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リモート  作者: 飛鳥 友
第4章 今回は孤独な殺し屋……はたして彼は死地を乗り越えることが出来るのか?
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新たな依頼

23.新たな依頼

 甚兵衛を着て頭から顔じゅうの髭に至るまで真っ白く、如何にも職人然とした初老の首領は、旋盤の装置の上に今まで加工していた絵付けしていないこけしを5つ並べた。


「小売りの密売人一人と元締め3人に精製工場を預かっていた総元締めが一人……計5人と客の一人が捕まっている。勿論……密売人は総勢で50人ほどいるし、警察の摘発で捕まったのは30人で、精製工場を運営していた配下の連中は20人全員が捕まったようだ。


 だがまあ……雑魚はどうでもいい……どうせ大したことは知っていないはずだからな。問題は元締め3人と総元締めだ……こいつらは証人特別保護とかで……警察に直接捕まった奴らとは別の場所で、ひそかに匿われていると聞いた。


 どうだ……そいつらを逃がすか、無理なら証人として連れ出される前に、始末していただけないだろうか。


 本来なら別の国の支部……しかも元はいがみ合っていた対立組織の連中だから、手入れを食らったところで放っておくところなんだが……殺し部門のナンバー2と目されていたお前さんが来ているならちょうどいい。腕を振るってみてはもらえないか?勿論依頼料はお支払いする……成功報酬だがね……。


 うまくいけば奴らに多大な恩を売ることが出来るからな……こっちにも利がある。

 その結果次第で、組織の各支部の所在と接触方法を教えてやらんこともない……どうだ?」

 顔中髭と言ってもいいくらいの首領は、じっと逸樹と目を合わせて来た。


(どうする?)

(いいんじゃあないか?適当に、調べたふりをすれば……成功報酬だって言っているしな……。)


「分った……だが俺が殺しを引き受けるのは、相手が本当の悪である場合だけだ。そういう点では麻薬密売組織の元締めと総元締めと言う標的は、対象となるだろう。だが……真の目的は逃がしたいのだろ?俺は殺しの専門家で、拘束されているものを逃がすような脱獄のプロではないぞ。」


「ああ……その辺は大丈夫だ、なにも逸樹殿に逃がす手筈を全て整えてほしいと言っているわけではない。

 まだ向こうには組織の連中が残っているから、元締めたちを逃がす役割は、そいつらにやらせる……どうせ1人じゃ無理で大人数が必要になるだろうからな。


 逸樹殿は奴らを匿っている冒険者……ジャックとかいう奴の後をつけて、拘束場所を見つけて欲しい。匿うなんて言っているだけで、どうせ……頑丈な檻か何かで元締めたちが逃げられないようにしているのだろうから、恐らく郊外にある警察施設か軍の施設のどこか……ではないかと推定している。


 そうでなければ、とっくに元締めたちは逃げ出しているだろうからな……。


 奴らも一流の冒険者のようだから、簡単に拘束場所が分かるような行動はしないと思うが……職業柄尾行はプロだろ?どうだろうか……向こうの連中たちとともにジャックとかいう冒険者を尾行して、拘束場所を特定して欲しいのだが……。


 期間は……裁判が始まるのがおおよそ1ヶ月後だから、それまでの期間でお願いする。」


「了解した……とんぼ返りになってしまうが、これからまた畿南国へ向かうとしよう。向こうの連中とはどうやって会えばいい?」


「おおそうか……有難い。じゃあ今すぐ文をしたためるでな……ちょっと待っていてくだされ。」


 髭面の首領は中央通路の旋盤を後にして、工場奥へ向かった。そうして事務所へ上がって行く階段下の長テーブルの上に置かれた、タイムカードらしきカードが刺さった状差しの隣の、引き出しがいくつもついた事務棚の一つを引き出し、中から便箋と封筒を取り出して便箋にペンを走らせた。


「ほれ……これを持って畿南国へ行き、精製工場北に大きな市場があるから、中央北の端側にある石鹸屋を訪ねてくれ。一見の客は決して相手にしてはくれないが、この手紙があれば信用してくれるだろう。


 数人の手下をつけて一緒に行動するよう書いてあるから、冒険者の後をつけて拘束場所を探し出してくれ。

 出来るかい?」


「分った……俺は人と集団で何かをやることには慣れていない。恐らく単独で動いたほうがうまくいくと思うのだが……。」


「いや……それでは元締めたちを逃がす作戦は出来ないだろ?始末するのは、どうしようもない場合に限りたい……今では奴らも身内だからな。だから常に手下たちを連れて、行動してもらうしかない。」


「仕方がないな……やってみよう。」

 しぶしぶ、麻薬密売組織の配下の者たちと行動を共にすることを了承した。



 またまた3日かけて高松町へ逆戻り、街中では乗合馬車を乗り継いで市場へ……首領から言われた通り市場の端で石鹸屋を探した。


(あれじゃあないか?)

