訓練
案内されたのは、城の外にある広い訓練場だった。地面は踏み固められた土で、周囲には柵が張られている。
武器らしきものも置かれてはいるが、使う気配はなかった。
「並べ」
兵士の一人が低い声で言う。俺たちは言われるままに横一列に並ぶ。
「これより、お前たちの基礎能力を測る」
「基礎能力……?」
小林が小さく呟く。
「走れ」
「……は?」
一瞬、意味が分からなかった。
「この外周を走り続けろ」
「止まるな」
「以上だ」
「いやいや待って待って」
小林が思わず前に出る。
「それだけ?」
兵士は一切表情を変えない。
「走れ」
有無を言わせない口調だった。
「……やるしかないか」
山本が小さく言う。そのまま、一歩踏み出した。他のやつらも、それに続く。
結局——
全員で走り出した。最初は、まだ余裕があった。
「なんやこれ、マラソン大会か?」
木村が軽く笑う。
「いや、アップやろさすがに」
小林も軽い調子で返す。
でも。
10分、15分と時間が経つにつれて——
空気が変わっていった。
「……はぁ……はぁ……」
呼吸が重くなる。足が、じわじわと重くなっていく。
「まだ……終わらんのかよ……」
小林が息を切らしながら言う。
兵士は、何も言わない。ただ、外周の内側でこちらを見ているだけだった。
時間の感覚がおかしくなる。どれくらい走ったのか分からない。ただひたすら、足を動かし続ける。
「……っ」
中村が少しふらつく。
「大丈夫か」
山本がすぐに声をかける。
「……うん、なんとか」
そう言いながらも、明らかにきつそうだった。
「無理すんなよ」
田中が後ろから言う。ペースを少し落として、横につく。
そうやって、なんとか全員で走り続ける。
でも——
限界は、確実に近づいていた。
「……もう、無理……」
小林がついに膝をつく。
「立て」
すぐに、兵士の声が飛ぶ。
「まだだ」
「いや、無理やって……!」
「立て」
同じ言葉を繰り返す。感情のない声だった。
小林が歯を食いしばる。
なんとか立ち上がって、また走り出す。
「……なんなんこれ」
木村が低く呟く。
「勇者ちゃうんかよ、俺ら」
その言葉に、誰も返せなかった。
ただ、走るしかない。
やめたらどうなるのか。
それを考える余裕もなかった。
やがて——
「止まれ」
唐突に、声がかかる。その場で、全員が崩れるように止まった。
「……はぁ……っ……」
息が上がる。喉が焼けるみたいに痛い。足が、まともに動かない。
「基礎体力は把握した」
兵士が淡々と言う。
「今後の訓練内容を決定する」
それだけだった。
「……それだけ?」
小林が地面に倒れたまま呟く。
兵士は答えない。
ただ、こちらを見下ろすだけだった。
その視線に——
妙な違和感があった。まるで、“人”として見られていないような。
「……なあ」
息を整えながら、小さく呟く。誰に向けたわけでもない。
ただ——
「俺ら、ほんまに……勇者なんか?」
返事は、なかった。




