表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リモート  作者: 飛鳥 友
第3章 またまた超人見知りの少年は、窮地を脱出できるのだろうか……
73/192

報奨金の使い道

31.報奨金の使い道


「なあにこれ……頭巾を被ったままの写真じゃないのよ……鼻と口元を覆っているから、実質目だけ……。

 これが動かぬ証拠だなんて……。」

 5千Gも使って彫師から買い取った写真を覗き込んだ十和が、あきれた顔をする。


「なあに……ないよりましだ……隠しカメラと言っても、受付の後ろ側にカメラが隠してあって、彫師がシャッターを遠隔操作する程度なんだろ?仕方がないさ。それでも2人とも目元は写っているから、本人と比較すれば判らないでもない。」


 ジャックは、それなりに満足げに写真を見つめている。

 馬車が地域の警察署へ到着するとジャックが王宮へ無線連絡し、クエストが完了した。



「おにい……お帰り……クエストはうまくいったんだね?」

 1週間ぶりの我が家……アパートのドアを開けると、双葉が駆け寄って抱き着いて来た。


 クエスト完了後、ジャックや十和が王都観光に誘うのをきっぱりと断り、美都夫は一人駅馬車に乗り4日かけて高松町まで帰って来たのだ。報奨金の半分は百万Gにもなり、一人頭33万G(1万G端数は王都迄の馬車チャーター代と、滞在費など必要経費で消えた)と、当面の生活には十分すぎるほどの蓄えとなった。


「ああ……大成功さ……ジャックも喜んでいたよ。ジャックは旧友に久しぶりに出会ったこともあるようで、王都に1週間ほど滞在してから帰るって言っていた。


 おいらは双葉のことが心配だし、とりわけ観光したい場所もないから、そのまま帰って来たよ。」

 美都夫が旅行鞄からシャツなど、洗い物を取り出しながら答える。


「ええー……せっかく王都まで行ったんだから、観光してきたらよかったのに……買い物とか……ね。」


「双葉は……おいらが観光するよりも、王都でのお土産を期待しているのだろ?大丈夫だ……帰りに西欧の商品を扱っている洋服屋へ行って、ワンピースドレス……冬物と秋物と両方買って来たぞ。


 勿論……留守をお願いした、フミさんへの土産も忘れてはいないさ。」

 美都夫は、真っ赤なワンピースと水色のシャツに白のスカートをカバンから取り出し、更に紋章饅頭や王宮をかたどった置物などをカバンから取り出した。


「うわぁー……かわいい……今度のお出かけに、着て行こうっと……。」

 双葉は嬉しそうに受け取った洋服を体に当てて、何度も姿見に映していた。


「じゃあ、おいらはこれから冒険者組合へ行ってくるから、フミさんが来たら今日までの礼金を渡して、土産も忘れないで渡すようにね。」

 美都夫はお茶も飲まずに忙しそうに立ち上がった。


「えっ、帰って来たばかりでもうクエスト?」


「いや……クエストじゃなくて、重要提案をしてくる。冒険者を続けて行くうえで不安を取り除く、すごく重要な生活に関するものだ。多分みんな賛同してくれると考えているんだ。」


「ふうん……おにいは偉いね。冒険者になってまだ1年なのに、もう重要提案を提出できるんだね?」

「そりゃ……おいらだけの考えじゃない……色々とアドバイスをくれる存在がいるのさ。」


「ふうん……ジャックさんだね?」

「ジャックだけじゃなくて……他にもいるのさ。おいらの……師匠みたいな存在さ……。」

 美都夫は笑顔で、部屋を出て冒険者組合へ向かった。



 ジャックも今回は無償の奉仕活動ではなく、クエストとして引き受けていた。(報奨金が成果によって大きく変わり参加者も大勢であった為、成功報酬の期待は出来ず参加報酬のみと考えクエストとしていたらしい)


 そのため当面クエストの必要性はお互いにないものと思われたが、それでも町へ戻ったら地域貢献クエストを行うと宣言していた。元仲間の遺族への送金を心配している様子で、奉仕活動は休まず続けるようだ。


 美都夫もジャックの考えに賛同し、自分たちのような不幸な境遇の子供たちのために何かできないかと、王都からの帰りの馬車内で心の声と相談し、早くして親を亡くした冒険者の遺児たちへの支援プロジェクトの立ち上げを、冒険者組合へ進言して認められた。


 勿論、今回の報奨金の半分を運営費として美都夫が寄付して、当面の運転資金が確保されたことが大きいと言える。1週間後に帰って来たジャックや十和も賛同してくれて、ジャックは今回報奨金全額を寄付するとまで言いだしたが、それはやり過ぎと説得され美都夫同様に半分の寄付に留めた。


