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リモート  作者: 飛鳥 友
第4章 今回は孤独な殺し屋……はたして彼は死地を乗り越えることが出来るのか?
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麻薬精製工場摘発

22.麻薬精製工場摘発

「こ……これは何事だ?」

 翌日の午前10時ころ、あまり早い時間だと迷惑と考え工場の始業朝礼が終わってひと段落する時間を見計らってやってきてみたら、工場の正門前には規制線が張られていて、何十人もの警官隊が出入りしていた。


「ここは石鹸工場に偽装した、麻薬の精製工場だったようだ。昨晩秘密裏に捜索が行われて総元締めが捕まり、今朝がた警察本隊が乗り出して、大捜索が行われていると先ほど街頭テレビのニュースでやっていたよ。

 うちの近所だから、ついでに見に来てみたんだ。」


 規制線のすぐ外側で工場内を眺めていた、野次馬親父が聞いてもいないのに教えてくれた。


(ありゃりゃ……そうか……ここがバレるのは、もう少し先だと思っていたんだがな……)

(なんだって?じゃあ、お前は知っていたのか?ここに警察の手入れが入ることを……)


(ああ……以前占った時に、警察の捜査が及ぶ情景が見えるって言っていただろ?それがこの工場だって昨日来た時にわかった。それと国会議事堂関連の建物で……そっちは多分黒幕がらみだろう。


 占いだから正確な日時までは分からないものでね……春先の出来事と思っていて、もう少し余裕があるものと考えていたんだが失敗した。だが、それでもガトリング銃の細工が間に合ってよかった。あんな強力な武器が使えていたら、警察部隊もかなり手こずったんじゃあないかな……。


 おかげであっさり捕まっただろ?わざわざ手にかけて始末つけなくて済んだから、良かったじゃないか。)


(ふん……だが……おかげで黒幕の正体も判らずじまいだ。)


(麻薬密売の総元締めが捕まったんだから、黒幕も恐らく一緒に捕まっているんじゃあないかな……宿へ戻って、テレビのニュースを見てみようぜ。工場内の組織のものを全員始末してから帰るつもりでいたから、宿は引き払わないでいただろ?ある意味正解だ……これからの作戦を立てようぜ。)

 急いで宿へ向かい、食堂のテレビをつける。


『こちら国会近くの、閣僚官舎です。昨夜の隠密捜査で石鹸工場に偽装した麻薬精製工場が摘発され、畿南国の麻薬密売の総元締めが逮捕されるに至りました。工場は今朝がたから警察による一斉捜査が行われ、組織関係者が次々と逮捕されております。


 更に連邦内にはびこる麻薬密売組織の黒幕ともいえる、浅羽右大臣の関与が浮かび上がりました。大臣は連邦警察の任意同行に応じ、取り調べを受けている模様です。半年前の人買い組織摘発による児童福祉担当大臣逮捕に継ぐ内閣の不祥事となり、現政権の維持が危ぶまれております。』


 テレビには大きなお屋敷然とした閣僚官舎が映し出され、門扉にはすでに規制線が張られ出入りが制限されている様子が映し出されていた。右大臣の官舎であろう、すでに大臣は連行されている様子で、大臣を護送する馬車の様子が繰り返しビデオで流されているようだ。


(ほら……やはり黒幕だった右大臣も逮捕されただろ?これで組織は弱体化するんじゃあないかな……だが油断は禁物だ。まだ秘技を使う凄腕の殺し屋が残っているからな……。)


(そうだな……だが大臣が逮捕されてしまったから、新八の居所はますますわからなくなってしまった。)


(恐らく裁判が始まるときが焦点だろうな……今回逮捕した麻薬密売の総元締めたちが証人として法廷へ出廷させられるだろう。本当に右大臣が黒幕として、直接指示を出していたのかどうか……を証明しなければ大臣を罪に問うことは出来ない。この世界でもあるんだろ?秘書が勝手にやったことです……みたいな。)


(そうなると証人の護送時が一番危ないな。証人の護送に同行するとしようか……)


(恐らく証人の護送は、誰にも知らせずに秘密裏に行われるんじゃあないかな……お前が関与できるくらいだったら護送日時やルートが組織側にも漏れて、そこを大人数で襲われる可能性が高いからな。

 だから護送への同行は困難と考えたほうがいい。)


(じゃあ、どうすればいい?証人たちの身に何かあったら、右大臣を罪に問えなくなるかもしれないのだろ?)


(その辺を占ってみるか……道具は持ってきてるだろ?)

