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リモート  作者: 飛鳥 友
第4章 今回は孤独な殺し屋……はたして彼は死地を乗り越えることが出来るのか?
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畿南国支部

21.畿南国支部

「あっとそうだ……麻薬の精製工場は、表向きはちゃんとした石鹸工場ですからね。工場受付の守衛などは一般の人で組織の人間ではありません。


 ですから組織の者が伺った場合に取り次いでもらうための合言葉が決まっておりますので、間違えないでください。受付で白い粉がどうのなんて言い出そうものなら、すぐ警察を呼ばれてしまいますからね。えーと……昼間時間の場合は……到着が夜になった場合は……一字一句言葉を間違えないでくださいね。


 警察の内偵捜査や対立組織の殴り込み対策で、少し言葉を変えた合言葉をわざと教えることもありますからね。いくら熟練の暗殺技を持っていようとも、新兵器で狙われたらハチの巣ですよ。」

 更に受付で組織のものを呼び出すための、合言葉まで教えてくれた。


「ありがとう……世話になった……それはそうと……この支部は何人で構成されているのかい?」


「えっ……はあ……こけしの製作を行うものはただの一般の職人でして……出来上がったこけしの中をくりぬいたりする職人からですから……組織の人間は配達員込みで20人ほどです。では、お気をつけて。」


「そうか、じゃあ畿南国の石鹸工場へ立ち寄った帰りに、菓子折りでも持って礼に伺うよ。じゃあな。」

 元締めは質問の意味が分からなかったが、それでも答え、逸樹を送り出した。


(変装もせずにどうするのだろうと思っていたが、堂々と名のることで組織の情報が聞き出せたな……それで、どうするんだ?この支部は潰さなくてもいいのか?)


(ああ……まずは畿南国の石鹸工場とやらからだ。ここが潰れた連絡が入れば、向こうが警戒するだろうからな。支部の中身と構成員迄つかむことが出来たから、ここは後回しでいいさ。)

 髭面の元締めに礼を言ってから、こけし工場を後にした。



「タコの……?」

「はっつぁん……イカの……?」

「とおちゃん。」


 王都から直通の駅馬車をつかい、3日かけて畿南国高松町へやって来た。馬車ターミナルで石鹸工場への行き方を聞いたところ、歩いてもさほど遠くない1ブロック先にあった。


 高い塀に囲まれた大きな建物は、昼間は従業員や配送の馬車の往来がある為か、大きな鉄製の格子で組まれた門扉は解放され、門の中にある守衛所で聞いて来た昼間用の合言葉を使ってみる。


「ご苦労様です。ご案内先は、この正面の大きな建物の裏手にある通用口から入って、すぐ右の部屋になります。部屋の外で、大きな声でお名前とご用件を仰ってください。これが通行証です。工場内を歩き回る際は常に首から下げていてください、身分証がないと不審者に間違えられて、警備員が飛んできますからね。」

 合言葉が通じたのか、守衛は赤文字で来客と書かれたカード式の通行証を手渡してくれた。


 案内された通りに、2階建て以上の高さはありそうな正面の大きな工場を迂回して裏へ回り、すぐ見えた通用口と書かれた扉を開け中に入る。中は長い通路になっていて、すぐ右手にドアがあった。


「蝦夷国から来た、逸樹だ。うちの部門のトップが突然亡くなってしまったので、依頼済みの仕事がなかったか、御用聞きに回っている。」


 通路中に響き渡るような大声で、ドアの向こう側に向かって声をかける。

 ドアの向こう側で人が動く気配がしたのち、ドアノブがゆっくりと回ってドアが開いた。


「おおこれはこれは……逸樹殿……お噂は聞いておりますぞ。この度は突然の訃報に、我々も驚いているところです。なんと首領の親父殿と息子の道三殿迄……事故か何かでしょうか?」


