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プロローグ
洗礼式の事を思い出すと今でも頭が痛くなる。
なぜあのようなことを言ってしまったのか、こっちの世界でも黒歴史を作る事になってしまうとは思っても居なかった。
格好もつかなかったうえに、俺の願望を垂れ流しただけの宣誓の儀。いった事自体は本心からの言葉であったのは確かだけど、もっとこう…… な?
見た目はこんなちんちくりんだけど中身はもう四十九歳んなんだぜ? もっとましな言葉を紡ぐことも出来たはずなのにな……
そんな苦い思い出を掘り起こしてしまった俺であった。
この世界に着て十二年、長いようで短い時間だった。
その中でも洗礼式までの期間は俺にとってとても大事な時期だったことは確かだろう。
このように王立魔術学院に入るなんてあの頃フィア先生に出会っていなかったら思いもよらなかっただろう。
入学は貴族、一般市民問わず受け付けていて入学試験自体もある一定の基準を超えていれば合格は容易という学院であるが、その門をくぐろうとする者は案外少ない。
そもそもこの王立魔術学院は完全なる実力主義であり、レベルが足りなければ追い出される事は無いとしても段々と居場所を失っていき自主退学していく者が多いという。
入学者数に対して、卒業できる人数が極端に少ないと言われる学院なのだ。
勿論そのような学院であるから卒業できたものは優秀とみなされ、今後の仕事選びでも引く手あまたという訳だ。
俺はそんな王立魔術学園を選んでしまった。
勿論、他の候補もあった事にはあった、ラスやマールのようにこの王都の他の学園でも俺の人生を悠々自適に送るだけなら良かったと思う。
それでもこの王立魔術学院を選んだのはやはり俺の求めるものが一番早く手に入りそうだと思った事が大きいだろう。
それはこの世界の知識、俺が街に出れるようになってこの世界の様々な事を知った。
奇妙な存在にも出会った。
そうした事によりますますこの世界が不思議に思うようになった――
俺が考えに耽ていたらコンコンとノックのあと扉の外から声を掛けられた。
「夕食は部屋で摂るかい? それとも食堂かい?」
宿屋の女将さんの声だ。
この宿は併設されている食堂で食事をとるか、部屋でのんびりと一人で食事をとるか宿泊時に選べる。
俺はその日の気分で変えるかもしれないと思ったので宿泊時に選択しないでおいた。
あっ、ちゃんと女将さんにそういうのが大丈夫であるか確認をしたぞ?
そうしたら食事の前に声を掛けてくれるという事になったという訳だ。
「あっ、今日は食堂に行こうと思います」
「はいよ、それじゃすぐ準備できるからおりといで、さっきも言ったようにちゃんと一品サービスしとくからね」
言葉の後俺の部屋の前から足音が遠のいていく。
さて食事でもしに行くか――
食堂は賑わっていた。
この宿の食堂は宿泊客以外も使えるためこのように夜はかなりの賑わいを見せる。
俺はこの宿に宿泊してからいつもカウンター席の端を使っている。
今日もいつも通り空いているのでその席に着いた。
基本的に団体客はテーブル席を選ぶ、俺の様にお一人様くらいしかカウンター席は使わないのだ。
一人でもテーブル席を占拠する猛者も居るが俺にはそんなマネできやしない。
やがて運ばれてくる食事、宿泊時に追加料金を支払い夕飯の有り無しを選ぶ形になるが、選んだ場合基本の食事としてパン、そして日替わりでメインになる肉料理、簡単な野菜料理、そしてスープ、これがこの宿の追加料金を払って食べられる夜の食事だ。
今日はこれに女将さんが言っていたように一品見慣れない食べ物が追加されていた。
デザートではないよなこれ? 見た事も無い黒い色をした謎の食べ物。
湯気を立てているので暖かいものだというのは解る。
取り合えず添えられているスプーンでひと掬いして口に運んだ。
「な、なんりゃこれ?」
口の中に広がるのは甘くて、そして辛くて、そして酸っぱくて、そして極めつけは痛い。
そんな困惑した状況に陥っていると誰かが俺に声を掛けてきた。
「おっ、お嬢ちゃん中々通な物を食べてるじゃないか」
声を掛けてきたのは中年のおっさんだった。
口の中がピンチを迎えてる最中真っ先に思ったのが俺はお嬢ちゃんじゃないだった。
ただそう言いたくても口の中で様々な味覚を刺激してくるこの食べ物を飲み込めなくて返事をすることが出来ない。
俺は最後の手段として、まだ手を付けてなかった水を飲み一緒に謎な食べ物を胃に流し込んだ。
そして中年のおっさんに返事をした。
「俺はお嬢ちゃんじゃない…… 男だ!!」
