かった。
「ちょっといいかしら?」
「はい? これはシェーリエルル様どうかなさいましたか?」
「ええ、ちょっとあなたの格好が気になったので声を掛けてみたの」
「私の格好?」
そういうとアンは自分の身体をきょろきょろと見まわしたあと、ああという表情を浮かべた。
「この格好はこれからフィアさんに稽古をつけてもらうためなのです。 お見苦しいかっこをお見せしてしまって申し訳ありません」
「いえ、かまわないわ。 そう…… あの私もその、見学させてもらっていいかしら?」
「はい、私は構わないですが、一応フィアさんにもお尋ねしてみましょう」
「ええ、おねがいするわ」
丁度良かったというのかしら? 私もフィアと呼ばれた人の話を聞いてみたいと思っていたし。
それからアンの案内のもとフィアに貸し出された部屋へと向かったの。
アンがノックをし暫くするとフィアは出てきたわ。
フィアは昨日も少し見たけど、何と言うか子供よね? もしかしたらドワーフとかなのかしら?
昨日と違い今日は帽子をかぶっていないから気づかなかったけど髪は黒髪で、眼が片方が赤、そしてもう片方が金で珍しいわ。
容姿はやはり幼げに見えるわね。
こんなかわいらしい感じでエレクをあそこまで鍛えるなんてやはりただの子供ではないわよね。
ドワーフなどの種族はその体格から若く見られるって話しだからきっと見た目とは違い結構年齢が上なのかもしれないわね。
でも子供だったらどうしたらいいのかしら?
アンの後ろにいた私に気付いたフィアは首を傾げ、何でいるのかな? 表情を浮かべたんだけど、それがまた可愛かったの。
その様子に気付いたアンが説明を始めたわ。
「そのシェーリエルル様とは先ほどそこでお会いしまして、私の格好が気になったようでお声を掛けて頂いたのですが、その話の流れで稽古の見学をされたいとの事なのでお連れしました」
「なるほど、それでしたら構わないですよ。 ただ危ないのであまり近寄らないように気を付けてくださいね」
アンの説明でフィアは私の見学を了承してくれたわ。
ただ危ないというのはどういうことなのかしら? ただの稽古なのよね?
私達は屋敷の裏庭にやってきたわ、家なら中庭を使うけど、この家の中庭は、それはもう素敵に花々で彩られていたわ。 あのような綺麗な場所では訓練しづらいわね。
そして、私がいるという事でこれから始める稽古について説明してくれるフィア。
「と、このように実戦を想定した魔術もありの稽古になるのでむやみに近づくと怪我をする恐れがあるので注意してくださいね」
「わかったわ」
私の返事の後、二人はお互いに距離をとりある程度の所で立ち止まった。
そして互いに向き合いフィアが何かを放り投げる。
フィアが放り投げた何かは山なりに飛んでいき地面に落ちた。
その瞬間フィアは魔術の詠唱をはじめた。
アンはゆっくりと剣と盾を構えじりじりとフィアに近づく。
アンは明らかにフィアの魔術を警戒している動きに見える。
まだ戦いを知らない私でも魔術が飛んでくると解っていれば下手に動く事はしないので当たり前の動きだと思う。
そして先に攻撃を仕掛けたのは魔術を詠唱してフィアだった。
私もお兄様が使う魔術を何度か見たことがあるのでわかる。 フィアの詠唱はすごく早い。
あのような見た目でもきっとすごい魔術師なのだわ。
フィアの唱えた魔術は氷魔術だった。 水魔術の応用と言われている魔術で水魔術よりも殺傷力が高いと言われていたはずね。
数本の氷でできた槍ともいえるものがアンめがけて飛んでいく。
正直私は怖いと思った。 稽古だとしてもあの魔術を受けたら下手すると大怪我を負ってしまう。 その様に思ったからだ。
しかしアンには特に焦った様子もみせず、盾を正面に構え、いつでも剣を振れる体制をとっていた。
魔術の速度は速く、アンにすぐにも迫るがアンは迫る氷の槍の一つを盾で流す。
浮けるのではく流してそらしたのだ。
逸れた氷の槍はアンの斜め後方に深々と突き刺さった。
あれだけ深く突き刺さるのだから、氷の槍の威力は計り知れるという物。
あれは、大怪我では済まない、下手をしたら死んでしまう可能性もある。 そんな攻撃のための魔術だ。
そして、まだまだ迫る氷の槍を剣で弾き、さらには先ほどと同じように盾でその軌道をそらすアン。 確かに下手に近づくと危険という意味はよく分かったわね。
でもこれじゃ近づきたくても怖くて近付けないわ。
氷の槍を全て往なしたアンは次の魔術の詠唱をはじめているフィアに走り寄る。
「独特な歩法ね……」
フィアに近づいたアンは掛け声とともに剣を横に振る。
あの剣、刃はつぶしているのよね?