 出迎えてくれた白髪交じりの初老の男が、神妙な顔で会釈する。紺色の紋付を羽織り、威厳のある風格を醸し出している。


「いや……二人が亡くなった時の状況など、詳しいことは俺にもわかっていない。部門を束ねる2人が亡くなって請け負っていた仕事が全てわからなくなってしまい、組織に迷惑をかけることは出来ないと、俺が連邦中の支部を回って、依頼中の仕事がなかったか確認している最中だ。


 まずはやり残した仕事を片付けてから、弔いなど行う予定でいる。」

 逸樹が工場へやって来た、いい訳を説明する。


「はあそうでしたか……それはそれはわざわざご苦労様です。ささっ……どうぞこちらへ。私は総元締めを務めている長瀬と申します。こう見えても、この地域では名士で通っております。」

 長瀬は逸樹を応接用のソファへ導き、少し笑みを見せた。


(ちいっ……苗字を名乗るところから、名士どころか貴族か高級役人だろうな。そんな奴が麻薬密売の、総元締めなわけか……警察がどれだけ必死に捜査しても、捕まらないわけだ。捜査情報など筒抜けだろうからな。)


「長瀬殿は畿南国の麻薬密売の総元締めと言うことで、よろしいでしょうかな?」


「はあ……大陸から密輸された麻薬の精製をこの工場で行って、連邦中へ配送しておりますから、畿南国だけではなく、麻薬密売に限っては日ノ本連邦の総元締めと言ったところでしょうな。


 麻薬密売組織を束ねる首領は、畿東国の王都に居ますがね……元はうちの商売仇だったところです。

 今は互いに歩み寄って、共同で連邦中を束ねていると言ったところですな。」

 長瀬も逸樹の向かい側のソファに腰を沈めながら、答えた。


(ほお……もともとは対立組織だったわけか。それが協力し合って連邦中にはびこる巨大組織となったと言う訳だな!もしかすると麻薬密売組織が、発端なのかもしれないな。)


「それでその……先ほども申し上げたが、暗殺部門のトップが2人とも急死してしまい、請け負った仕事が分からなくなってしまった。ここ、畿南国の麻薬密売部門から急ぎの案件など、依頼して滞っていることはないだろうか?出来れば、人買い部門にも確認いただけるとありがたい。」


「はあ……畿南国がらみでは恐らくないはずですね。人買い部門も含めて……。


 人買い部門は黒幕迄逮捕されて刑務所送りとなりましたからね、今では潰滅状態で組織として機能しておりませんから、依頼するような案件すら存在しないでしょう。


 麻薬密売部門に関しましては、半年前にお願いした、首都で台頭しかけてきた半ぐれ集団のボスの暗殺でして、これに関しましては5ヶ月ほど前に完遂報告がなされております。おかげさまで麻薬密売部門に関しましては、盤石の態勢を保っております。」


 長瀬はソファの背もたれに体重を預け、聞かれたことを思い出すように天井を見上げながら答えた。


(ほお……殺し部門も、5ヶ月前まで機能していたようだな……道三や親父殿が半年前に殺されていたというのに……)


(殺し部門も大きいからな……特に対立組織のトップの暗殺の場合は、やすやすと近づけないから大抵の場合は組織にもぐりこんで、信用を築いてトップに近づけるようになって初めて遂げられる。だから潜入期間内であれば、親父殿たちが殺されたことは知らなかっただろうな。)


(なるほど……)


「ご依頼案件が既に完遂していたことを聞けて、安心いたしました。畿東国でも同様の確認をして、停滞案件がないことは確認済みなので、残るは畿西国だけだが……畿西国の麻薬密売組織はさほど大きくはないから、畿南国だけの確認でいいだろうとも聞いたのだが……いかがだろうか?」


「ああ……そうでしょうな……畿西国は麻薬密売に関しても人買いに関しても……凶悪犯罪の取り締まりが厳しくて、組織を大きくできないのです。ある程度組織として形を成す体勢になった途端に、手入れが入ります。

