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元勇者、相対する


 「ウシル、アセト」


 「どうしました?」


 「なにかありました?」


 俺のその声を聞いて、不思議そうに首を傾げる二人へ、俺の極低温の声が響き渡る。


 「下がれ(・・・)


 ビクッ、と恐怖にさらされたかのように体を震わせた兄妹は、即座に従って俺の後ろへと下がる。しかし、その顔には微かな不満顔が浮かんでいた。


 「エギス」


 「うん」


 即座に帰ってきたエギスの声だが、しかし緊張と沈痛の色が見て取れる。


 「撃破の大熊(バスターグリズリー)と同じだ。あの鎧がない俺には防御力が不安過ぎる。頼むぞ」


 「わかったよ、ヒロ」


 言葉少なく、それだけ意志疎通を済ませておいてから、俺はエギスを伴って足を進める。


 この群生地の、中央へと。


 「そこにいるんだろう? 魔族」


 息を吸って、覚悟を決めてから発した言葉に、木の影に隠れている気配達は動揺したようだった。


 「……するのさ」


 「……いかない」


 「……が行こう」


 「……流しよう」


 少しのざわめきの後に、一人のフードつきローブの男が姿を表した。


 姿形はそう人間とは変わらない。しかし、紫色の肌と同系統の髪の毛。そしてフードを押し上げる鋭い膨らみが、決定的に違いを突き付ける。


 魔族。


 「……っ!」


 「きゃっ!」


 後ろでウシルとアセトが声を上げる。



 それを無視して念のため、俺は訊いた。


 「友好派で、使者に来たとかじゃあ無いよな?」


 ドクン、ドクンと心臓が跳ねる。


 痛いほどに鼓動する少しの時間の後、解答は一言のみ放たれた。


 「Einherjar」


 それは、主神に認められた英雄のみが死後に属することの出来る軍隊。勇猛たる雄叫びのような呟きは、辺りに死兵を呼び出していく。


 エインヘリヤル。


 かの魔勇者の心臓に刻まれてた魔法陣の刻み主であり、おそらくセーラムの街を大量の魔物に狙わせて、ミヒャエルをこの街に引き寄せた張本人。


 幻想的な空間が、無粋な魔物の死兵に踏み荒らされて行く。

 そして、儀式式句の一部を抜き出したような清純な響きが、あまねく全ての終焉を告げる暴虐の前奏が放たれた。


 「Aigis」


 「Levatein」


 エギスがその体に合わせた短めの剣を構えた所で、魔力はいっそおぞましいほどに拡散する。


 そして膨れ上がった高濃度魔力は、一瞬にしてゼロに転じて呼び出された魔物達を刹那の内に焼き滅ぼす……はずだった。


 兄妹が、飛び出しさえしなければ。


 「風礫(ウィンドバレット)


 「『死者の書(Totenbuch)』」


 弾丸のごとき風の塊が死兵を貫き、恐怖で縛る幽界が王の示唆が放たれる。


 「ナオヒロさんっ! こいつらは何とかするので、魔族を!」


 そんな言葉と行動に、俺は発動させかけた『模倣神技』を一度キャンセルさせなければならなくなった。


 「ちっ!」


 勝手に死兵との戦闘を始めてしまった兄妹の姿を見て、俺は歯噛みする。


 エギスは俺の焔を知っている。その性質を把握しているから、俺の声を効いて、即座にその場所から動かないという選択肢をとれる。


 しかし、兄妹は違う。


 例え俺が巻き込まないようにレーヴァテインを操ったとしても、兄妹が動いてしまえば意味はない。


 さらに、エギスについて言えば万一はありえないが、兄妹は焔に巻き込まれれば簡単に死ぬ。


 兄妹を巻き込まないように最小サイズで焔塊を現出させれば、魔族は簡単に避けてしまうだろう。


 つまり、俺は焔を封じられた訳だ。


 「エギスっ!」


 「うんっ!」


 ォォォォオオオオオン!


 と、金属を叩いたような、やぎの鳴き声のような響きが木霊する。


 アマルテイアのいなななき。俺に対する、エインヘリヤルの魔族からの認識不可能性の付与。


 「石化剣閃(アンピュテイション)


 「雷神の重鎚(ミョルニル)


 「Gab……」


 そして魔族へ仕掛ける瞬間、誰かの神名が割り込んだ、気がした。


 AigisでもLevateinでもEinherjarでもない、第三者のその『模倣神技』は、エインヘリヤルの魔族を邂逅が産む甘美なインスピレーションの渦へと叩き込む。


 他の魔族からの援護。


 そんなことは構うまい、と力を制御しながら突っ込む俺に、エインヘリヤルの魔族はニヤリ、と笑った。


 「……っ!」


 体の芯から悪寒が生まれ全力で警鐘を発するが、『トルの寵愛』で加速してしまった俺はもう止まれない。


 そして大柄な魔族と、俺とエギスは激突する。




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