訓練②
翌日。
また訓練場に連れて行かれると思っていた俺たちは、城の一室へ案内されていた。
そこは教室みたいな場所だった。長机が並べられ、前には黒板のような板まである。
「……学校みたいやな」
小林が呟く。その言葉に、少しだけ空気が和らいだ。
「本日は座学と力の確学を行います」
前に立っていたのは、昨日の兵士ではなかった。長いローブを着た、白髪の老人。
「私はエルドと申します。勇者殿らに、この世界の知識を教える役目を任されております」
穏やかな口調だった。昨日までの兵士たちとは、かなり雰囲気が違う。
「まず、この世界の成り立ちについて説明しましょう」
エルドが杖を軽く鳴らすと、円のような紋様が浮かび上がる。
中心に、黒と白の光。そこからさらに、四つの色が広がっていく。
「この世界は、はるか昔“原初の力”によって生まれたとされています」
「闇、光、火、水、土、風」
六つの光が、空間に浮かび上がる。
「これらが、この世界における“原初の力”世界を構成する根源の力です」
「厨二感すご」
井上が小声で言う。
「黙っとけ」
木村が肘で小突く。
エルドは気にせず続けた。
「そして、そこから様々な力が派生しました」
光が枝分かれしていく。
「雷、氷、植物、鋼、重力、治癒……。
多くの属性や能力は、原初の力から派生した“眷属”なのです」
「へぇ……」
佐藤が興味深そうに呟く。
「つまり、原初の力は珍しいってことですか?」
「ええ」
エルドは頷いた。
「極めて希少です。特に“光”と“闇”は、ほとんど確認されたことがありません」
その瞬間、空気が少しだけ変わった気がした。
山本と、俺。
自然と視線が集まる。
「……なお」
エルドが続ける。
「原初の力は非常に強力ですが、扱いが難しい。歴史上、多くの使い手が存在しましたが——」
一瞬だけ。エルドの視線が、こちらを見る。
「力に呑まれた者も少なくありません」
その言葉だけが、妙に耳に残った。
「次は大陸について説明しましょう」
そう言って、老人は杖を振る。
次の瞬間。黒板のような板に、地図が広がった。
「おお……」
思わず声が漏れる。
「ここは、アルヴェリア大陸。そして現在、もっとも勢力を持つ国家が五つ存在します」
地図の各地が、順番に光る。
「我が国“レグナス王国”」「宗教国家“ルミナ聖国”」「軍事国家“グランディア帝国”」「亜人たちが多く住まう“ミストエル”」「冒険者と交易で成り立つ自由都市群“ゼルヴァ”」
「そして——“魔境”」
さらに、地図の北西部。黒く塗られた巨大な土地が浮かび上がる。
空気が少しだけ静かになる。
「人の手がほとんど及ばぬ危険地帯です。強力な魔物が数多く生息しており、魔力濃度が極端に高く、普通の人間では長時間活動することすら困難です。」
「そこに魔王がいるんですか」
「現在、魔王は確認されておりません」
エルドが続ける。
「ですが、近年では、人類圏への侵攻も活発化しており過去魔王が出現した際も似たような動きがあったとの記録があります。その脅威に対抗するため、勇者殿に助けを求めることになったのです」
その説明は、自然だった。
でも。なぜだろう。どこか、引っかかる。
まるで――
「さて」
空気を切り替えるように、エルドが杖を鳴らす。
「次は、実際に皆様の力を確認していきましょう」




