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リモート  作者: 飛鳥 友
第4章 今回は孤独な殺し屋……はたして彼は死地を乗り越えることが出来るのか?
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調査開始

20.調査開始

「凶悪犯罪撲滅クエストに参加している冒険者の逸樹だ。大人数で動くと目立つから、単独行動を心がけている。麻薬密売組織に関しての情報が欲しい。」


 3日かけて畿東国王都に到着し、すぐに連邦警察本部へ行って組織の情報収集を始める。冒険者証と、サーティンから受け取った今回クエストへの参加証を呈示したら、すぐに捜査担当者の元へ案内してくれた。


「はあ……お早いお付きのようですね……畿東国では、来月初から活動開始の予定でして……麻薬密売に関しては、連邦中の主要都市に販売拠点がある暁連合が最大規模の組織となりますが、麻薬をどこから入手しているのか、はっきりとしておりません。


 以前は畿西国の大陸との交易路を通じて密輸されることが多かったようですが、荷馬車の積み荷の検分が強化されてからは、そのルートは使われていないようです。大洋を大型貨物船を使って密輸していると考えられ、ここ畿東国王都の港での監視強化に努めておりますが、思うような成果が上がっておりません。


 大陸からの密輸ルートさえ根絶できれば、日ノ本連邦へ麻薬が入ってくることもなくなるのでしょうが……。それでその……現状、我が署をあげて情報収集に努めているところでして……来週には……」

 フライング気味の活動開始に対し、いかつい顔の麻薬取締担当官が顔をしかめる。


「畿東国内の麻薬密売組織の根城で、つかんでいる情報はないのかい?」


「はあ……大手町に、周辺にある市場などの客向けの麻薬密売を行う末端のアジトは掴んでいるのですが、何せガードが固くてその上の元締めなどには全くたどり着けない有様でして……今回の凶悪犯罪撲滅月間でも、何も出てこなければ、このアジトに手入れをするくらいしか、やることがない次第でして……。」

 麻薬取締担当官が、恥ずかしそうに顔を赤らめながら後頭部を掻く。


「そのアジトへ行く地図を貰えるかい?俺は畿東国のものではないから、組織にも顔を知られてはいないだろう。俺がそこへもぐりこんで調べてみるから、手入れに入るのは少し待っていてくれないか?」


(潜入捜査のつもりか?)


(いや……堂々と正面から入り込んでみるさ……俺が親父殿たちを始末したことは、恐らく麻薬密売組織の末端には情報が来ていないだろう。もしかしたら、未だに犯人探しをしているかもしれないしな。


 だから殺し部門が潰滅状態だから他組織のサポートに来たとでも言って、組織に入り込んでみる。

 仮に俺がやった事がすでにばれていたなら、すぐに反応するはずだから、敵の状況も推察できる。そうなったら敵を引き付けて逃げ回ってやるさ。


 畿南国方面へ分かりやすく逃げ込めば、弥恵のいる畿西国へは捜索の手は及ばないはずだ。)


(ううむ……うまくいくといいがな……)

(大丈夫だ……傷も癒えたし、神脚はしっかりと使えるからな、全く問題ない。)


「えっ?そうですか?潜入捜査ですね?危険を伴いますが、大丈夫でしょうか?」

「ああ……構わない。虎穴に入らずんば虎子を得ず……と言うからね。」


「わかりました。潜入捜査で密輸ルートを掴んでいただければ、麻薬の供給を絶つことも可能となりますし、うまく辿って行くことが出来れば一網打尽にすることだって可能となります。もしそうなれば、連邦あげての凶悪犯罪撲滅運動始まって以来の成果となるでしょう。


 よろしくお願いいたします。麻薬密売のアジトへは……現在地がここで……。」

 麻薬取締官が、メモ帳にアジト迄の略地図を書いてくれた。



(ここが、末端の麻薬密売のアジトなのか?ここって……こけし屋じゃないのか?)

(ああそうだな……木を削って人型にした……こけしの製造販売をしている店のようだな。)


 麻薬取締官のメモを頼りに来た先は、市場の外れの方に位置する古びた工場に併設された、郷土品の直販所のようだった。ガラスの引き戸を開けると、20畳ほどの店の中はいくつもの棚で間敷きられ、その棚にはさまざまな大きさのこけしが陳列されていた。


 そうして奥の解放された引き戸の向こうからは、モーターの回転音と乾いた切削音が店の中にまで響き渡り、香ばしい木の香りが漂ってくる。奥が工場となっていて、そこで作られたこけしを直接販売しているのだろう。