あの国は、王である畿西公が凶悪犯罪撲滅に力を入れておりますから、もう10年以上そんな状況です。


 その為、個々の出張所のような形で、総元締めは置かずに中間の元締めと売り子たちがいる小さなアジトがいくつかある程度でしてね……小さい組織なら摘発を受けても、すぐに立て直せますからね。


 仮に対抗組織が出来たとしても、うちを通じて粛清などの依頼をかけることになります。ですから、そちらに関しては確認は不要と考えます。」


「そうなると、これで請負仕事の確認は終了と言うことになるな……他組織のことなど全く知らぬもので……行き当たりばったりでめぼしい店に飛び込んでは、それらしいことをつぶやいて反応を見ると言った方法で組織かどうか見極めていたため、組織の末端へたどり着くまでにも半年かかってしまった。


 それでも停滞案件がなかったことは幸い……今後、誰が殺し部門の首領になるかわからぬが、今後ともよろしく……では、これで……ああ、そうだった……麻薬密売組織の方の黒幕は、まだ存在するのでしたな……そちらの方から殺しの依頼が出ていることはないだろうか……その際は、お宅を通じて行われるのだろうか?」

 わざとらしくないように帰り際に思い出した風を装い、目的の黒幕に関して問いかけてみる。


「はあ……麻薬密売部門の黒幕は畿東国の王都にいますからね……仮に殺しの依頼を出すとしても、首領がいる畿東国の組織を通じて行われるはずです。畿東国での確認が済んでいるのであれば、問題ないでしょう。」

 長瀬は少し考えてから、問題ないだろうと答えた。


(ありゃりゃ……黒幕の正体を明かすのは、どちらの支部も遠慮しているようだな。互いに押し付け合っているようだ。事情が事情だけに答えなければいけないけど明かせない……それだけ黒幕の正体は、厳格に極秘扱いなのだろうかな……それとも……畿東国にこけし工場以外に本部があるということなのか?)


「そうですか……ですが今回は畿東国の麻薬密売部門の元締めに確認しただけですのでね。念のためにだが……王都にいる首領殿の館の場所はお教え願えるか?あくまでも念のために黒幕の所在に関しても一緒に……場所さえわかれば、どうせ蝦夷国まで戻る帰り道故、さほどの手間ではないから、もう一度確認をしておきたい。


 確認漏れがあっては困るのでね。」

 すかさず首領と黒幕の居場所を尋ねてみる。


「はあ……そうですか……首領の居所に関しては、畿東国の元締めに確認するのが一番でしょうが、こちらでも住所は調べられます。ですがその……緊急のがさ入れがあると困るので、工場には組織関係の書類は一切置いていないのです。住所録なども全て銀行の貸金庫に妻名義で預けているのです。


 いかがでしょうか、後で電話して妻に書類の確認をさせておきますから、明日にでももう一度おいで願えませんか?その時に住所を書いたメモをお渡しいたします。私が不在になる場合は、守衛所に預けておきますから、都合の良い時間に取りに来ていただければよろしいです。」


 長瀬は少し戸惑いながらも、それでも明日になれば住所を教えることが出来ると答えた。


(かなり用心深いな……組織の他の支部に関する書類は置かないというのか……すごいな。組織間の電話連絡は盗聴の恐れがあるから決してしないと言っていたから、恐らく家に電話するにしても、外の喫茶店か何かを使うのだろう。確かにこの部屋に、電話が置いていないものな……)


(ああ……電話連絡しなくなった理由に……心当たりがないことはないけれどな……それよりも首領の名前くらい、聞いておいた方がいいんじゃないか?)


(いや……今ここでしつこく名前を聞こうとして、怪しまれても困る。明日住所を聞けるのであれば、それで名前も分かるから問題ない訳だろ?)


(それもそうだな……そう言えば……お前……武器に詳しいか?)

(ああ……剣にナイフ、クナイに弓矢、槍や手斧に至るまで、あらゆる武器に精通はしている。親父殿に叩き込まれたからな。)


(銃とかはどうだ?)