 店の上の大きな水色の看板に、大小さまざまな泡の絵が描かれていて、石鹸販売所と書かれている。


 近づいてみるとショーウインドウには白色だけではなく、墨の入った真っ黒いものから黄色や緑など様々な色彩の石鹸が、キラキラとラメ入りの化粧箱に入れられて飾られていた。中にはシャンプーやリンスに加え、液体石鹸のボトルもあるようだ。


(麻薬の精製工場は石鹸工場に偽装されていたからの繋がりだろうが、こんな普通の店が麻薬密売人たちのアジトなのか?店の中を見ろよ……客層は若い女の子がほとんどだ……)


(ああ……石鹸屋だからな……そうなるだろうな。)

 ガラスの引き戸を開けて店内に入ると、中は石鹸のいい香りに加え若い女子が客層の大半を占めるため、何とも華やかないい香りが漂っていた。


「いらっしゃいませ……ご贈答用の石鹸をお探しでしょうか?」

 店奥のレジの女の子のところへ行くと、贈り物用の石鹸を購入に来た客と間違えられたようで、かわいらしい女性店員がレジから出て贈答用品の詰め合わせの箱が置いてある方へと歩き出した。


「いや……畿東国の王都から来たものだが……この手紙を預かって来た。」

「はあ……店長あてですね?失礼いたしました。少々お待ちください。」

 女の子は手紙を手に、すぐさまレジ奥のドアから中へと引っ込んでいった。


(手紙を託されて助かったな……さすがにこんな雰囲気じゃあ、白い粉だの密売だのなんて言う言葉自体、口に出すのもはばかれるからな……右を見ても左を見てもきゃぴきゃぴのギャルたちばかりだ……。)


「どうぞこちらへ……。」

 先ほどの女の子がレジ奥のドアから出てきて、中へと導いてくれる。


「この通路をまっすぐ行った先の階段を下りて行ってください。」

(なんと……地下か?)


 女の子に言われた通り通路をまっすぐ行くと、右手には店員たちの休憩所であろう、4人掛けのテーブルが2つ置かれた部屋があり、テーブルの上にはポットと湯飲みがお盆の上に置かれていた。さらに奥へと行くとどんつきにドアがって、開けるとその先は階段があった。


 倉庫と矢印表示がある下り階段を降りて行くと、地下1階のドアの前には一人の若者が立っていた。


「畿東国の首領からの手紙を持ってきたのはお兄さんか?中へどうぞ。」


 着流し風に胸をはだけて着物を着た若者は、ドアを開けて逸樹を中へと導いた。 地下室は20畳ほどの広さで、数人の男たちが応接セットの向こう側のテーブル席に腰かけていて、奥の大きな黒光りする机の向こう側には初老の男が腰かけていて、3人の若い男がその背後で立番をしていた。


「おおわざわざ遠いところを御足労頂き、ありがとうございます。えーと……殺し部門の逸樹殿……でしたかな?今回捕まった元締めたちの救出を手伝っていただけるそうで……お手数をおかけいたします。

 私は元締め代行の喜八と申します。ささっ……どうぞこちらへ……」


 奥の机に腰かけていた男が立ち上がり、元締め代行と名のった。総元締めたちが捕まったため厳重警戒しているのであろう、背後の護衛の男たちは厳しい表情で逸樹を睨みつけているようだ。

 元締め代行の男に促され、応接用のソファに腰かける。


「総元締めたちを捕まえた冒険者の素性は割れております。警察署の拘置所ではなく、どこか別の場所に拘留しているようでして……場所がわからないものですから手が出せない状態でして……何とかお助けください。」