(ああ……)

(じゃあ早速……)


 すぐに部屋に戻って旅行鞄から水晶球や香炉を取り出し、テーブルの上に置いて瞑想を開始する。


(こ……これは……王立裁判所の看板が見えるから、王都だろうな……裁判所のすぐ左わきの細い路地……そこで大型の馬車が襲われているようだ。馬車には証人たちとそれを護衛する冒険者が乗車していて……ううむ……御者は買収されていたのか……路地で逃げだしてしまい立ち往生した客車に火矢を浴びせられる。


 待ち伏せ……だな……だが窮地に陥った瞬間……救いの手が差し伸べられると出ている……それは逸樹ではないようだ……)


(ほお……だったら、何もしなくても大丈夫そうだな……)


(いや……そうとも限らんぞ……お前が関与しなければ、その救いの手が加わっても証人たちに逃げられてしまう可能性だってあるからな。あくまでも、救いの手によって全滅は免れると見えているだけだ。

 証人を確実に保護するには、その場に行ってお前も一緒になって助けたほうがいいだろう。)


(分った……それはいつのことだ?)


(分らんが……今日明日と言うことはないはずだ。証人となるであろう総元締めだって昨夜捕まったばかりだろ?どうやら裁判が始まる前日当たりのようだから、テレビのニュースを見ていて、裁判がいつから行われるか注意していればいいのじゃないか?)


(分った……)


(畿南国は人買い組織も元締めが逮捕された場所だし、ここはもういいだろう。畿東国へ戻って、麻薬密売の元締めのこけし工場を摘発させようぜ。それからついでに畿東国の人買い組織も調べて、そっちも摘発させよう。)


(そうだな……組織の壊滅が最終目標だからな……)


 急ぎ宿を引き払い、3日かけて畿東国王都へ到着。すぐにこけし工場へ向かった。


「ほお……うどんですか……しかもこんなに沢山……。」

 段ボール箱ひと箱分の乾燥うどんを見て、ひげ面の老人は目を白黒させる。土産として馬車のターミナルで売っていた、高松町特産のうどんを箱買いしてきたのだ。


「以前ずいぶんとお世話になったものでね……その礼として……おかげで畿南国の支部では、うちに殺しの依頼をかけていないことが確認できた。その他の関係部署を確認しようと、住所を教えてもらおうとしていたところを、畿南国の冒険者によって工場が摘発されてしまったがね……1日遅かったよ……。


 まあ……下手に工場に残っていなくて良かったとほっとしている……こっち迄巻き添え食って捕まってしまうところだったからね……危ないところだった。


 この工場には20人ほどの組織のものがいると伺っていたから、その全員分の土産を買って来た。本日は全員御揃いかね?」


「はあ……麻薬精製工場である畿南国支部が摘発され、こちらも焦って招集をかけて臨戦態勢と言ったところです。まあでも……ここはさほど目をつけられておりませんから、まだ大丈夫ではないかと考えております。畿南国ではどうやら小売りの密売人から辿って行って、精製工場まで摘発されたと聞いております。


 それを少人数の冒険者がたったの一晩だけで行ったという手際の良さにも驚きましたが、口が堅いはずの組織員たちをどうやって懐柔したのか……その辺りが謎ですな……総元締め含め捕らえられた主だったものたちは、警察の留置所には預けられず、極秘の隠れ家で保護していると伝わってきております。


 ですからこちらから弁護士を送り込んで、どんな違法な取り調べが行われたのか……拷問でもしでかしていたなら告発して、すぐに証人たちを釈放させるはずなのですがそれも叶わず……参っております。


 どうにか関与した冒険者の素性だけ……こちらの子飼いの冒険者たちを辿って掴んだところです。まあでも……裁判までには何とか巻き返しますよ。元々は独立した別組織ですからね……向こうがやられたところで、こちらは痛くもかゆくもありません。大陸からの密輸ルートも作り直せばいいですから……ね。


 わざわざご丁寧に……土産物は部下たちに有難く配らせていただきます。」

 ひげ面の元締めは、さほど落胆してはいない様子で笑顔を見せた。


(ふうむ……組織への打撃はさほどでもないのかな?それともカラ元気か?だがまあ下手に摘発に関与しようとしないでよかったな……摘発した冒険者たちの素性は既に割れているようだからな。)


(カラ元気かどうかは分らんが……やはり証人たちを消してしまうつもりなのだろう。勿論摘発した冒険者も含めてな。聞いた限りでは、元は別組織が連邦一の組織となるためにくっついただけのようだからな……こちらだけでもやっていけるつもりなのだろうな。


 あとは右大臣を脱獄させるとか……だな。その自信があるということなのだろうな……。)


(そういえば……麻薬密売の首領は、王都にいると言っていただろ?そいつの居場所を聞いておいたほうが良くないか?)