「おっ、そうだったのか、それは悪い…… だがその見た目だとよく間違われるんじゃないか?」
「それは気にしてる事だからあまり言わないでほしい……」
「そうか…… な、なんというか、本当にすまんな」
「まあいいよ、それよりこの食べ物知ってるの?」
「ああ、それか。それはクレクレームっていう植物の魔物がつける実でな、なかなか貴重なんだぜ?」
「クレクレーム? 聞いたことないや」
「そりゃそうさ、今言ったようになかなか貴重な食材だからな、それにクレクレーム自体が森の奥に行かないと見つけることが出来ない上になかなか強敵なんだよ。採取以来とか出すと二級以上の仕事になるんじゃないか?」
「そうなんだ、でもこれ味に癖がありすぎない?」
「そこがいいっていうやつも居るが、苦手な奴は苦手みたいだな。だが酒のつまみにはいいもんだぜ? まあ高くて滅多にそんな贅沢なんてできねーけどな」
がははははっと豪快に笑う中年のおっさん。
その後中年のおっさんは空いている俺の隣に座りだし色々話し出す。
まあ今はまだ一人なのでこのような出会いもまた一興と思いおっさんの話を聞きながら食事をとった。
因みにこの世界ではお酒を飲めるようになるのは十二歳からである。
色々話を聞かせてくれるおっさんに、お礼にエールを一杯おごっておいた。
俺もエールを飲んでみた。やはりと言うか、地球の酒の味を知ってる俺からするとあまりうまいとは言えない酒だったが、久しぶりという事もあって楽しかったことは確かである。
その後部屋に戻った俺は桶を借りて魔術によりお湯を作り出し身体を拭う。
やがて腕に差し掛かった時傷に触れた。
すでに完治はしているが跡となってしまった傷である。
「この傷は確か十一歳の時だったっけ……」
俺は十歳の時仲の良かった者達と森へ出た。
森へ行った理由は薬草採取の手伝いの依頼を受けたためだ。
この世界には冒険者協会という組織が存在する。
簡単に言ってしまえばその日その日の仕事斡旋という感じ、日雇いのバイトともいえるか……
洗礼式を終えたものは誰でも登録することが出来るのだが、六歳から十二歳までの間は準五級という本来無い等級として登録される。
要は冒険者協会としては、登録はするけどまだ冒険者とは認めませんという扱いである。
そのためにできた等級で、出来る事と言えば近所のゴミ拾いや、大人の手伝いで一緒に森に行ったりして木の実や薬草の採取といった感じである。
俺達が受けた薬草採取の手伝いの依頼は大人と森へ行き、本来であれば薬草を採取して帰ってくるだけの簡単な物であった。
しかしその日は簡単であるはずの薬草採取の手伝いがとても難しいものとなった。
あれにはさすがに俺も焦った。
だって角ウサギ(この世界ではモキュールというらしいがどう見ても角の生えたウサギなので俺の中では角ウサギとなった)が群れで襲ってきたのだ。
その時受けた傷で、家族にはかなり心配をかけてしまった……
だけど父には褒められた。
よくぞ守り抜いたと、それはもうすごい勢いで褒められたのはいい思い出かも知れない。
考えてみたらあのように手放しで褒められたのはあれが初めてじゃないだろうか?
その後父は母にお小言を食らったみたいだが。
そんな事を思い出しながら身体を拭い終わり後は寝るだけなので楽な服に着替える。
小さなテーブルの上には四歳の誕生日の時に貰った短剣と俺が魔術の訓練をすることになって作ったブロッサムパターン。
そしてベッドの隅には街で仲良くなった鍛冶師見習のコルトに作ってもらった短刀、それら全てがあることを確認して横になった。
そして思い返す。
俺が街へ行くようになってからの生活を――
少年期編スタートです。
本日の投稿は少年期編のプロローグになります。
途中にこのようにプロローグを挟むことになったため
episode0000をepisode----に変更しました。
今後プロローグ挟むときはこのような形になると思われます。
プロローグというかモノローグに近い気もしますが……
幼少期さいごのSS二話をエピローグとしようか迷ったのですがSSとして乗せました。
気付くともう少しで1500PVです。
拙作に目を通していただきありがたく思ってます。
今後も拙作におつき頂ければと思います。
ご意見、ご感想お待ちしております。
2017/10/30
「この傷は確か十歳の時だったっけ……」を
「この傷は確か十一歳の時だったっけ……」に変更。
そしてベッドの隅には街で仲良くなった鍛冶師見習のコルトに作ってもらった短剣 を
そしてベッドの隅には街で仲良くなった鍛冶師見習のコルトに作ってもらった短刀 に変更。