 元締め代行の男が腰を浮かせて、頭を下げる。


「ああ……尾行はお手の物だから……お役に立てるとは思っている。」


「そうですか……では……さっそく明日からお願いいたします。本日の宿は手配いたしましたから、そちらへ……では……よろしくお願いいたします。おいっ……ご案内しろ!」


「へいっ!」

 テーブル席に座っていた若い男が3人ほど立ち上がり、部屋を出て行こうとするので一緒に部屋を出て行く。


 階段を上がって地上に出ると、すぐ左手の休憩所の奥のドアから直接表へ出て行き、市場を出た大通りに面した旅館へ案内された。


「荷物を置いたら、食事に向かいましょう。」

 旅館で受け付けを済ませ、部屋へ荷物を置いたら男たちとともに大通りを市場の中へ歩いていく。更に市場の中央道路から裏通りへ向かうと、そこはうどん屋や定食屋などが建ち並ぶ飲食店街だった。


「こちらへ……。」

 案内されたのは割烹と書かれた提灯が下がっている、長い塀に囲まれたお屋敷然とした建物だった。塀の中は松や銀杏が茂っていて、砂利を敷き詰めた庭園を抜けた先の母屋は、茅葺の風情がある建物だった。


「ようこそおいでくださいました。」

 母屋の玄関を入ると女中たちが三つ指をついて出迎えてくれ、彼女らに案内されて長い廊下を歩いて行った先のお座敷へ通された。


「おお……お待ちしておりました。ささっ……どうぞこちらへ……。」

 障子を開けた先の畳部屋にはすでに先ほど出会った元締め代行が大きな座布団の上に座っていて、豪華な金屏風手前の膳には刺身や煮物などの料理のほかに、お銚子が何本も用意されていた。


(ほお……こりゃあ接待だ……な……)


「今……きれいどころを呼びますでね……おーい……。」

 元締め代行は手を叩いて女中を呼び寄せようとする。


「いや……お心づかいは大変ありがたいのだが……明日は朝早くから、ジャックとかいう冒険者の後を尾行しなければならんのだろう?」


「はあ……まあ……ずっと動向を探っておったのですが、夜明けから彼らは動き出すようですな。用心深い奴らでして……うちの連中などはすぐにまかれてしまい、どうにも拘束場所が突き止められないでいたのです。ですから……尾行のプロである逸樹殿は……まさに救世主……ほんにありがたい……。」


 元締め代行は障子戸の前で立ったままの逸樹のもとににじり寄ってきて、膝立ちの状態で逸樹の両手を掴み、おでこをつけて拝み始めた。


「そうであれば、このような接待はご無用……折角用意して頂いたので申し訳ないが食事だけ頂いて、本日はお暇させていただきたい、明日に差し支えるのでね……。」


(えー……なんだよう……かわいい芸者さんや舞妓さんを侍らせて、どんちゃんやりたくはないのか?)

(やりたくもない!)

(はあー……お堅い……)


「ええっ……でも……この店のナンバーワンの子は……それはもうかわいらしい……せめて顔を見るだけでも……きっと逸樹殿のお眼鏡にかなうと思っておりますよ。」

 それでも元締め代行は、あきらめない。


「顔だけ出してもらってそのまま帰すのは、かえって失礼だろう?長旅で疲れているし、申し訳ないが勘弁していただけぬか?」


「はあ……お疲れなのであれば……懇親会は……総元締めたちを救出してからにいたしましょう。確かにそのほうがより盛大に大人数で行えますものね……。」

 しぶしぶ元締め代行が納得し、お膳に盛られた豪華な料理を平らげて、酒は飲まずに料亭を後にした。



「おはようございます。本日はよろしくお願いいたします。」

 翌朝、夜明け前から準備して、旅館のロビーで待っていると、着流し姿の5人の若者たちがやって来た。昨日石鹸屋の地下で、テーブル席に座っていた連中だ。


「ああ……その恰好で行くのかい?」

 前をはだけた着物に雪駄履きの男たちは、やせた体をしていて、着物の襟もとから鎖骨ばかりかあばらまで見えている。手荷物と言えば、首から下げた日本手ぬぐいと腹に巻いたさらしに刺した短刀のみ……。


 対する逸樹はと言うと……作務衣姿に浅い編み笠を被り、足は地下足袋と言う旅支度をして、携帯食と水が入った竹筒を入れたリュックを背負い、更に武器や装備を入れた冒険者の袋を腰に下げている。


「へえ……どうせ馬車で追跡するだけですから……問題ありませんよ……。」

 男たちは平然と答えた。


(昨日元締め代行が、すぐにまかれてしまうと言っていた意味が分かったな……これじゃあ、尾行なんて無理だろ……?)

(ああ……参ったな……)


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