「いらっしゃいませ。こけしをご入用でしょうか?ここでは畿東地方伝統のこけしを製造販売しておりますが、そのほかにも日ノ本連邦各地のこけしも販売しております。


 色彩豊かな畿南国のものや、逆に単色で描かれた蝦夷国のものまで、各地の郷土色豊かなものを取り揃えておりますので、必ずやお客様のお好みのものがあると思っております。


 中には畿東国南部地方の、入子こけしと言いまして、大きなこけしの上部を取り外すと中には中くらいのこけしが入っていて、その上部を取り外すとまたまた中にこけしが……と順に外していくと、どこまでもこけしが出てくるという……まあ、無限と言う訳ではありませんが……珍しいものまでございます。


 ごゆっくりと店内ご覧ください。」

 すでに営業時間は始まっていたので店内に入ると、すぐに若い女店員が声をかけてきた。


「ああそうか……せっかく畿東国王都迄来たものだから……この地方独特の珍しいものを買おうと思ってね……だけど、こけしもいいが……もう少し珍しいものがないかね?


 ここへ来れば蛮国の南の国々の調度品や、遥か西にある西欧の珍しい品々が手に入ると聞いて来たのだが……例えば……白い粉状のものとか……お人形のような子供とか……」

 店内には他の客もいるため、目立たないよう小声で告げる。


「はあ……そんなもの売ってましたかね、お人形のようなこけしならございますが……ちょっと待っていてください、店長に聞いてまいります。」

 若い女性店員は少し首をかしげて黙考した後、引き戸の向こうの工場の方へ急ぎ足で向かった。


「お待たせいたしました、店長の田平でございます。外国製の珍しいものをお探しとか……ですがここは、こけしの製造販売店なものでして……。」


 すぐに禿げ上がっておでこがかなり広くなった、初老の赤ら顔の男が出てきて、揉み手をしながらこけしの専門店であると告げる。背の低い小太りの男は伝票整理でもしていたのか、左手の指にはゴムの指サックがついたままだ。


「おやおやそうかい……でもなあ……確かにここへ行けば手に入ると聞いて、はるばる蝦夷国からやって来たんだ。」


「はあ……そうおっしゃられましても……当方といたしましては、何のことをおっしゃられてますものか、とんと……どなたかのご紹介でしたでしょうか?」

 初老の男は何を言っているのかわからないといったふうに首をかしげながら、それでも丁寧に応対してくる。


「ああ……友人の……親父殿から聞いてきて……俺は逸樹というものだ。」

 逸樹は少し上に目線を移し、思い出すかのように考え考え小声で答えた。


「ああっ……そうでしたか……そうそう……ディープなご趣味のお客様向けの、ちょっとした出物があることはあるのですよ。すぐにお見せいたしますから、ちょっと店の奥までご一緒願えますか?」


 それまで腰を折り姿勢を低くしていた店長が、逸樹の言葉に反応した途端に直立姿勢となる。そうしてすぐに踵を返すようにして、店の奥へと歩き出した。


(おいおい……大丈夫か?)

(分らんが……行ってみなけりゃ何も始まらんだろ?行くしかないさ……)

 逸樹が店長の後に続いて、歩き出した。


 天井が高い工場のいくつも並ぶ旋盤やボール盤を超えてなおも奥へ行くと、工場端の壁際に鉄製の階段が設けられていて、見上げると足場を組んだ上に小さな部屋が作られていた。工場内の事務所であろう。

 店長は後ろを振り返ろうともせず、ただひたすら工場内を素通りし、階段を上がって行く。


「元締め……蝦夷国からの客人のようです。恐らく殺し部門からの……。」

 階段を上がった先の木製のドアを開け、店長が中に向かって声をかけた。どうやらこの地域の元締めが、事務所内にいるようだ。


「これはこれは……遠路はるばるご苦労様でした。蝦夷国でのことは聞いておりまずぞ……殺し部門の首領である親父殿が……不慮の事故でお亡くなりになったということで……更にその息子の道三殿までも同時に……向こうは大混乱のご様子と伺っております。


 それで殺し部門の中でも特に腕利きの……逸樹殿のお出まし……と言う訳ですか?


 どういったご用件でしたかね?うちはこのところ……縄張り争いなども起こらず、平穏無事に過ごせておりますので、殺し部門に依頼などかけていないのですが……」


 10畳ほどの広さの部屋の中には応接セットとその奥には黒檀製のデスクが置かれており、そこに腰かけている、白髪であごひげと口ひげまでが白く、顔の半分以上がひげで覆われているような細面の老人が、目を通していた書類から顔を上げて、逸樹に目線を合わせて来た。


(おお……どうやら本当にここが組織に通じているようだな……結構ガードが堅かったが、うまくやれたようだ。それにしても……親父殿のことは事故死……として伝わっているようだな?)


