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闇にのぼる  作者: ブレイン


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6/6

訓練

案内されたのは、城の外にある広い訓練場だった。地面は踏み固められた土で、周囲には柵が張られている。


 武器らしきものも置かれてはいるが、使う気配はなかった。


「並べ」


 兵士の一人が低い声で言う。俺たちは言われるままに横一列に並ぶ。


「これより、お前たちの基礎能力を測る」


「基礎能力……?」


 小林が小さく呟く。


「走れ」


「……は?」


 一瞬、意味が分からなかった。


「この外周を走り続けろ」


「止まるな」


「以上だ」


「いやいや待って待って」


 小林が思わず前に出る。


「それだけ?」


 兵士は一切表情を変えない。


「走れ」


 有無を言わせない口調だった。


「……やるしかないか」


 山本が小さく言う。そのまま、一歩踏み出した。他のやつらも、それに続く。


 結局——

全員で走り出した。最初は、まだ余裕があった。


「なんやこれ、マラソン大会か?」


 木村が軽く笑う。


「いや、アップやろさすがに」


 小林も軽い調子で返す。


 でも。

 10分、15分と時間が経つにつれて——

 空気が変わっていった。


「……はぁ……はぁ……」


 呼吸が重くなる。足が、じわじわと重くなっていく。


「まだ……終わらんのかよ……」


 小林が息を切らしながら言う。


 兵士は、何も言わない。ただ、外周の内側でこちらを見ているだけだった。


 時間の感覚がおかしくなる。どれくらい走ったのか分からない。ただひたすら、足を動かし続ける。


「……っ」


 中村が少しふらつく。


「大丈夫か」


 山本がすぐに声をかける。


「……うん、なんとか」


 そう言いながらも、明らかにきつそうだった。


「無理すんなよ」


 田中が後ろから言う。ペースを少し落として、横につく。


 そうやって、なんとか全員で走り続ける。


 でも——

限界は、確実に近づいていた。


「……もう、無理……」


 小林がついに膝をつく。


「立て」


 すぐに、兵士の声が飛ぶ。


「まだだ」


「いや、無理やって……!」


「立て」


 同じ言葉を繰り返す。感情のない声だった。

小林が歯を食いしばる。


 なんとか立ち上がって、また走り出す。


「……なんなんこれ」


 木村が低く呟く。


「勇者ちゃうんかよ、俺ら」


 その言葉に、誰も返せなかった。


 ただ、走るしかない。


 やめたらどうなるのか。


 それを考える余裕もなかった。


 やがて——


「止まれ」


 唐突に、声がかかる。その場で、全員が崩れるように止まった。


「……はぁ……っ……」


 息が上がる。喉が焼けるみたいに痛い。足が、まともに動かない。


「基礎体力は把握した」


 兵士が淡々と言う。


「今後の訓練内容を決定する」


 それだけだった。


「……それだけ?」


 小林が地面に倒れたまま呟く。


 兵士は答えない。


 ただ、こちらを見下ろすだけだった。


 その視線に——


 妙な違和感があった。まるで、“人”として見られていないような。


「……なあ」


 息を整えながら、小さく呟く。誰に向けたわけでもない。


 ただ——


「俺ら、ほんまに……勇者なんか?」


 返事は、なかった。

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