(拳銃から大砲迄、一通り原理や仕組みも習ったぞ。)

(だったら、ガトリング銃と言うか連発銃に関しても分かるか?)

(どういうことだ?)


(ソファの向こう側の大きなデスクの脇に、白い布をかけている塊があるだろ?あれは恐らくガトリング銃だ。

 こけし工場で合言葉を間違えると、ハチの巣にされると言っていただろ?見てすぐにピンときた。それの整備をしてやるふりをして、信用を勝ち取っておくのはどうだ?)


(確かに昨今各支部では、護身用に強力な銃など用意するところが増えたとは聞くが……ふうむ……)


「了解した……では明日……それはそうと……これは何でしょうかな?銅像ですか?」

 逸樹は立ち上がって、さりげなく奥のデスクの方へ歩き出す。


「ああそれは……連発銃ですな。先ほど申しましたように、以前は畿東国の連中と対立関係にありましてね。


 互いのアジトへ殴り込みをかけるなどしょっちゅうでしたから、ここでも護身用に準備していたものです。

 両方の組織から殺しの依頼を受けていた、殺しの斡旋業者をしていた親父殿が2つの組織を回って、手打ちへ導いてくれてからは静かなもので……実を言いますと一度も使ったことがないのです。今では動くかどうかすら怪しい……」


「ほお……どれどれ……ちょっと整備してみましょうか?」

「ええっ……銃にお詳しいのでしょうか?」


「まあ……様々な武器に精通するよう教育を受けておりますからね……簡単な整備位なら……」

 そう言いながら逸樹は布を取り外し、黒光りする巨大な銃身を露わにした。


「ほお……油切れはしていないようですね……。」

 そう言いながら、摺動部の動きを手で触りながら確認し始める。


「いやあ……これはありがたい……専用工具は銃の下に置いたままのはずですし、油さしも一緒に置いてあるはずです。よろしくお願いいたします。」

 そう言い残して、長瀬は早足で部屋を出て行った。


(いくら俺でも、完全に解体することは無理だぞ。)

(そこまでする必要性はない、簡単に動きの確認して油をさして……それでその……空砲はあるか?)

(空砲?何に使う?)


(銃の弾を空砲に差し替えるんだよ!いずれここは始末するんだろ?黒幕が先かもしれんがね。警察に場所を密告して捕まえてもらうにしても、こんな強力な武器をそのままにはしておけないだろ?)


(ああそうか……この銃は本当に使ったことがない様子だな。組み立て前に各部品に油をさしてあるから錆てもいないし、熱変形や油切れもしていない。埃を払って摺動部分に油をさす程度で十分だろう。

 納品時の儀式用に使う空砲の箱もそのままあるようだから、マガジンの中身を取り換えてしまえばOKだ。)


 すぐにマガジンに詰めてある実弾と空砲を詰め替え、空砲の箱に実弾を入れておく。そうして摺動部分には油をさして置いた。


「どうですか?まだ使えるようですか?」

 しばらくして戻ってきた長瀬が、銃身を磨いている逸樹に問いかけてきた。


「ああ……保存状態は極めて良好で全く問題ない。いつでも使えるようマガジンも装填しておいた。」


「そうですか……これはつまらないものですが……銃の整備のお礼も兼ねまして……蛮国のはるか向こうの西欧のお酒……ワインという軽い飲み物と、ウイスキーと言う強い飲み物の両方……お好みがわからないためお持ちいたしました。お荷物となってしまいますが、お手提げ願います。」


 そう言いながら、数本の瓶が入った紙袋を手渡してきた。居なくなったのは、これを持ってくるためなのだろう。


「えっ……いや……礼など無用……大したことはしていないから……」

「そうはおっしゃらずに……」


(もらっておけよ……。)

「…………ありがとうございます……では明日また……。」

 大きな紙袋を下げて、石鹸工場を後にした。


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