(ああ……他組織のことは何もわからないからな……それとなく匂わせて……親父殿のことを出して名のれば……何とかなるのではないかと考えていたのだが、うまくいった。


 殺し部門の首領が暗殺された……では格好がつかないからだろう。犯人を挙げて始末着けるまでは、事故死としておくのだろうな……助かるよ。)


「ああそうだったか……親父殿と息子の道三の突然の死により……依頼を受けていた内容が、全く分らなくなってしまい、緊急の案件があると大変ということで、各地の組織を回って依頼内容の確認をさせていただこうと、全国を回っている状況だ。この地方から、案件がなかったと聞いてほっとした。


 殺し部門ならいざ知らず、残った連中では他組織のことは何も知らされてはいないから、それらしい場所をしらみつぶしに当たって、他組織の様子を確認して回っているところだ。


 効率が悪く半年たってもほとんど確認できていない……督促が来ていてもおかしくはないのだが……どの組織もうちのことを気遣ってくれているのか、何も言ってこないようなので……。」

 逸樹がそう言って後頭部を恥ずかしそうに掻いて見せる。


「おやおやそうでしたか……組織のナンバー2と評判の高い逸樹殿直々の御用聞きと言う訳ですか……そりゃあ逸樹殿が直に向かえば、仮に依頼が滞っていたとしてもすぐに片づけてしまえますからね。確かにいい確認方法だと考えますよ。


 うちはこけしの製造販売をしている店ですが……カムフラージュではなくて、こけしの中に麻薬を忍ばせて輸送しているのですよ。これもこけしの製造から販売まで、手がけている店の利点ですね。


 意外と人目につきにくいようでして……畿東国内のみならず、畿西国と蝦夷国までの流通分は、うちを通じて卸している次第です。ですが、うちから直接販売するときは、ビニールの小袋に入れて直接なじみの客に販売しております。こけしはあくまでも、安全かつ大量に輸送するための偽装工作のみに使っております。


 小さな店ですから警察の方でも麻薬関係とは分かっているようですが、販売量から末端としてしか見てはいないはずです。もっと上部へ通じるルートを探る為、泳がせておくみたいに考えているのでしょうな。


 禁製品の輸送に関しては、どこの国でも頭を悩ませているところでしてね……その点こけしであれば中をくりぬいているから、分かりにくいということです。」

 ひげ面の老人は、自慢げに机の上に並べてあるこけしを持ち上げ、その腹を指ではじいて見せた。


(こけしの中に……考えたな……)


「じゃあ、畿東国にはもう主だった支部はないのかな?」

「そうですね、後は各都市に小さな密売所がある程度でして……。」


「分ったありがとう。畿東国からは殺しの依頼をしていないことが分かったが、畿西国や畿南国ではどうだったかわかるかい?」


「ああそうですな……ここ畿東国でもうちが分かっているのは、麻薬密売部門だけでしてな……でもまあ人買い部門は半年前に畿南国の総元締めが摘発されて、それがもとで黒幕だった児童福祉大臣まで捕まってしまい、壊滅状態ですからね。他組織との抗争云々など言ってはおれないでしょうな。


 ですからまあ……確認が必要な組織と言えば、麻薬密売部門の畿西国と畿南国それぞれの支部でしょうね。


 大陸からの麻薬密輸ルートは、以前は畿西国の交易路を使ったものが主流でしたが、摘発が厳しくなってからは畿南国西方の海上での受け渡しが主と聞いております。ですから、今では畿南国の支部が連邦中へ卸を行う組織の中枢となりつつあるようで、そちらへ確認に行かれるのがいいと思いますよ。」


「そうだったね、人買い組織は連邦の児童福祉担当大臣が黒幕として支えてくれていたようだが、麻薬密売組織にはそのような黒幕はいないのかい?」


「はあ……いるのでしょうがね……それが誰なのか元締めの私は知りませんし、知っていたところで簡単には明かせませんよ。そんな事気遣うよりも、大陸から密輸される麻薬精製を一手に引き受けている、畿南国の工場で確認したほうがよろしいでしょうな。組織の安全確保のために、護衛につくつもりなんでしょう?


 場所は畿南国高松町の……石鹸工場で精製を行っているのですよ……」

 ひげ面の老人は、親切に高松町の工場までの略地図迄書いてくれた。


「ありがとう、助かるよ。」


「いえいえ……同じ組織の一員として、当然のことですよ。本当なら電話で確認して差し上げたいところですけど、警察関係が盗聴している恐れがありますからね……半年ほど前から麻薬密売部門内では電話連絡は禁止されているのです。支部間の連絡は、専用封筒を用いた書留郵便のみとなっている次第でして……。


 手紙のやり取りをするくらいであれば、直接伺っていただいたほうが早いですし……依頼した結果報告を、待ち望んでいたりしたら、困りますからね……直接お伺いいただいたほうがいいです。」

 ひげ面の老人は、ひげに覆われて所在が分からなくなっていた口を緩ませ、歯を見せた。


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