 十和は1万G寄付をして、その他の冒険者たちも、今後のクエスト報奨金の1%を寄付し、遺族への年金の形で支援する方針に賛同してくれた。


 反響は大きく高松町だけでなく連邦全体での支援活動となり、美都夫たちのような不幸な兄妹が今後出てくることはなくなるだろう。幼い子供を抱えた冒険者たちも、安心してダンジョンへ向かうことが出来る体制が整いはじめて来た。


 ショックだったのは、裁判が始まって証人たちの証言が大きな決め手になり、有罪が確定する寸前だったつい先日、右大臣が拘置所から脱獄して行方知れずとなったことだ。それにより裁判は休廷となり、右大臣の罪を明らかにすることは出来なくなってしまった。


 連邦中にはびこる大きな組織であり、畿南国一国だけの人買いや麻薬密売の総元締めを捕まえたぐらいでは、組織の基盤は揺らがないのだろうとジャックも悔しそうにしていた。それでも黒幕であった政府の重鎮が失脚したのは確かであり、彼らには大きな力は残されてはいない。


 今後は畿東国・畿西国・蝦夷国と一国ずつ組織をつぶしていけばいいだけと、ジャックは新たな目標が出来たことに、大いに燃えているようだ。勿論美都夫も、ジャックとともに凶悪犯罪取り締まり活動を続けて行くつもりでいる。平和で皆が安心して暮らせる世の中に、少しでも早くなってくれるよう願いながら。


(あっ、そうだった……王都で本屋さんに寄った時に連邦地図を買ったのを忘れていた……これが日ノ本連合だよ……。)

 美都夫がおもむろにA2大の大きな紙を広げ始める。


(ああ、ありがとう……やはりな……大陸から完全に離れることはなかった、日本列島と言うことか……。)

(えっ?にほん?)

(ああ……いや……なんでもない)



(いかがでしたか?薄幸の幼き兄妹、哀れ行き倒れ……となるはずでしたが……さすが、あなた様が関与すると、幸せな人生が待っていましたね。今回は身体能力は十分すぎるほど備わっておりましたが、神業的な手練の技などなくても、十分活躍できましたよね?ご要望通りの対象であったと満足しております。


 美都夫君の人生へ、乗り移るお気持ちは固まりましたでしょうか?)


(いや……美都夫の人生は美都夫のものだ。俺は彼の代わりにはなれない。)


(どうしてですか?うまくいっていたのに……今度こそ美都夫君の体を頂いてしまえばいいでしょう?)

(そうはいかないよ、彼の場合は若くて将来があるんだから……)


(ですが、あなたさまが乗り移らなければ、洞窟の中で餓死していたのですからね!兄妹共に……。妹が助かるだけでも、美都夫君は本望でしょうに……。)


(妹がいたから……兄を奪えないだろ?俺が完全に美都夫の体を乗っ取って、どうやって接すればいいんだ?すぐにばれてしまうさ……そうなった時にどうすればいい?その上……かわいい妹だったからね、勤勉で性格もいいし……下手したら……というか、数年経ったら間違いなく惚れちゃうよ!体は兄妹でも心は兄妹じゃないんだから。


 その気持ち、どうすればいい訳?


 身近に家族がいる場合は、入れ替わるのはかなり難しいぞ。次は身寄りがないのがいい……もちろん美都夫は生かしておいてくれるんだろ?)


(それは……死ななくて済むように運命が切り替わりつつありますからね……ですが最後のあれは……あのような書き換えは今後絶対にしないでくださいよ!)


(うん?だって……あの方がより確実にしかも早く、ゼロの企みを暴くことが出来ただろ?俺が抜けて万一があっては困るからね。ちょっとだけ後押しさせてもらった。あの程度ではゼロなら言い逃れるかもしれないし、結果は変わらないんだから、問題ないだろ?


 それよりも……おかしいぞ!イチが王子と認められて、それでも王子にならずにサーティンヒルズへ戻った続きからだと思っていたのに、1年経ってゼロの顔写真と入れ墨屋の調査をさせられたんだぞ!ということは……入れ替わったタイミングは、イチが洞窟内で死にかけていた時と同じではないのか?


 イチを生かしたままにしてくれると言っていたはずだぞ!俺が憑りついたおかげとはいえ、何とか生き延びられたんだからな。さらに弟子というか信頼できる仲間まで作ることが出来て……なのになぜなんだ?約束を破るなんて……お前のことを信じられなくなってきた……)


(仕方がないのですよ、あなた様が転生できるタイミングは、あの時しかないのです。ですから当然……時間を戻しましたよ。ですが……約束通りにイチは生きていますよ。それが証拠に、王子と名乗り出たゼロの企みがバレかかって、入れ墨屋の調査になったのではないですか……。


 イチが生きている、まぎれもない証拠でしょ?)