「畿南国の石鹸工場で長瀬と言う総元締めから聞いたのだが、麻薬密売の首領は畿東国の王都にいるようだ。その首領から直接殺し部門の方に依頼がされているということはないかね?ちょっと気になったもので……悪いが確認できないか?」


「ああ……その点なら問題ありません……極秘にしておりますが、実を申し上げますと首領は兄なのですよ。兄は……こけし職人も兼ねておりまして、今日も工場で旋盤を回しております。まあ……趣味的なものですね。


 ですから、兄から直接殺し部門の方に依頼が行くことはございません……ご安心を……」

 ひげ面の元締めは、組織の人脈をあっけらかんと答えた。


(はあ……兄弟で麻薬密売組織を運営していやがった……右大臣は父ちゃんか?本当に……この国はどうなっているんだ?)


(まあ、そう嘆くな……俺としてもあまり人のことをとやかく言えるような、人生は送ってきていない……。)

(どうする?ここで拘束しておくか?)


(そうだな……だが今ここで捕まえたとしても、裁判がいつ行われるのか……凄腕の殺し屋が健在なわけだろ?こいつらを拘置所に置いておけないだろ?こいつらだって黒幕の証人として使えるわけだから、殺されちまうかもしれない。裁判が始まる直前にしたほうがいいと思う。)


(分った……それまでどうしていようか……)


(まさか黒幕の護衛はどうしたとかは聞けないだろうし……畿南国では人買い組織も検挙されたが、畿東国では健在かもしれないぞ。人買い組織のことを聞いてみたらどうだ?叩いておいた方がいいだろ?)


「じゃあ、世話になったね……土産のうどんは箱ごと置いていくから、後で職人たちに配ってくれ。


 それはそうと……畿東国の人買い部門は支部がどこにあるか分かるかい?半年前に黒幕が検挙されて、すでに潰れてしまったのかな?麻薬密売部門の停滞案件の確認は終わったが、人買い部門がまだだった。

 後で苦情を申し立てられては敵わんからね……」


「はあ……人買い部門……ですか……他組織のことは……少々お待ちください。首領である兄に確認してみましょう。」


「ああそれなら一緒に行こう……下の工場で作業して見えるのだろ?」

 立ち上がった元締めに続いて、逸樹もソファから立ち上がって歩き出した。



「兄さん……この間話した、殺し部門のナンバー2の方だ。麻薬密売部門からの殺しの依頼の停滞を確認に来ていたんだが、引き続いて人買い部門も確認したいそうだ。

 畿東国内の人買い部門は、まだ機能しているのかい?」


「おお……逸樹殿じゃったかね?ご苦労様。」


 元締めである弟から呼びかけられ、こけし職人の首領は、弟同様真っ白な顎髭と口髭を蓄えていて、旋盤に巻き込まれないよう顎髭はシャツの中に入れて作業しているようで、逸樹のことを目だけで会釈した。


「うん?人買い部門の支部の場所だって?いくら組織の人間とは言え、他部門の人間に組織の支部の場所など簡単に教えるわけにはいかないな……。」


「そうは言っても事情が事情だから……殺しの依頼をかけて停滞している案件がないかの確認だけでも……」


「ああ……だから畿南国の麻薬精製工場の場所を教えちまったんだろ?おかげで警察の手入れが入っちまって、麻薬密売部門はガタガタだ……。」


「いやいや……それは違うよ。工場が摘発されたのは、畿南国の冒険者が小売りの密売人から順に辿って行って、なんと一晩で精製工場までたどり着いたらしい。口の堅い連中からどうやって情報を引き出したのか未だに分かっていないが、もともと俺たちと対立していた組織の連中だ。


 手下どもの教育がなっていなかっただけだと、俺は思っているけどな……しかもジャックと美都夫っていうたったの2人の冒険者にしてやられたというのだから、まあ……お粗末なことだ。


 丁度タイミングよく逸樹殿が畿南国を訪れていたのだが全くの無関係で、危うく巻き添えを食うところを助かったと言っていたところだ。まあ……逸樹殿が一緒の時であったら、どんな腕利きの冒険者たちでも速攻で倒せただろうけれどね……奴らに運がなかったんだろうな。」


「それでも大した親しい関係があるわけでもないのに、同じ組織のものと言うだけで他部門のことなど簡単に教えたことが分かったら、俺たちが反逆者扱いされることになっちまう。ダメだ……。」


 どうやら逸樹が出向いたタイミングで畿南国の麻薬精製工場が摘発されたことで、逸樹のことが疑われている様子だ。土産の効果あってか元締めである弟が説得してくれているようだが、頑としていうことを聞いてくれない。


「そうは言っても……殺し部門はトップの2人が亡くなって組織が大変な状態だというのに、他部門に迷惑をかけられないからと、停滞案件がないかと連邦中を回ってらっしゃるんだ。助けてやろうぜ。」


「仕方がないな……だが、教えるには条件がある。」

「条件?」

 髭面の首領は旋盤の回転を止めて、逸樹の方へと向き直った。


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