フィアは少し焦りながら後ろに飛びその剣を避けた。
しかし詠唱は中断していない。
さらに追い打ちをかけるアンだけど、フィアの次の詠唱には間に合わなかった。
やはり詠唱が早いわね。
フィアの放った魔術は氷の礫、それもかなりたくさんの…… 流石にあれは全て往なせないだろう。 私はそう思った。
私の予想は間違っていなかった。
おおよそ半分くらいの礫をどうにか出来たものの、残りの半分くらいはアンに少なくないダメージを与えていた。
氷の礫を受けたアンは膝をつくも未だに構えを解いていなかった。
しかしここでフィアから声が掛かる。
「ここまでですね」
「ハァハァ…… は、はい、ありがとうございました」
「なぜ今日は魔術を使わなかったのですか?」
「ハァ、ハァ、魔術、ハァ、を使わなかったり、理由ですか?」
「はい、いつもなら攻撃に魔術を織り交ぜてくるのがアンさんの戦い方だと思っていましたので疑問に思いまして」
「ハァハァ、スゥ……ハァ、それは、えっと、いつも魔術を使ってもフィアさんに届かないので、詠唱される前に終わらすことはできないかと考えました。 結局無駄に終わってしまいましたが」
「なるほど、そういう事でしたか…… しかしそれは悪手でしたね。 もしいつものように魔術を織り交ぜていたら今ほどダメージは受けていなかったでしょう。 まあ驚きはしましたがそれだけです。 戦い方に幅を持たせるという点では問題はありませんが、それはその動きが出来るようになってからの方がよいでしょう。 今のアンさんの実力ではもっとしっかりと基礎を積まないと魔術師の私にでさえその刃は届きませんよ」
「はい……」
「ですが明日以降はルークさんが武術の稽古をつけてくれるという事なのでその辺りは大丈夫でしょうが……」
「だといいのですが」
「では軽く回復促進の魔術をかけましょうか」
「ありがとうございます」
一応アンとフィアの稽古は無事に終了した。
暫く二人を見ていた私は珍しい回復促進という魔術が終わるのを待ってから声を掛けた。
「お二人ともお疲れさまです。それで、あ、あのフィアさん、その、私にも魔術を少し教えてもらえませんか?」
「ありがとうございます。 えっとシェーリエルルさんに私がですか?」
「はい、エレクの魔術、そしてフィアさんの魔術を見てきっと高名な魔術師の方と思われますが、私が滞在している期間だけでも、そのお願いできませんか?」
「え、えっと、私その様な高名な魔術師ではないですよ? そこらにゴロゴロいるような三級冒険者をしているくらいの魔術師なのですが」
「えっ? 三級って…… 確か中堅冒険者でしたよね?」
「はい、二級と三級には大きな壁があって、私ではまだ二級になれるかどうかといったところです」
「そうなのですか? 今まで見た魔術師の中でもかなり上の方にいる魔術師だと感じたのですが?」
「そう言ってもらえるのは嬉しく思いますが、今行ったのが事実なのですよ」
「そ、それでもエレクに魔術を教えたのはふぃあさんなのですよね? それに今の魔術やエレクが見せてくれた中級魔術を見てもやはり並大抵の魔術師とは思えません。 ですのでよければですけど私にもおしえてください」
このように必死にお願いしたのはいつぶりかしら?
私は何としてもこの機会を逃すわけにはいかないわ。 フィアさん本人はああいっていますが実力を見れば凄い魔術師だというのは解ります。
「ま、まあ基礎を教える位なら別にいいですが……」
あら? 思ったより簡単にいきましたわね。
もっと事割れられると思っていたのですが……
まあ教えてもらえるならそれに越したことはありません・
私はこうしてフィアさんに魔術を教わり、回復したアンに武術の稽古をつけてもらったりしながらその日を過ごした。
アンは遠慮がちであったけど、それでもやはりまだ私ではかなわないくらいの強さだった。
昨日立てた私の目標は何気に難しいかもしれないと思った一日になったわ。
そう、私も王立魔術学院に入学してエレクと肩を並べたいという目標はまだ遠いのかもしれない。
昨日もなんだかんだで200以上のPVを頂きました。
ありがとうございます。
これにて幼少期編は終了となります。
次回からは少年期編となります。 ほかにサイドストーリを書きたくなったら変わってしまいますが。
ご意見、ご感想、評価お待ちしています。