(ああ……そういや……そうだった……。あのクエスト依頼を受けて……なぜ時間を遡ったのかわからずに、イチが生きているかどうか……それだけが気になってしまっていた……確かにそうだな、疑って悪かった。そうか……同時進行だな?イチにも俺が憑りついていたというわけだ。)


(構いませんよ……それに、今のイチにはあなた様は憑りついておりません。一度に2人に憑りつくことは……さすがに許されておりませんし、物理的に不可能ですからね。)


(じゃあどうして?)


(あなた様の言葉は全て、記録されているのです。おっしゃったタイミングで、適正であればその言葉を再生して聞かせています。そのため、あなた様がいた時とほぼ同じ行動をすることになり、同じ顛末を迎える可能性が高いということです。)


(ああ……なるほど……だが、もしイチが違うことを考えたり行動したらどうなる?パラレルワールドということが、起こりえないとは限らないぞ。)


(それは……あなた様の助言が聞こえなくなるだけです……でも仕方がないではないですか……それはそれで、イチの運命なのです。ですが……ここまでは順調に来た様子ですから、恐らく今後も大丈夫でしょう。山場と言える事柄は、大方過ぎておりますからね。)


(まあそうだな……ゼロが限りなく疑わしい証拠も……多少弱いが揃えることが出来たしな。分かったよ……ありがとう……じゃあ次を頼むよ……)


(はあ……ですが……一度だけなら見逃すつもりでおりましたが、次なる転生先をご希望されるということでしたら……言っておきたいことがございます。)


(な……なんだ?)


(魔法の呪文でございます。この世界で得た……イチが子供たちを指導していた時に覚えた回復魔法呪文や攻撃魔法呪文を、転生先の体にお教えすることはご法度とさせていただきます。)


(えっ?なんでだよう……回復魔法の呪文が使えなければ、双葉はきっと死んでいたはずだぞ!)

(ですから……今回だけは見逃しますと申し上げております。次回からはダメです。)


(だから……どうして?イチの時は、血止めのタオルやさらしを持っていたから血止めの方法を教えた。緊急時の救急救命の手順を教える、講習を受けた時の記憶が蘇ってきたからな。あれは問題ないんだろ?何も指摘がなかったからな。)


(もちろんです。ですが魔法の呪文はいけません。生前のあなた様の知識ではございませんよね?あのようなことをする為に転生先選定時の記憶を残せと仰ったのであれば、即刻取りやめさせていただきますよ!何人もの人生を垣間見て、都度知識を蓄え以後の人生を有利に進めようとすることは、フェアではありません。)


(ばかな事を……俺は生きていた時の記憶がないんだぞ!生前の知識も何もあるかい!今は回復魔法も治癒魔法も攻撃魔法だって呪文を覚えているんだ。何も魔法の教本を盗み見て教えている訳じゃない。間違いなく俺の知識だ。使って何が悪い?)


(ですから……転生先選定時に得られた記憶を使うのは、フェアではないと申し上げているだけです。様々な知識を取得するために、あれが気に食わない、これも嫌だ……と言って、次々要求されては堪りません。


 いつまで経っても決まらないではないですか……何度も何度もやり直しをさせられて、付き合わされるこちらの身にもなってください。)


(じゃあ聞くが、生前の俺に魔法の知識がなかったというのは事実なのか?もしかしたら生前から呪文を知っていたのかもしれないぞ……知らなかったとどうやって証明する?そもそも生前の俺は、どんな性格で何をしていた?学生か?仕事をしていたのか?何も覚えていない……時折断片的に記憶がフラッシュするだけだ。


 しかもどうやってお前と関わることになったのだ?俺が生きていた世界とこの世界は大きく違うはずだ……なのになぜ?生前に覚えた知識だけでやれというのであれば、俺の生前の記憶を戻してから言え!どうだ?)


(えっ……いや……はあー……そう来ましたか……まあ、確かに……おっしゃることはごもっともなのかも知れませんね……仕方がないですね。分かりました、お好きにどうぞ。


 ですが魔法の呪文を知っていることで、あなた様の生前の様子を疑われて、転生するべき体を探していることを相手に知られてしまったなら……その場でジ・エンドですからね!いいですね?これが転生先選定時の記憶を残しておく事に対する、絶対条件ですからね!)


(ああ……全然かまわないよ。だから次をよろしく。)

(分りました……色々と条件が厳しくなってきましたね……気に入っていただけるような……そんな都合のいい方がいらっしゃるかどうか……最早自信が……)



続く


これにて第3章終了です。えり好みする心の声に、拠り所は見つかるのでしょうか?注目の第4章は、2週間ほどお時間を頂き再開予定です。ご期待ください。

この作品に対する評価やブックマークの設定は、連載継続の上での励みとなりますので、ご面倒ではありますが、よろしければお願いいたします。また感想などお寄せいただきますと、今後の展開のヒントにもなりますので、こちらもお願いいたします。

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