元カレを追い出しに行きました 前編
兄は、香菜さんと、香菜さんのマンション前に待ち合わせた。
そして香菜さんがマンションの扉を開けた。
ドアを開けると、中の状態は酷い有様だった。
廊下にゴミや、衣類が散乱していた。
キッチンは使った鍋や皿、コップが山盛りだった。
食い散らかした食品の匂いが部屋にこもっている。
「これは酷い状態だな。虫が湧いてないといいな」
香菜さんが、下駄箱やクローゼットを確認した。
「あ――――。ない。ない! なぁーぁぁい――」
「なにがないんだ?」
「バッグに、靴よ。あ……。まさかと思っていたけど、やっぱりなくなったぁ」
金庫だけは無事だった。
兄と香菜さんは、最後に寝室の扉を開けた。
最悪な状況だった。
香菜さんの彼氏が女と眠っていた。
香菜さんが大声を上げる。
「私のマンションで! 私のマンションで! 私のベッドで! あぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
香菜さんがその場で座り込んだ。
兄が言う。
「香菜さん、落ち着いて」
「落ち着けないわよおぉ」
それはそうだろうと兄も思った。
兄がベッドの脇に歩み寄って言う。
「おい、起きろ」
起きたのは女の方だった。
女は兄を見て、恐怖を覚える。
見知らぬ巨体の男が、寝ていたベッドの脇で、自分を見ているのだから、驚かないのが無理だった。
女が叫んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
それで香菜さんの彼氏が目覚めた。
彼氏も兄を見て驚き、そして言う。
「あんた、誰だよ」
兄が香菜さんを見た。
それで、香菜さんの彼氏も香菜さんを見る。
彼氏が言う。
「あ――! 香菜おかえり。待っていたんだ」
かなりテンションが上がったらしく。香菜さんの彼氏が、嬉しそうな顔で飛び起きた。
それから康ちゃんは、隣で寝ていた女に言う。
「おい、お前、もう帰って」
女は香菜さんの彼氏の変貌に驚いて聞く。
「え? なんで? 何時までも泊まっていけって言ってたじゃない?」
「あー! あー! もう良いから、帰って。お前は、もういらない。帰って」
「酷いぃ。誘われたから来たのに」
女はプンプン怒りながら服を着始めた。
香菜さんが気がつく。
「それ、私の服じゃない?なんであなたが着るの?」
「え――――。だって康ちゃんが、クローゼットの中のものは、なんでも好きに着て良いっていったしぃ」
「どう言う事よ! 康ちゃん。私の服を、私の知らない女に勝手に与えたの?」
「いいだろう?いっぱいあるんだから」
「それに、靴と鞄がないけど、どこにやったの?」
「売った」
「売った? 売るんじゃないかとは思ったけど、やっぱり売ったの? 私の鞄と靴を売ったの?」
「いいだろう?香菜が居ないと、金が無いから。生活できないだろう?だから売ったんだ。でも香菜は良いものは持って出たから、換金してもクソだったな」
女が着替え終わって言う。
「じゃぁ、お取り込みみたいだから、私はもう行くね。康ちゃん、またね」
「ああ、もう、お前とは会わないけどな」
女が笑う。
「またまたぁー」
女寝室を出ていった。それから、廊下を歩く女の足音がして、玄関を出ていく音がした。
香菜さんが言う。
「今度は康ちゃんの番よ。出て言って」
「え? 俺に出て行けって言うの?」
「そうよ。出て言って」
「嫌だ。出て行かないし、別れない」
兄が言う。
「香菜さんとは、別れてもらう」
康ちゃんが兄を睨む。
「あんた誰だ? 新しい香菜の男か?」
康ちゃんが香菜さんを見て言う。
「このアバズレ、もう新しい男ができたのか?」
「香菜さんを侮辱するな。俺は香菜さんの男じゃない」
「じゃ、なんだよ。他人が痴話喧嘩に口出しするなよ」
「他人じゃない。兄のようなものだ。長い付き合いなんだ」
「だとしても、俺は出ていかない。香菜が好きなんだ。愛しているんだ。なぁ、香菜別れないでくれよ」
香菜さんがキレて言う。
「もう、うんざりなのよ。出て行って!」
すると急に康ちゃんの顔つきが変わった。
「香菜、お前。浮気したな。こいつか? 兄なんて言っているけど、こいつとやったのか? 許さない!」
康ちゃんが、香菜さんに向かって飛びかかってきた。香菜さんは恐怖で、上手く動けない。香菜さんは自分の顔の前に手を出して、自分の顔を守ろうするだけで、手一杯だった。香菜さんは、諦めた。多分次の瞬間、自分は康ちゃんの回し蹴りの餌食になって、壁まで飛ばされると。
しかし、違った。
康ちゃんに、香菜さんが蹴られるすんでで、兄が香菜さんを巻き取るように、自分の腕の中に抱え込んだ。
それで目標物を失った康ちゃんが、壁に激とつした。
すごい勢いで、壁に突進したから。康ちゃんも無事ではすまなかった。
ドスーン
何か重い物体が、地面に激突したような、鈍い音が寝室に鳴り響き、天井のペンダントライトが大きく揺れた。
「痛てぇ……、あぁ! クソ」
壁に激突した康ちゃんが、あまりに痛みに悶絶した。
「あぁぁぁぁぁ、くそぉ! クソぉ!」
香菜さんを抱きかかえながら、兄が言う。
「康ちゃん。悪いけど。もう充分だろう? 甘い汁もだいぶ吸ったわけだし。香菜さんが居ない間に、香菜さんの私物を売り尽くしたんだ。女まで連れ込んで、好き放題に遊んだんだろう? そろそろ良いんじゃないか? 開放してやってよ」
激突した足をさすりながら康ちゃんが言う。
「香菜、香菜、俺足が痛いんだ。きっと後で青くなるよ。ねぇ、香菜。俺に優しくしてくれよ」
「もう、無理なの。出て行って」
「じゃぁ。せめて金をくれよ。出て行っても俺、金が無いから、泊まる場所もないだろう?」
香菜が兄から離れて、自分のバッグを開けようとした。
――――後編に続く




